天牛(紙切り虫)

私が関心のある、気に入った、「新聞」・「メルマガ」等のニュースをまとめて紹介します。「コメント」は歓迎ですが、「公開」の前に、判断をさせていただきます。

カテゴリ: 新型コロナウィルス関係

日経Gooday

2020/9/20

7月下旬からの新型コロナウイルスの感染再拡大の影響もあり、今年の夏は基本的に自粛生活、リモートワークが続き、体が少し重く感じられた……。そんな人も多いのではないだろうか。最新の研究報告で、コロナ禍における世界各国の歩数の変化が分かってきた。そのデータとともにWHOが推奨する成人・高齢者の身体活動のポイントを紹介する。

米カリフォルニア大学の研究者らは2020119日から61日まで、187カ国の合計455404人の歩数データを、スマートフォンの加速度計と歩数カウント用のアルゴリズムを使って収集し、分析結果を医学学術誌「Annals of Internal Medicine」に発表した。

各国の1日当たりの平均歩数について分析した結果、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症に関するパンデミック宣言を発出した311日から10日以内に世界の平均歩数は5.5%減少し、30日以内では27.3%減少していた。

イタリアの歩数はほぼ半分に、日本も3割減

この研究によると、平均歩数の変化やその速度には、国による大きなばらつきがあった。最も大きく減少したのはイタリアだ。202039日にロックダウンを宣言して以降、48.7%の最大減少を示した一方、ロックダウンはせずソーシャルディスタンスと会合の制限のみを提唱していたスウェーデンは6.9%の最大減少にとどまった。

日本は、韓国、台湾と同様、感染拡大の被害が少なかった分、減少幅は比較的緩やかだった(図1参照)。パンデミック宣言後、宣言前(2020119日から311日まで)の1日当たり平均歩数から歩数が15%減少するまでの日数で見ると、ロックダウンを実施した欧州各国がイタリア(5日)、スペイン(9日)、フランス(12日)であるのに対し、日本は24日だった。しかし、416日から525日までの緊急事態宣言下においては、日本も最大30%程度、歩数が減少している。

【図1】パンデミック宣言前と比べての歩数の変化率

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パンデミック前のベースライン歩数は、各国の2020119日から311日までの毎日の平均歩数で算出。は各国のソーシャルディスタンスの制限開始日、はその解除日を示す。ブラジル、韓国、スウェーデン、台湾、米国は国の命令はなし。フランス:重要なビジネス以外はステイホームを要請。イラン:ロックダウン、重要なビジネスに限り移動可。イタリア:ロックダウン、重要なビジネスに限り移動可。日本:不要不急の外出自粛を要請する緊急事態宣言。英国:継続的なステイホームを要請、重要なビジネスのみ移動可。(Geoffrey H Tison, et al. Ann Intern Med. 2020;M20-2665.を基に作成)

 一方、データを基に身体活動などの変化を分析しているリンクアンドコミュニケーションが東京大学大学院医学系研究科健康教育・社会学分野教室と共同で行った調査によると、緊急事態宣言の前後で、日本人の男性(1238人)では1163歩(8483→7320歩)、女性(2086人)では1100歩(6017→4917歩)、1日の平均歩数が減少していた。さらに、歩数を継続して計測した結果、対象者全体に占める「3000歩未満」の人の割合が、202012月では15%程度だったのに対し、緊急事態宣言期間中の4月は27%、5月は30%程度と、3割弱まで増加していた(図2参照)。

【図2】歩数の分布の変化

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調査対象は、リンクアンドコミュニケーションが提供しているAI健康アプリのユーザー。日本人の1日当たりの平均歩数6322歩(平成29年度「国民健康・栄養調査」)の半分以下である「3000歩未満」を最小グループ、健康日本21の目標歩数9000歩(男性)以上の「9000歩以上」を最大グループとし、全体を4群に分け、期間による変化を分析した。n16,302人。(出典:リンクアンドコミュニケーション)

 緊急事態宣言が解除された67月においても、「3000歩未満」の人の割合は22%、24%程度となっており、わずかに回復傾向にはあるものの、新型コロナウイルスの影響前である12月の水準に比べて、高止まりしていることが明らかになった。

コロナ禍での正しい身体活動とは?

こうした身体活動量の変化以外にも、長期化するwithコロナ生活で、現在、様々な体調変化の懸念が指摘されている。スポーツ庁では、身体活動が不足していることによるストレスの蓄積、体重増加、生活習慣病の発症・悪化、体力の低下、腰痛・肩こり・疲労、体調不良への注意を呼びかけている。高齢者については、これらに加え、転倒や足腰が弱るロコモティブシンドローム(運動器症候群)発症、身体機能や認知機能が低下するフレイル(虚弱)の発症も危惧されている。

