天牛(紙切り虫)

私が関心のある、気に入った、「新聞」・「メルマガ」等のニュースをまとめて紹介します。「コメント」は歓迎ですが、「公開」の前に、判断をさせていただきます。

カテゴリ: 農業関係

時事通信

2020/9/18

 菅義偉首相肝煎りの政策の一つが、農林水産物・食品の輸出拡大だ。少子高齢化で国内市場の縮小が避けられない中、海外に活路を見いだすのが狙い。政府目標は2030年に5兆円。19年実績の5倍超に当たる野心的な数字に、本当に実現できるのか自民党内でも不安の声が漏れる。

 

 政府は今年3月、農林水産物・食品の生産額50兆円のうち10%は海外市場に回すとの考えに基づき目標を設定した。野上浩太郎農林水産相は17日の就任記者会見で「海外需要に応えるため商談などの支援を行う」と述べ、達成に意欲を示した。  日本産品の主な輸出先は香港、米国などで、和牛や日本酒、ホタテが人気だ。ただ、19年に1兆円を目指していたが、結果は9121億円にとどまった。今年16月の実績は新型コロナウイルス流行の影響で前年同期比82%減の4120億円、年間で19年を下回る見通しだ。

 

 自民党内では疑問の声が相次ぐ。ある農林族議員は「2兆~3兆円でも難しいのに5兆円は無理だ」とこぼす。別の議員は「5兆円(の金額)ありきで政策論が進んでいる」と批判する。  推進役を担う農水省では、輸出担当部署を国際担当と統合して局に格上げし、予算や人員を集中投入する案が浮上している。コメや牛肉をそのまま輸出せず、「日本酒や食品に加工して付加価値を高めることで輸出金額を大幅に引き上げるしかない」(政府関係者)との指摘もある。

 

 東京電力福島第1原発事故に伴い、韓国など19カ国・地域がいまだに日本産食品の輸入を規制。コロナ禍もあり海外市場の開拓は容易ではない。農水省は19年にコメ輸出10万トンの目標を掲げたが、未達のまま。農政の信頼性が問われている。 

 

MONEY VOICE(田中優)

2020917

 

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地球温暖化の解決を考えるとき、二酸化炭素だけに目が行きがちだ。しかし、化学肥料に含まれる亜酸化窒素を削減することも長期目線では必要となる。そしてさらに、アメリカ型の大規模農業・アグリビジネスと決別し、日本の農業を変革することが地球環境全体の改善につながっていく。(『
田中優の持続する志(有料・活動支援版)』)

化学肥料をやめれば温暖化解消に繋がる?

当メルマガの読者さんから以下のような質問をいただきました。大事な内容を含むので、せっかくですからメルマガでお答えしたいと思います。質問は以下の通りです。

温室効果ガスについての質問です。

温室効果ガスとしては、一般にCO2が大きな原因とされています。一方、亜酸化窒素はCo2300倍の温室効果があるとのことで、この主な排出源が農業で使われている化学肥料(窒素)で、化学肥料の使用をやめるなり減らせば、温暖化に大きく貢献(ほぼ解決できるかも)できるという意見があります。

一般的に考えて化学肥料は地球規模で使われているので、こちらに焦点を当てた削減活動の方が大切なのではとも思えます。使用量か削減効果についての詳細は分からないので、Co2との単純比較はできないですが、優さんの方で把握されている情報があればその公開なり、これから分析できる可能性があるのかどうかお聞かせ願いたいと思うのです。

まずは確認しましょう。「亜酸化窒素はCo2300倍の温室効果」があるのは、正しいでしょうか。

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出典:全国地球温暖化防止活動推進センター

 

上図の通り、「温暖化係数」は二酸化炭素を「1」としてその倍数で示しますが、一酸化二窒素(亜酸化窒素)は「298」ですから、正しいです。このデータは、「一般社団法人 地球温暖化防止全国ネット」からの引用で、「地球温暖化対策の推進に関する法律」にもとづいて設置されたものです。データは信頼できます。

そして 「海洋や土壌から、あるいは窒素肥料の使用や工業活動に伴って放出され、成層圏で主に太陽紫外線により分解されて消滅する」もので、大気中での寿命は121年と長く、成層圏で紫外線に分解されるまで存在するので、厄介なガスであることは確かです。