では、新常態と呼ばれる生活に入っている現在、どのような指針に沿って身体活動を行うのが正解なのだろうか。WHO西太平洋地域事務局ヘルスプロモーション部門のテクニカルオフィサーであるリッタ・マイヤー・へマライエンさんは、818日に慶應義塾大学日吉キャンパスで行われたオンラインシンポジウム「慶應スポーツSDGs」の特別講演で、「身体活動には健康上の多くのメリットがあるにもかかわらず、高所得や低・中所得の国や州で、身体不活動レベルが高くなっています。今、重要なのは、Move more, sit less(もっと動いて、座り時間は短く)。そして、運動中・前後において、手指消毒、ソーシャルディスタンスを徹底すること。政府の関連当局の指示に従うことが、ウイルス拡大防止に取り組む上でも重要です」とアドバイスしている。

コロナ禍における身体活動について、WHOはより詳細なファクトシート(情報集)もまとめている。それによると、成人・高齢者については、次に記すことがポイントとなるという。

【成人・高齢者の身体活動ポイント】

・熱やせき、呼吸困難症状があるときには運動はしない。
・座り時間を減らすため、仕事中や勉強中、テレビを見るとき、SNS(ソーシャルメディア)の使用時などには、2030 分間に1度、35 分間の短い中断(ブレイク)をとる習慣を。
・立ったり、ストレッチをするだけでもいいが、家の中でも歩いたり、階段を上り下りしたりするほか、家事を活用するのも有効。
・音楽に合わせて踊る、子供と一緒に公園を歩くなど、身体活動時間を楽しむ。
・ヨガなどオンラインでの運動教室に参加するなど、自分なりのルーチンを作る。
・水入りのペットボトルなどの重りを持ち上げるなどの筋トレ、腕立て伏せ、腹筋、スクワットを行う。

(出典:WHO「新型コロナウイルス感染症の感染拡大時も活動的に」日本語版)

成人・高齢者なら「中強度で週150分」をWHOが推奨

とはいえ、一体どのくらいの身体活動を行えばいいのだろうか。WHO2018年、運動不足の人を2025年までに10%、2030年までに15%減らすことを目的に、『身体活動に関する世界行動計画2018-2030GAPPA)』を発表。その中で、世代ごとの身体活動量の推奨量を定めている。

日本運動疫学会の協力を得て、20201月、GAPPAの日本語版を発行した慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科の小熊祐子准教授は、「GAPPAでは、成人・高齢者なら、1週間当たり・自転車やウオーキング、ガーデニングなど中強度の身体活動で150分、もしくは高強度の身体活動なら75分を推奨しています。活動量は多ければ多いほど健康への便益が増えますが、何もしないよりは、少しでもやった方がいい。そして、すべての人に筋トレも推奨されています。少しずつでも始めて、できれば週2回以上行うのが理想」と解説する。

個人の身体活動が社会貢献につながる?

ただ、多忙なビジネスパーソンの中には、体を動かすことが健康にいいと頭では分かっていても「なかなか続かない」という人も多いかもしれない。しかし、身体活動量を増やすことは、自分の健康を守る目的のみならず、実は社会貢献にもつながるとしたらどうだろうか。

あまり知られていないが、身体活動は、国連が定めた2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することが分かっている。「GAPPAによると、身体活動を向上させる政策措置は全部で17あるSDGsの目標のうち、3番目のすべての人に健康と福祉ををはじめ、合計13もの項目に関連しています。座りっぱなしなど不活動な時間を減らし、身体活動を増やすことによって、個々人の健康増進だけでなく、持続可能な環境・社会や経済面で多様な貢献が期待できることを、ぜひ知っていただきたい」と小熊准教授は指摘する。

例えば、車での移動を減らし、歩きや自転車による移動などアクティブな時間を増やす人が増えれば、CO2の排出量が減る。身体不活動の時間を減らすことで、運動不足がリスクとなる様々ながんや、糖尿病などの生活習慣病の罹患(りかん)者は減り、医療費を削減できる可能性もある──。コロナ禍でこれまでの生活スタイルを見直す人が増えている。私たち個人の生活のあり様が環境・社会や経済に波及していくことを今まで以上に想像しながら、一人ひとりの生活に合う形で身体活動量を増やす方法を模索していってはどうだろう。

(文 新村直子、図版制作:増田真一)

[日経Gooday2020914日付記事を再構成]

 

DIAMOND Online(中村未来:清談社)

2020.9.20

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新型コロナウイルスに便乗した詐欺電話が急増中だ。行政などの名をかたり、お金をだまし取る手口が横行している。これは日本国内に限った話ではなく、世界各国でも同様の被害が多発しているという。「コロナ詐欺電話」の手口と、その防止法とは?日本で唯一海外番号も識別できる迷惑電話アプリ「Whoscall」の運営会社のCEO、ジェフ・クオ氏に話を聞いた。(清談社 中村未来)

遠く離れた島国からの詐欺電話が急増中

 新型コロナウイルスに便乗した詐欺が急増したことで、警視庁や厚生労働省から警告を促す文章が発表された。迷惑電話対策アプリ「Whoscall」を運営する台湾のアプリ開発会社Gogolook(ゴーゴールック)では、各国の迷惑電話に関する調査を実施。CEOを務めるジェフ・クオ氏は言う。

「日本では特に、給付金やマスクに関する詐欺電話が急増しています。行政を名乗って『給付金が出る』と言って手数料を要求するものや、マスクを発送するから料金を振り込めなどというものです。また、下水道に付いたコロナウイルスを除去するからその費用を送金しろという例もあります」

 詐欺電話の発信源は大きく分けて3つあり、国内、国外、インターネット電話のいずれかから発信される。その中でも日本では特に、国外からの詐欺電話が増えている。

「発信源を調べてみると、日本からずっと離れた人口の少ない島国だった、なんてこともあります。国外からの電話だと、もし詐欺被害にあっても簡単に追跡ができない可能性があります」

 国外からの発信が増えているということは、今までよりも強い危機感を持つべきということなのだ。

迷惑電話の内容は国によって千差万別

 実は、こうした事例は日本国内に限った話ではない。海外でもコロナに便乗した詐欺電話が多発しているのだ。

「イギリスでは、王室や政府から給付金が出るといった詐欺電話の事例があります。アメリカでもトランプ大統領の政策に関連した詐欺が報告されています。南アフリカでは、お金がウイルスに感染したから除染する必要があるなど、コロナに便乗した詐欺電話は世界中で問題になっているのです」

 Whoscallでは、今年の17月で電話、ショートメール(SMS)を使った詐欺被害の件数が約14000万件報告されている。去年の同時期に比べておよそ50%増だ。

 詐欺電話の全てがコロナに関連しているわけではないが、人々の心が不安定な状態のときに詐欺は増えると言われている。従って、コロナの感染拡大と詐欺電話の増加には何らかの関連性があると思っていいだろう。

また、気を付けるべきは詐欺電話だけではない。まったく身に覚えのない企業から着信があり、営業をかけられるという経験を持つ人は少なくないはずだ。こうした勧誘を目的とした迷惑電話も世界中で発生している。

「弊社の調査では、日本では不動産関係の迷惑電話が多いという調査結果が出ています。家の購入や、新築マンションを建てないかといった勧誘に関する営業電話です。不動産の迷惑電話が来るのは日本くらいで、ほかの国ではあまり聞かれません」

 台湾では結婚相談所の勧誘やローンを勧める電話、香港では美容やフィットネスへの入会勧誘、ブラジルでは借金返済の催促をする電話など、迷惑電話には国ごとに特徴があるようだ。

普及しないセキュリティーサポート その理由は?

 消費生活センターの発表によると、2020416日時点で、コロナ詐欺相談は15000件を突破した。コロナ詐欺に関連する検索数も急上昇しており、人々の関心は高い。にもかかわらず、詐欺電話・迷惑電話への具体的な対策法は、「とにかく気を付ける」というような精神論頼みだ。Whoscallのようなセキュリティーサービスは日本にもすでにあるが、それらの認知率はたった20%弱しかない。(Whoscall調べ)

「詐欺に関して、誰もが『自分だけは大丈夫』と思い込み、危機意識がとても低いというのが実情です。セキュリティーサポートなどを使った対策法が認知されにくいのはこうした理由からです」

 しかし、昨今のセキュリティーサポートは、かなり進化している。台湾で誕生したWhoscallもその1つだ。10億件以上の電話番号を巨大なデータベースで管理し、身に覚えのない電話番号を識別できるようにしている。さらに、高度なAI(人工知能)技術を用いて詐欺の手口を分析・予測し、不審な電話番号をフィルターにかけることで詐欺電話・迷惑電話を回避することができる。

「日本の方は、見知らぬ番号から電話が来るとその番号をネット検索して調べることが多いと聞きますが、Whoscallを導入すればその必要がなくなります。台湾国内では警察、金融行政機関と提携することで、詐欺電話・迷惑電話の被害防止を促進しています」

 とはいえ、電話番号は無数にあるため、いくらアップデートを重ねても、いたちごっこになってしまうのではないか、という疑問も浮かぶが…。

「たしかに電話番号は無限です。そして、残念ながら詐欺グループが完全になくなることもないため、どれだけセキュリティーを強化しても100%防ぐことはできません。それでもセキュリティーを入れることで被害を最小限に食い止めることは可能です」

 Whoscallは今後、日本市場への進出を視野に入れている。日本では高齢者を狙った詐欺電話が頻発しているが、多くは携帯電話ではなく固定電話にかかってくる。そこで、電話機メーカーと協力して固定電話にWhoscallを導入できるようにしていく考えだという。

「台湾市民は、2人に1人がWhoscallを利用しています。PR活動に力を入れているのはもちろんですが、最も影響力を持っているのは、ユーザーの口コミです。ユーザーが増えることはすなわち、個人の詐欺電話・迷惑電話への危機管理が高まっていることの証拠でもあります」

 詐欺電話・迷惑電話を未然に防ぎ、本当に必要な電話にだけ対応する。電話の主導権を持ち主に返すことが、Whoscallをはじめ、セキュリティーアプリのこれからの課題だという。

 

DIAMOND Online(姫田小夏:ジャーナリスト)