一般的な使用に「肥料」があるのは確かです(主要な化学肥料は窒素・リン酸・カリウムです)が、それだけでなく、「化石燃料燃焼、バイオマス燃焼、農耕牧畜、土地利用変化、汚水など」の工業活動からも排出されています。

この経年推移を見ると、毎年増え続けているのは確かで、対策が必要です(下図参照)。

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青色は月平均濃度。赤色は季節変動を除去した濃度。出典:一酸化二窒素濃度の全球平均経年変化気象庁

 

化学肥料に使われているのは膨大ですし、身近な問題です。

 

化学肥料が農作物を弱くする

この化学肥料に使われるのは、戦後の食料増産を目指した「緑の革命」以来で、それは多くの問題を起こしています。

過剰に散布された窒素は、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素という形で水質を汚染し、飲料水などに多く含まれていると、血液の酸素運搬能力を阻害する「メトヘモグロビン血症」を引き起こして、海外では乳児が死亡した例もあります。人の健康を害するおそれがあることから、平成112月に水質環境基準健康項目に追加されるようになり、平成137月から水質汚濁防止法に基づく排水規制も実施されています。


参考:硝酸性・亜硝酸性窒素による地下水の汚染について環境生活部環境局循環型社会推進課北海道

 

それ以上に私が問題だと思うのは、化学肥料を与えすぎると植物が自分で容易に得られるため、根の周りを覆っている菌根圏の菌類に集めてもらわなくても根が自分で集められるようになり、「菌根圏を弱くしてしまう」ことです。

植物にとって、せっかく作った炭素などの栄養の半分を土壌微生物に与えていますが、それを「不必要だ」と感じ始めてしまうのです。すると根は、炭素や糖分を菌根菌に与えなくなり、結果的に土壌に炭素が蓄えられなくなりかねないのです。

土壌には木材の持つ炭素の5倍もの量の炭素が蓄積されています。それをしなくなれば、より土壌微生物はいなくなります。地球温暖化だけでなく、肥沃な土壌の劣化を招きます。これが怖いのです。

温暖化解決のキーマン「土壌と森林」が弱ってしまう

今の二酸化炭素排出の問題も、解決に向かわせてくれているのは「 土壌と森林 」です。

二酸化炭素の排出を削減できたら、次にしなければならないのは二酸化炭素の吸収です。そこに最も重要になるはずの「土壌と森林」が、先に壊されてしまうかも知れないのです。

そこから考えても「土壌と植物」を結び付けている菌根菌の存在は、最も重要な機能なのだと思います。

亜酸化窒素だけを減らしても解決しない

ただし、亜酸化窒素だけを排出しなくなっても、地球温暖化は解決できません。

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出典:気象庁


現状の地球温暖化を進行させているガスは、
75%までが二酸化炭素(上図では化石燃料由来と土壌改変や森林破壊などに分けて表示している)によって占められています。亜酸化窒素は全体の6.2%を占めるのみで、それ単独では温暖化防止はできないのです。

亜酸化窒素の悪影響は121年も続く

そして、亜酸化窒素に特徴的なのは121年という長期の影響です。この長寿な温室効果ガスの影響も考えられています。

地球温暖化係数は、20年、100年、500年と異なるタイムスケールの設定に基づいた数値が発表されています。それぞれの温室効果ガスの寿命が異なるため、残留期間を考慮に入れると、数値が異なってくるのです。ただ、一般的に使用されているのは、100年間の影響を考えた場合の数値です。

出典:4-5 地球温暖化係数(GWP;Global Warming Potential)について知りたい – JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

一般的にみられるグラフは100年間の影響と言われても、人間の生命からはちょっとピンときません。さて、どう考えたらいいのでしょう。

つまり、CH4HCFCなど(短命な温室効果ガス)の対策は、この急激な気候変動を抑制するのに効果的といえます。一方、N2OCFCPFCSF6の及ぼす温暖化は長期にじわじわと現れるので、将来の地球の気候に及ぼす影響が大きくなります。海面上昇や大規模な氷床の変化は、今後何世紀にもわたる気候変動がもたらす影響ですから、今のうちにこれらの寿命の長い温室効果ガスの削減を進めなくては、将来に禍根を残すことになります。

出典:温暖化の科学 Q10 二酸化炭素以外の温室効果ガス削減の効果ココが知りたい地球温暖化 地球環境研究センター

とあります。要は短命なヤツは今影響を及ぼす力が大きいので今すぐ、長寿命なヤツはこれから何とかしようということになります。「亜酸化窒素」は今出したものが121年も残るのですから、もうやめていこうというものになります。

「慣行農法」が日本の農家を苦しめている

ここから私が思うのは、農業の変革です。

「農薬・化学肥料」を用いた「慣行農法」はもうやめるべきだと思います。日本でこれを言うと「農業を支えてくれている年寄りに草むしりさせる気か」とか、すぐ感情的なやりとりになりそうです。しかし、1960年より前はほとんど「農薬・化学肥料」などなく、今でいうところの有機農業が当たり前だったのです。

「慣行農法」は「慣行」なんかされていなかったのです。それが進められたのは、日本の農家が見捨てられ、都市に労働力を集めようとした1960年からです。アメリカを真似て大規模な機械農業にしていこうとした時代です。農業を工業化しようとしたのです。その代わり堆肥は化学肥料に、作業は農薬と機械任せにしようと進めました。

その結果、農家の収入は下がり続け、一方で買わされる「農薬・化学肥料」は高く、斡旋された農機具や農協が進める自家用車などのローンは、農業収入を超えるまでになり、別な本業を持ちながら耕す「兼業農業」化したのです。

本来なら部落に1台あれば、順番に使えばよかったはずでした。ところが田植えが5月の連休に一斉にされるようになり、各人が持たなければならないように仕向けられたのです。こんな無駄なことはやめましょう。みんなでシェアすれば足りるのです。

有機農業の方が虫がつかない

そして、面白いことがわかってきました。無農薬・有機の方が、虫がつかない。ついてもすぐ自滅するのです。

それは植物のもともと持っていたフィトケミカル(植物由来の化学物質)が虫の成長を害して、育てなくさせていたのです。ぼくの親しい友人の吉田俊道さんのやっている「菌ちゃん農法」の方法です。
参考:「雑草があれば2カ月で有機野菜作り始められる」常識を覆した土作りの方法とは?(佐藤智子)個人 – Yahoo!ニュース

実はこの流れが国際的な 「家族農業の10年」 の流れと同じであり、欧州委員会の発表した「農場から食卓まで戦略」とも合致します。

参照:欧州委、「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略を公表。持続可能な食料システム目指す – Circular Economy Hub

無理やりアメリカ型のアグリビジネスへ

ところが、日本政府はアメリカばかり見て、大規模機械化農業がすべてであり、遺伝子組み換え、ゲノム編集、大企業支配の大規模農業ばかりを夢見ています。農地の狭い日本には無理なことなのに、無理に大規模なアグリビジネス主導の農業へと進めようとしています。

逆です。まったく逆に、家族農業や小規模農業を進めればよいのです。持続可能な農業も実現できるし、細やかな農業も可能になります。

日本の農地の生物的な豊かさの程度では、先進国に珍しく豊かさを保ったままでいます。それも小規模な農家の努力によるものであり、森林と近い農地によるものでしょう。

ないものねだりの馬鹿げた政策をやめて、世界的な広がりを見せている「アグロエコロジー」の運動に参加すべきです。そうすれば、農地ばかりか地球環境に対しても大きな豊かさをもたらすでしょう。

プロフィール:田中優(たなか ゆう)
「未来バンク事業組合」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表。横浜市立大学、恵泉女学園大学の非常勤講師。著書(共著含む)に『未来のあたりまえシリーズ1ー電気は自給があたりまえ オフグリッドで原発のいらない暮らしへー』(合同出版)『放射能下の日本で暮らすには?』(筑摩書房)『子どもたちの未来を創るエネルギー』『地宝論』(子どもの未来社)ほか多数。

 