2020.9.18

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感染拡大を封じ込めたと言われる大連市内の様子(写真:林慎一郎氏提供、以下全て同)

先月、ある日本人男性が中国出張で、2週間の隔離生活を余儀なくされた。新型コロナウイルス封じ込めのための中国の隔離政策はあまりに有名だが、果たして日本人にとってどんな体験だったのか。不慣れな日本人には克服しがたいその壁と、過酷な隔離生活の実態をリポートする。(ジャーナリスト 姫田小夏)

中国出張者が明かす、大連14日間の隔離生活

 「大連の子会社のスタッフが買ってきてくれたペットボトルの『お~いお茶』を一口飲んだとき、『これでやっと隔離が終わったんだ』と感無量でした」

 日本の上場企業で国際部長を務める林慎一郎さん(56歳)は、“大連での隔離明け”の心境をこう語った。

 820日、成田空港からJAL便で大連に渡った林さんは、その場ですぐにホテルに移動させられて隔離生活に入った。事前情報は乏しく、体験することの多くが想像を超えたものだった。その厳しい隔離生活は93日まで続いたが、隔離明けから2週間が過ぎた今、「これから中国にやって来る日本人のために」と、その状況をつぶさに語ってくれた。

 その日、日本人乗客23人と中国人乗客210人を乗せたJAL829便は、1145分に大連周水子国際空港に到着した。機内に乗り込んできた防護服姿のスタッフによる体温測定が終わると乗客らは降機し、空港ターミナルに誘導された。問診票を記入し、PCR検査を受けるという一連の流れを経て、ようやく荷物をピックアップするターンテーブルにたどりついた。

 着陸からの所要時間は、ざっと2時間だった。その後、同乗していた日本人23人は同じバスに乗せられ、「こちらの方がおすすめ」だという現地係員の案内に従い、1500元(1元=約15円)のリゾートホテル「聖汐湾度假」に向かった。ここまでの流れは事前に理解していたとはいうものの、林さんは「降機から3時間、コンビニに立ち寄る時間さえも与えられず、1滴の水さえ飲めない移動だった」と振り返る。

 1450分にホテルにチェックインすると、パスポートのコピーを取られ、その後、中国の通信アプリ「ウィーチャット」を使って、今まで同行していた日本人同士がグループチャットを組むようにと指示された。

 「このウィーチャットは、ホテル側(実際は当局)からの連絡と、宿泊客の12回の体温の報告に使います。同じグループの日本人の中には『ウィーチャットの利用は初めてだ』と申し出る人がいるにもかかわらず、使い方も教えてくれないので、最初は皆が混乱しました」

 そして、ホテルで渡されたのは、なんと「水銀式の体温計」だったという。中国ではなんでもハイテク化していると聞かされてきた日本人は、ここでも意表を突かれた。その後、部屋に入ると、それ以降は室内から出ることは厳禁とされ、8時、12時、18時の13回、弁当が扉の外に置かれる生活が始まった。

まるで独房のような経験

 中国との往来はかれこれ14年目という林さんも、13回の中国式弁当「盒飯(フーファン)」にはさすがに耐えられなかった。緑豆(りょくとう)をまぜて炊いたご飯、粟を炊いたような雑穀のおかゆ、昆布の炒め物やキュウリの漬物…。肉類はお情け程度についてくるだけで、まるで僧侶の粗食だ。いまどき、この手の弁当でも分厚い肉が入っているのが定番であり、地元の人でもこれは「勘弁」だろう。林さんはカップラーメンと缶詰を持参していたが、それも尽きると最後は「ご飯にふりかけ」でしのぐしかなかった。

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日本人にはなじみのない昆布の炒め物の入った弁当

 弁当には生野菜がつかないので、林さんは現地子会社の従業員に頼んで野菜ジュースを差し入れてもらった。外部からの差し入れは許可されたようだが、ホテル側に「毎日は困る」と言われ、週2回程度ということで目をつぶってもらった。

 室内での生活は、大小2枚のタオル(2週間これを使い続ける)を与えられるだけで、洗濯も掃除も自分で行わなければならない。そこで、もはや中国渡航の必需品となった使い捨て除菌シートが活躍した。洗濯は脱水するのに苦労した。

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                                    「肉っ気なし」は地元民も「勘弁」だ


「文庫本を20冊ほど持参したので、前半の1週間はまだなんとか耐えられましたが、それを読み終わってしまった後半はどうにも時間をつぶすことができない。NHKの衛星放送すら受信できませんから。13回、ピンポンとベルが鳴って弁当が届けられるだけで、あとは携帯電話に着信するグループチャットを、うつろな目で見ているしかないんです。ホテルの前には警察車両が横付けされ、監視カメラとともに隔離中の利用者をじっと見守っている。途中で逃げ出せば、さらに7日間の隔離が追加されます。これはまるで、刑務所の独房にいるかのような経験でした」
 

中国に渡航しなければならない“喫緊の理由”

 14日間のホテル代の合計は7000元(約105000円)、それ以外に血液検査とPCR検査費用として238元(約3570円)がかかった。ホテル側からは「検査費用は現金で、ホテル代はQRコードで支払うように」と指示された。