36Kr JAPAN

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CSA(地域支援型農業)とは、消費者と農家をダイレクトにつなぎ、農家の売り上げと販路を確保する農業の新しい形である。欧米から始まったこのモデルは、近年中国でも行われており、代表的なものに「十万個農場主」(「十万人の農場主」の意)という農産物会員制サービスがある。

「十万個農場主」は「上海麟謙科技」が運営しており、SNSアプリ「WeChat」内のミニプログラムや、スマホアプリで利用可能なプラットフォームの形式をとっている。プラットフォームには、農家向けの商品管理、マーケティングツールと、消費者向けのトレーサビリティサービス、注文ツールがある。

欧米では大型農場が普及しているが、中国は地理的要因や各地方の格差によって、農場が分散化しており、生産性を上げるための技術力も不足している。こうした状況を変えようと、「十万個農場主」は農家にセンサー、監視システムなどのIoT設備を提供し、ドローン、スマートビニールハウス、化学肥料、種子、農薬などの資材も販売している。各種設備で収集したデータは農業用ビッグデータプラットフォームにまとめられ、今後の生産改善に使われる。そして、最も重要なのは、消費者に事前に注文してもらうことで、農産物の販路を確保したということである。

創業者の陳道勇氏は、「十万個農場主」を利用することで、農家は事前に代金を回収でき、マーケティングと販路開拓がより容易になり、管理や生産のデジタル・トランスフォーメーションを実現できるとしている。

消費者の注文は、「事前購入」と「一般購入」の2つに分けられている。事前購入は植え付けから収穫まで時間がかかり、かつ長期保存が難しい農産物が対象である。たとえば茶葉の事前購入は、1年後に商品が届くようになっている。一般購入はすぐに生産できるものや、保存しやすい農産物が対象であり、米を一般購入で注文した場合、通常3日後に商品が届く。プラットフォームでは、購入履歴によってポイントを加算しており、ポイントが多ければプラットフォームが行う配当にも参加することができる。

同プラットフォームは現在、広西、黒竜江、江西などの省や、杭州、黄山などの都市の農業生産地にサービスを提供している。取り扱い品目は茶葉、果物、米などである。収益は主に会費によって賄われ、農産物の販売による利益はほぼない。現在の会費は農家が年間2000元(約3万円)、消費者が年間399元(約6000円)である。ほかにも、農家向けのマーケティングデータ、サプライチェーン支援で料金を徴収している。

陳氏は棗の名産地である安徽省池州の出身で、故郷の農家が棗の販路開拓に苦労しているのをずっと見てきたという。起業する前、陳氏は農業技術開発企業に勤め、マーケティングアプリを開発していた。創業パートナーの趙付星氏の前職は世界トップ500企業のエリアマネージャーで、現在はマーケティングを担当している。同社はエンジェルラウンドでの資金調達を求めている最中だ。(翻訳:小六)

原文はこちら

DIAMOND online(佐川友彦 ファームサイド株式会社代表取締役。阿部梨園マネージャー)

2020/9/2
 

農業の現場は課題が山積み。それでも日本の農業は、まだ「万策尽きた」わけではない。ただ、「農家を経営する」という考え方と、そのノウハウが共有されていない。
「自分の農園の何が問題なのかわからない」
「誰に聞いていいかわからない」
「変わりたいけど、どうしたらいいかわからない」
そんな悩みを抱える農業生産者の方々のために、今日からできて、すぐ効果が出る、小さな100の課題解決ドリル、『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100が発売されます。やれることから1つずつ取り組むことで、農家の経営を確実に前に進める、はじめての「農家の経営ノウハウ集」です。
本記事では、本書の「はじめに」を全文公開します。(構成:編集部/今野良介)

農家の現場は、改善点の山だった。

201491日。私の阿部梨園でのインターン初日がはじまりました。1年の収穫量のうち約半数が一気にとれる幸水の収穫期間は最もハードで、収穫も出荷も接客もピーク、まさに繁忙期です。短期スタッフの出入りが多いタイミングなので、梨園の人も、きっと「また新人が来た」としか思わなかったのでしょう。これといった歓迎もありませんでした。