 林さんは日本でウィーチャットペイを登録していたが、中国では利用できなかった。また、林さんと同じ便に搭乗した日本人の中には“ガラケー”(ガラケーの宿泊客に対してはスマホが貸与された)しか持っていない人や、中国生活に不慣れな人もいて、とてもQRコード決済などできる状況ではなかった。空港で人民元に交換する時間もなく、ホテルに連れてこられたわけだが、最終的にはクレジットカード決済で難局を乗り切ったという。

 それにしても、このようなリスクを冒してまで中国に渡航しなければならない“喫緊の理由”とは何だろう。林さんは次のように語っている。

「私の場合は、責任者のサインがないと業務が滞るというので、急遽、渡航を計画しました。コロナ禍で、税関手続きに必要な書類の月末締めのサインを8カ月分も遅らせてきたのです。総経理(日本でいうゼネラルマネジャー)、董事長(日本の取締役のような立場)という役職に就きながらも日本に滞在している人も少なくありませんが、こうしたケースでは、印鑑を持って本人が中国に移動しなければ会社が回らなくなってしまいます。恐らく、中国に不慣れな日本人も少なくないのは、こうした事情もあるからでしょう」

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                                 14日間の隔離生活を送ったリゾートホテル

 ちなみに林さんによれば、現段階で入国できるのは「法人を活性化させるための目的に限られる」という。

 よほど豊富な中国経験を持たない限り、この“中国式隔離生活”はのっけから地獄を見る思いだろう。こうしたこともあってか、ホテルに滞在した日本人は次に来る日本人のために、改善点を要求してここを去るのだという。爪切りや歯磨き粉がホテル内で購入できるようになったのもそのためだ。林さんも早速、食事の改善を遼寧省の外事弁公室(国際交流を担当する部署)に申し入れた。

長かったのは成田空港までの道のり

 実は、林さんの中国渡航における困難は、日本を出発する以前から始まっていた。まずはビザの申請だ。今回の中国入国に際して、90日のMビザ(商務貿易ビザ)を申請したのだが、それには省レベルの外事弁公室が出すバーコード付きの招聘状が必要になる。申請は、日本商工会の組織である大連商工会を通じて手続きを行う必要があった。通常、現地の企業が必要とする人材には企業が発行する招聘状で事足りたが、コロナ禍においてはこれが通用しないようだ。

 招聘状が下りたのちに航空機を予約するという段取りになるが、これも毎月下旬に中国当局が発表する翌月の就航予定にも注意しなければならない。突然キャンセルされる便もあるからだ。

 状況の変化に応じたルールの変更も少なくない。すでに中国大使館は「2020925日(25日当日を含む)から、日本から中国へ渡航する中国籍および外国籍の旅客に対し、搭乗手続きの際は、3日以内(発行日を基準とする)の新型コロナウイルスPCR検査陰性証明が必要になる」と伝えている。林さんは今回の渡航で、日本でのPCR検査が「急に義務化するかもしれない」と用心し、証明書日付が出発前の818日になるよう、同月14日にPCR検査を済ませていた。彼は隔離前後も含めて合計3回PCR検査を受けた計算になる。

 隔離生活を終えた林さんを迎えたのは、再会を喜ぶ現地の友人や従業員らの熱烈な「ハグ」だった。「おいおい、ちょっとそれは」と林さんはたじろいだが、大連市民はまったく意に介していなかったという。今年7月下旬から再び新型コロナウイルスが流行した大連市では、市民全員を対象にPCR検査を実施したのだ(916日の時点で新規感染者はゼロとなっている)。

 PCR検査とアプリのヘルスコードによる管理、ほぼこの2点のみで感染を封じ込めようとするのが中国だ。人口大国の中国では、生活の差や教育の差など、あらゆる格差が大きいため、日本のような「自主管理」に期待するのは難しい。中国政府の強制措置には反論もあるが、「安心感は結果として経済回復に大きな作用をもたらしているんですよね」と林さんは語っていた。

 

ビジネスパーソン700人調査(上)

日経スタイル(日経転職版編集部 宮下奈緒子)

2020/9/12

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                                  リモートワークの導入は転職を検討するきっかけにもなった(写真はイメージ) =PIXTA

 
転職への関心が急速に高まっている。きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だ。就職・転職支援の日経HR(東京・千代田)が実施したアンケート調査では、約6割が「転職への関心が高まった」と回答。コロナ禍に伴う需要減などで、現在の勤め先や業界の成長性を不安視する層に加え、在宅勤務をはじめとする新しい働き方を実践しやすい職場を志向する人が多かった。ただ、今後の転職活動については約8割が「非常に厳しくなる」と悲観的な見方を示した。

このアンケート調査は日経HRが「日経キャリアNET」登録会員を対象に、2020730日から87日にかけて実施した。有効回答数は735人。

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新型コロナウイルスの感染拡大後、転職を意識する人が増えた

 非常に高まった 35

少し高まった 22
変わらない 36
少し低くなった 5
非常に低くなった 1
その他 1


コロナ禍を経験して転職への関心について変化があったかを聞いたところ、「非常に高まった」が
35%、「少し高まった」が22%で、合わせておよそ6割となった。転職意向の高まりを年代別で見ると、20代(61%)と40代(62%)が、30代と50代(ともに54%)を上回っている。「非常に低くなった」(1%)、「少し低くなった」(5%)は合計しても1割に満たず、今回の調査からは、コロナが総じてビジネスパーソンの転職意欲を引き出す方向に作用したといえそうだ。

「転職意向が高まった」理由としては、現在の会社や業界の将来への不安や、在宅勤務ができなかったり働き方改革の速度が遅かったりする会社に対する不満が多く示された。「リモートワークできる会社に転職したい」や「多様な働き方ができる職場に魅力を感じる」など、柔軟な働き方を希望する意見が目立った。自粛期間をへて、働き方やキャリアについて見つめ直す時間が増えたことによって、在宅勤務や副業が可能な新しいキャリアを模索するようになった人も多いようだ。

自由回答から透けて見える、勤め先への「がっかり感」

アンケートに含まれていた自由回答を分析すると、転職する気持ちが強まった人たちが勤め先に不満を募らせている様子が読み取れる。いったんはリモートワークを採用したのに、しばらくたって出社が基本の旧スタイルに戻したケースも少なくないようだ。

【自由回答】

非常に高まった
・業界が苦しい(51歳男性、ホテル)
・自社の、働き方を変えようとする意識の低さに嫌気がさした(36歳男性、銀行)
・常時リモートワークできるところで働きたい(28歳女性、メーカー)
・コロナですら変われない会社を見て、見切りをつける最後の一押しになった(34歳女性、生保・損保)
・自宅で自分を見つめ直す時間があり、転職のリサーチに使えた(54歳女性、IT


少し高まった
・在宅勤務を推奨しない会社に危機を感じる(45歳男性、IT
DX(デジタルトランスフォーメーション)や働き方改革を推進できる絶好のチャンスだったのに、意識も仕事のやり方もコロナ前に戻ってしまった会社の姿勢に疑問を持った(58歳男性、紙パルプ)
・緊急宣言の解除後、在宅勤務できる雰囲気になっていない(30歳女性、化学)


変わらない
・コロナの影響が少なく給料など変わらない(28歳女性、建設関連)
・コロナに関係なく、転職意思が固い(42歳女性、コンサルティング)

転職意向が「非常に高まった」「少し高まった」と回答した人に、転職に向けて具体的に始めたことがあるかを尋ねたところ(複数回答)、「転職サイトに登録した」が64%、「履歴書・職務経歴書を作成した」が42%、「人材紹介会社に登録した」が35%となったほか、「業界・企業に関する情報収集を始めた」(22%)、「自己分析・キャリアの棚卸しをした」(20%)、「仕事に必要な知識・スキルアップの学び直しを始めた」(16%)が続いた。

転職への関心が高まる半面、転職市場の先行きについては厳しい見方が大勢を占める。「今後の転職活動がどのようになるとみているか」を聞いたところ、「非常に厳しくなる」が44%、「やや厳しくなる」が33%と、8割近くが先行きの厳しさを予想した。「非常に楽になる」と回答した人はおらず、「やや楽になる」も1%にとどまった。

リモートワーク・在宅勤務を転職先選びで重視

転職先を選ぶ基準については、「給与・待遇」(80%)に続き、「働きやすい制度(リモートワーク・在宅勤務など)」(44%)との回答が多かった。「休日・休暇」(38%)や「福利厚生制度」(21%)といったワークライフバランスに関連する項目が上位に並んだほか、「副業が可能」を挙げた人が5%に上り、リモートワーク希望者と合わせ、新しい働き方を志向するビジネスパーソンが増えている兆しとみてとれる。

前回(20202月)の調査では、「働きやすい制度(リモートワーク、育休など)」は13%で8番目だった。3つまで選択可能(今回5つまで)にしていたほか、「働きやすい制度」の選択肢にリモートワークや育休などをまとめていたため一概に比較することはできないものの、リモートワークを重視する層が大幅に広がっているとみられる。

「新しい働き方」のなかで、今後挑戦してみたいことを聞いたところ(複数回答)、「リモートワーク・在宅勤務」が52%でトップ。そのほか、「副業(所属組織で働きながらの形態)」39%、「副業(所属組織と異なる組織で働く形態)」35%と、副業への関心の高さがうかがえるほか、「週休3日など休日が多い働き方」(34%)、「フリーランス・個人事業主」(19%)、「地方都市への移住」(16%)、「起業」(16%)など様々なタイプの「新しい働き方」が注目を集めているようだ。