レインコートを着て朝から収穫をしていたみんなは疲れた様子で、男性スタッフは休憩室で煙草をスパスパ。話しかけづらい雰囲気が印象に残る、薄暗い雨の日でした。収穫・出荷・接客・電話応対・注文管理などが入り乱れ、まさにカオス。それでも、寝食を削って山場を乗り切ろうとしている最中とのことでした。事務所は雑然としていて、趣味の雑誌やら伝票の束やら物品やらが乱雑に積み上げられています。すべてが改善点の山に見えました。

代表の阿部は、このような状況を、後にこう表現しています。

「バスケットボールで言えば、オフェンスをしているか、ディフェンスをしているかすら、わからない状態」

「家業から事業へ」というスローガンを掲げ、気鋭の梨園の経営変革プロジェクトと聞かされて申し込んだはずの私は、少々面喰らっていました。インターンを募集するくらいなのだから、整った余裕のある農園で、色々用意してくれているだろうと想像していたからです。

それは私の勝手な思い込みでした。この変革以前の状況で、何ができるというのでしょう。インターンがなにかもよくわかっていなさそうな農園で、実りの少ない数ヵ月を過ごすことになってしまったら、何が残るのだろう。不安に思って阿部の顔を覗いてみると、緊張している様子にも見えました。

そんな折、休憩に出された試食の梨をつまんだときに、視野が明るくなりました。

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「え、おいしい」

梨ってこんなにおいしかったんだっけ。大きくて、甘くて、みずみずしい。農家で直接とれたての梨を食べたのは初めてでした。私のその声を聞いて、阿部の話は止まらなくなりました。

なぜ大きい梨作りにこだわっているのか。
どれほど管理作業に工夫を施し、手間をかけてきたか。
わざわざ梨園に足を運んでくださるお客様に満足してもらえるよう、
どれだけの責任感を持って、妥協せず梨作りに打ち込んできたか。
先代から受け継いだ梨作りの良さを「守り」ながら、
自分の代でも新しいチャレンジを重ねて農園を「変えて」きたか。

曲がったことの多いこの世の中で、こちらが嬉しくなるほど、清々しく感じられました。そういえば、車で乗りつけて梨を買っていくお客様が、なかなか途切れません。しかも、贈答用で5箱も10箱も注文して帰っていきます。

それだけの価値があることを、お客様はわかっているんだ。だから、森に囲まれて目立たないこの農園に、ひっきりなしにお客様が来るんだ。大学の農学部で「大局」しか学ばなかった私にとって、すべてが新鮮で、手触り感がありました。こんなに熱意ある園主が、こんなにおいしい梨を作っていて、こんなにお客様に愛されている。それとは対照的に、無秩序な現場。このギャップはなんなんだろう。

「そうか。課題の山は、可能性の山なんだ」

そう気づきました。まだやっていないことがあるなら、やれば良くなるだけだ。課題が多ければ多いほど、成長の伸びしろがあるんだ。これはポテンシャルと言っていいのではないか。そう考えると、事務所も作業場も軒先直売所も、すべて宝の山に見えてきました。改善点も、ざらに100ヵ所は挙げられそうです。

そして、平均的な農家であれば、きっと、大なり小なり同じ状況だろう。梨園の課題は業界共通の課題かもしれない。ならば梨園が良くなれば、業界にも好影響を与えられるかもしれない。大学の教室からは見えなかった景色が広がって見えました。イノベーションや制度改革などという前に、膨大で明らかな「やり残し」が、現場にはある。

阿部さんと一緒に小さな経営改善をしよう。
果たして、この農園はどこまで変われるのだろう。
次に梨園に行くまでに、提案内容をまとめよう。

雲行きのあやしかったインターンが俄然、楽しみになって、私は机に向かいました。闘病と自分探しで何年もストライキしていた自分の心と頭が、再び回り始めた瞬間でした。まさかその後に、エンドレスな改善マラソンを続けることになるとも、「農家の右腕」と呼ばれて全国の愉快な生産者さんたちと一緒に課題解決を進めることになるとも、思いもしないで。

はじめまして。「東大卒、畑に出ない農家の右腕」の佐川友彦です。

この度、私が上梓する『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100という本は、私が阿部梨園という個人経営の梨農園で経験した、ユニークであろう知見をまとめたものです。あまり先行事例のない非常識な無茶だからこそ、業界や同業の農業者さんにとってお役に立てるものがあるのではないかと筆をとりました。

成り行きにまかせて「農家の右腕」を受任した結果、想像もしなかったような無数の新しい発見がありました。とにかく、「思い切って農業の現場に飛び込んでみたら、課題という名の巨大なポテンシャルがあり、同じ船に乗って荒波を乗り越えるうちに、課題が解決して希望が見えた」ということに尽きます。

昨今の日本の農業は、明るい話題が多くありません。高齢化が進み、担い手が減り、耕作放棄地は増え、食料自給率は地を這っています。しかし、現場に立って見渡せば、まだ改善できる余地が膨大にあり、自信をもって「万策は尽きていない」と言えます。

この「現場に立って見渡せば」が肝心です。本当に現場に降り立って、すべてを知り、心の底から気持ちを理解し、自分の人生すら預けることで見えてくる風景を体験した人は、どうやらそう多くないからです。不確実性の海に自分の人生を賭けてしまえば、うわべだけの一般論も、突き放すような批評も、他人事のような楽観も、すべて一瞬で視界から消え去ります。そんなものは生き残るためには不要で、何かをつかもうと必死に足掻くのみだからです。

この必死さが、人生も境遇も変えます。

本書ではまず、阿部梨園と私の経験をとおして、必死になる希望と勇気をもっていただきたいです。次に、それが徒労に終わらないために、正しく効果的な必死さとは何かをお伝えします。そして、本人だけでなく、行政やすべての事業者など、業界全体として必死になる必要性も訴えたつもりです。

全員に火がついて何も起こらないほど、農業は絶望的な状況ではないと思っています。しかし、火が大きくならないままで将来が安泰なほどの余裕も、ないはずです。

また、阿部梨園から起こった小さな革命は、他業界他業種でも応用していただけるものがあると思っています。レガシー産業の旧態依然な硬直性、小規模事業だからこその未熟な経営体質、本当に必要な情報の過疎。それらは、どんな業界でも大なり小なり抱えている課題のはずです。

私たちの拙い事例が、産業の壁を超えて、一人でも多くの方のお役に立てれば幸いです。

「畑に出ない農家の右腕って、何をする人?」
「個人農家の経営改善って、どうすること?」
「農家の経営改善事例を公開するクラウドファンディングって、何?」

この長い記事をそっと閉じられてしまう前に、簡単に本書の内容をダイジェストします。

畑に出ない「農家の右腕」とは?

私は「農家の右腕」として、栃木県宇都宮の阿部梨園で経営改善を提案し、推進してきました。外から経営分析や戦略立案をするような「コンサルタント」ではありません。従業員として毎日現場に常駐し、チームの輪の中に入り、自ら実行主体として頭だけでなく手を動かし続ける、そんな働き方です。自分の生活もキャリアも農園にすべて賭け、同じ船に乗って一蓮托生の挑戦を続けてきました。

結果として、現場目線で農家の気持ちや悩みに深くシンクロできるようになり、最終的にはその気持ちが自分に憑依するようにして、理解と協力を求めて切実な声を張り上げるまでになりました。

畑に出て梨は作らなくとも、バックオフィスや経営管理、販売促進から接客まで、現場班と同じ責任感で張り合ってきました。ときには補佐役、ときには先導役を務め、アメもムチも、理論も感情も駆使しながら難局を乗り越えてきたつもりです。そんな農家の右腕という働き方から、参謀役の勘所とエッセンスを紹介します。

個人農家の経営改善とは?

現場目線で見渡すと、課題の山が、圧倒的な解像度で目の前に迫ってきます。忙しさに追われて未着手だった、やるべきことが山積しています。私たちはその未開の山を伸びしろ、ポテンシャルの塊としてとらえ、課題を処理しつつ、利益と事業の持続性を追求してきました。

派手な設備投資やブランド・リニューアルなどではありません。むしろ、既にある良いものを大切にし

て、今日の業務をちょっとでも良くできる工夫はないか、農園に必要な小さくチャレンジできる新しいアイデアはないか、そんな事を考えて実践し続けた部分最適の積み上げです。