年代別の比較で、「リモートワーク・在宅勤務」は20代(61%)、30代(60%)、40代(57%)と差はなかったが、50代は43%と他の年代に比べて低かった。副業に関しては、所属に属すか属さないかで年代に差が出た。「所属組織で働きながらの副業」は20代(52%)が高く、30代、40代、50代は、それぞれ41%、38%、37%。「他社で働く副業」については、30代(37%)、40代(33%)、50代(37%)が高く、20代は21%と低かった。「地方都市への移住」は20代と30代が21%、40代と50代が15%と差が出た。

転職に向けてすでに活動していた人を対象に、コロナによって自身の活動に変化があったか、という質問への回答では「以前と変わらないペースで続けている」が52%で最多だったものの、「一時停止したがその後再開した」(12%)、「転職すべきか迷うようになった」(11%)、「活動を停止した」(7%)など何らかの影響を受けた層も3割に達した。

転職活動における「ニューノーマル」ともいえる電話やウェブによる「リモート面接」については約4割が「受けたことがある」と回答。「リモート面接で採用担当者に言いたいことや気持ちを伝えることができたか」という質問には6割程度が「そう思う」とした半面、「対話がぎこちなくなる」「相手の表情が分からずコミュニケーションがとりづらい」など実際に会わずに自分の言いたいことを伝える難しさを感じている人もいた。

DIAMOND Online(小堀晋一:在バンコクジャーナリスト)

2020.9.15

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タイでアパレルショップを経営していた田中翔さん(仮名)の葬儀が行われたワットタートトーン寺 写真:小堀晋一


依然として感染拡大が続く新型コロナ。各国は自国へのさらなる侵入を防ごうと、感染国からの入国を拒絶したり、入国者には
2週間以上の強制隔離を義務づけるなど水際での対策強化を続けている。こうした対応によって増えているのが、親族や親しい友人の最後に立ち会うことのできないといった悲しい別れだ。タイでも自身がトランスジェンダーであることを公表した日本人男性が、バンコクで孤独死。日本にいる家族は入国することすらできなかった。男性は遺族の了解を得て現地で荼毘(だび)に付され、本人の希望によって現地の川に散骨された。コロナの影響はこんなところにも暗い影を落としている。(バンコク在住ジャーナリスト 小堀晋一)

取材した日本人が翌月に突然死

「しょう君と連絡が取れないの。今日、Zoom飲み会を開こうって言っていたのに。何かあったかもしれない。心配なので、見てきてくれませんか?」

 筆者に元に日本の知人女性から連絡があったのは、831日午後9時近く。午後5時(日本時間午後7時)から無料アプリZoomを使って、日本とタイを結んで「ネット飲み会」を開催することになっていたのだが、連絡がつかないというのだ。

 優しくて、寂しがり屋のしょう君。こんなこと、今まで一度だってなかった。LINEのメッセージも既読にならず、女性は思いつくまま友人知人に、手当たり次第に尋ね回っていた。

その結果、この日、安否確認を頼まれた人物が自宅マンションの居間でうつ伏せの状態で倒れているのを発見し、警察に出動を要請したことが分かった。

 筆者も慌てて現場マンションへ。ところが、オートロックで厳重にセキュリティー管理されており、エレベーターに乗ることすらできない。15分ほど右往左往していたところへ、やっと警察官が姿を見せた。だが、「もう死んでいる。この後は解剖だ」と言葉少なに話すだけだった。

 亡くなった男性は、812日付のダイヤモンド・オンライン記事『同性婚を認めたタイで盛り上がる「新たなビジネス」への期待とは』で、自らの思いとビジネスへの提言を訴えてくれた田中翔さん(仮名)。あの取材から1カ月もたっていなかった。

 未明に警察病院に運ばれた田中さんの遺体は、監察医によって死因特定のための解剖が行われた。体内の組織を採取するなどして下された結果は心筋梗塞。30日の食後に倒れたらしい。室内には、まだ片付けていないグラスや食器が残されていた。

 悲報は友人らを通じて、翌朝までに日本の遺族や在タイ日本国大使館にも報告された。日本側では田中さんを慕っていた妹が窓口となり、悲しみに暮れる母親ら他の親族にも伝えられた。

強制隔離により遺体と対面できず

 人懐っこく、おしゃべり好きの田中さん。前日も妹と連絡を取って近況を交換した後は、親しい友人と午前3時まで長電話を楽しんでいた。倒れたのはその後だったことも、だんだんと分かってきた。

 連絡を受け、妹ら家族はタイへ渡航できないか検討を行った。

 ところが、折からの新型コロナのまん延でタイの国際線は厳しい制限下にあり、航空機の予約も在京タイ大使館の許可を得なければならないため、搭乗できる航空機はすぐには見つからない。

それに、仮に搭乗できたとしても、タイ入国後は政府が指定した施設で2週間の強制隔離が義務づけられていた。

 例外は許されない。熱帯の環境下で遺体を2週間以上も保存することは現実的ではなく、遺族らは現地で荼毘に付してもらう方法を選んだ。

 バンコクのエカマイ地区にあるワットタートトーン寺。田中さんが運ばれた葬儀寺だ。タイの慣習なのだろうか。通夜は3日間にわたって行われた。寺の一番奥にある10号棟が斎場だった。

 親しかった友人らが次々と訪れては焼香をしていく。繰り広げられる思い出話の中で、バンコクでアパレルショップを経営する田中さんが、倒れた30日昼には東部チョンブリ県シラチャで行われたイベントに参加していたことも分かった。

 現地で開かれた「親子で楽しめる唐揚げ大会」。ここに協賛企業としての出展をしていた。「こういったイベントには積極的に協力していた」(友人)という田中さん。賞品のオーダーシャツを見事射止めた小学1年生の男児への採寸が最後の仕事となった。

 葬儀は95日土曜日に執り行われた。午前10時からの読経の後、正午少し前に隣接された火葬施設で荼毘に付された。翌6日には、タイの沃野を南北に貫く大河チャオプラヤー川を走る船上から、親しい友人らによって最後の別れとともに遺骨が流された。

遺族が迫られる3つの選択

 在タイ日本国大使館によると、田中さんのようにタイで死去する日本人はここ数年、年間150人前後で推移しており、その多くが急性疾患などによる病死なのだという。

 家族とともにタイに滞在している人、単身だが日本に家族がいる人、タイにも日本にも実質的に身寄りのいない人など事情はさまざまといい、いずれのケースにおいても大使館が事実上、最終的な窓口になる。

これは、現地警察が発行する死亡登録証に、日本国大使館作成のレターが必要とされているためだ。登録証がなければ、生命保険金の申請もできないし、タイにおける各種さまざまな契約の解除などもできない。

 レターの作成と同時に大使館の担当者は、日本にいる遺族に対し、(1)遺体を直接日本に搬送する、(2)タイ国内で荼毘に付してから遺骨を日本に送る、(3)タイで荼毘に付しそのまま現地で散骨するといったおおむね3つの中から、その意向を確認する。

 遺体をそのまま航空機で搬送する場合は、航空会社の協力が不可欠となる。荷が大きくなるうえ、他の乗客の理解も必要なため、一般の受託手荷物とは異なった対応をしなくてはならない。

 加えて料金は、「目が飛び出るくらい高額になる」(大使館関係者)。このため、実際に運用されるのは、要人かテロの被害に遭ったなど遺体を日本まで運ばなくてはならないといった特殊事情に限られるという。

 タイ国内で荼毘に付してから遺骨が日本に戻る事例では、これまでも遺族がタイまで受け取りに来ることが多かった。この時、外務省では日本を出国する遺族に対し、最短での旅券の発行を行うなどの便宜を図ることにしている。

 田中さんのケースでも当初はこれが検討されたが、コロナ禍にあって最終的に断念された。このため、タイにも日本にも実質的な身寄りのない人たちと同様に、現地で火葬されチャオプラヤー川に散骨する道が採られた。生前、田中さんはその方法を望んでいた。

 タイに居住する人の中には、何らかの事情によって日本の親族と没交渉となっている人も少なくない。親族が遺骨の引き取りを拒むようなケースでは、大使館は物故者が生前に周囲に語っていた意向などを参考にしながら、散骨や寺への納骨などを行っている。

親族が亡くなったのに帰国できないケースも

 コロナの影響で遺族が越境できず、最後の別れに立ち会うことができないのは、海外で死亡する事例だけにとどまらない。

 コロナ禍から間もなく半年。日本企業が数多く進出するタイでは、現地駐在員の親族が日本で亡くなったのに帰国できないというケースが多数生じている。

 自動車部品メーカーのタイ駐在員の男性は2カ月前、日本で実父が亡くなった。長く患ってきたがんが死因だった。危篤の連絡を受け、日本に一時帰国するか検討したところ、日本では入国時のPCR検査に加え2週間の自宅待機。さらにタイに戻ってからは、より厳しい2週間の強制隔離があることを知った。

 単純に足し算するだけでも1カ月以上。忌引とはいえ、それだけの長期休暇を会社に申請するわけにもいかない。まして、PCR検査で陽性ともなれば、影響は甚大だ。結局、男性は帰国を取りやめ、親族に頼んで葬儀の様子をSNSで視聴することで実父との別れに臨んだ。

 こうしたことは、何もタイに限ったことではない。ドイツのデュッセルドルフに駐在する大手化学メーカーの日本人男性は、5月に日本で実父が死去。当時、日本では新規感染者が減少傾向になりつつあったとはいえ、第2波が懸念されていた。

 このため男性は帰国を断念。1カ月以上経過してから一時帰国し、ようやく亡き父の墓前に手を合わせることができた。ドイツはタイほどの厳格な入国制限措置を講じていない。自宅隔離の最中に保健所から照会があっただけで、現在は仕事に復帰している。

 人望の厚かった田中翔さんの葬儀には、親交のあった日本人や取引先のみならず、多くのタイ人の友人知人らも参列した。斎場の寺では南国の鮮やかな色とりどりの花が飾られ、故人の旅立ちを見守った。

 SNSでその様子を見た日本の友人は静かに言った。

「しょう君、皆とワイワイするのが大好きで、派手好きでもあったから。もう、寂しくないね」

 

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