これは農業に限らず、大半の産業が抱えている難題です。技術や文化を守り存続させる意識は大切ですが、そのためには、経営や商売など、時代に即してスタイルを変えていかなければいけない部分も多々あります。まさに阿部梨園のスローガンにもある、「守りながら、変えていく」姿勢が必要です。

色々足りない超零細の個人経営農家でもこれだけ変われたなら、他の産業では、私たち以上に状況が好転する可能性があるはずです。そう考えれば、阿部梨園の事例は他産業にとっても、何らかの希望になり得るかもしれません。実際に、私たちの事例をタネにアクションを起こしている方々が、農業界外にも現れつつあります。

経営改善事例を公開するクラウドファンディングとは?

経営改善に着手した当時、参考になる情報がなく暗中模索、悪戦苦闘した経験から、私たちの経営改善実例をインターネット上の「阿部梨園の知恵袋 | 農家の小さい改善実例300というサイトで無料公開しています。これはクラウドファンディングをとおして、330人から約450万円もの支援金を制作費として預かって実現されました。

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クラウドファンディングを通して、仲間と話題を業界から一挙に集める方法、特に「初期費用を支援金でまかないつつ、業界の暗黙知をオープン化する新しいギミック」は、予想以上に大きな成果を生み、小さな社会運動のようになりました。プロジェクト終了後も、理解者や賛同者が増え続け、活動の輪が広がっています。

転じて、現場からゲリラ活動的に社会に問題提起するアプローチと、レガシー産業でのノウハウオープン化の強力な可能性についても、読み取っていただけるのではないかと思います。

「成功する農業経営」の共通項とは?

農業経営について論じられるとき、それぞれのイメージする「理想の農家像」が食い違っているために、議論が深まりにくいように感じられます。生産者当人だけではなく、行政や企業、消費者も含めて、話が散逸してしまっているように思います。それぞれに好き勝手を言っていて、同じ言葉を使っていたとしても、指すものが違っていたりもします。これでは、迷子や脱落者が出るのは無理もありません。

今後存続できる農業経営体の共通項、共通のベストプラクティスを最大公約数的にまとめれば、最低限の必要条件がはっきりします。それは農業特有の条件というわけでもなく、一般的な「仕事ができる人」「経営者」に求められる資質です。

今回の本では、僭越ながらそのような目的で、私が阿部梨園に関わる中で見つけた、農業経営のあるべき姿をまとめました。これらをおさえておくだけでも、時代の変化に適応しながら事業を存続していけるのではないかと考えています。

脱線してから新しく得た「個人のキャリア」の話

私は東京大学を卒業し、大企業に勤めながら、うつ病からの休職、退職、無職を経験し、3年ほど社会から遠ざかった期間があります。まともな人間活動や社会復帰さえ見えませんでした。自分を見失い、自分探しもこじらせました。

しかし現在は、紆余曲折を経てたどり着いた梨園を手伝うことになり、健康を整え、社会復帰を果たし、やりがいある仕事を好きな仲間と続け、自分の能力を存分に発揮し、人に求められ感謝され、社会的に意義のあるプロジェクトに昇華させながら、家族と田舎でのんびり暮らしています。もちろん苦労もありますが、結果的に、一度失ったものを以前の何倍も大きいかたちで取り戻すことになりました。

このような経験を通して、当時の私のように、社会貢献の意思がありながら社会にフィットできず、将来を見失ってしまっている方のための励ましにもなることを願っています。行き当たりばったりですが、この程度の努力でもこれほど面白いことが起こるんだと、元気を出してもらえればと思います。

農家と、その右腕の間で起きた「人間関係」のドラマ

弊園代表の阿部と私は、知り合って以来5年間ずっと、目を逸らすことなく真正面から理想の梨園を目指して邁進してきました。お互いへの敬意を欠かすことなく、破綻させないよう擦り合わせに最大限の注意を払いながら取り組みを続けてきたつもりですが、元々全く違うタイプの人間です。梨園の個性的なメンバーも含めて、数々のドラマがありました。日々押し寄せる悲喜こもごものイベントを、共に喜び、共に泣きながら乗り越えてきました。

阿部梨園に経営改善がもたらされたのは、不器用でも不十分でも、「人対人」の関係に逃げずに向き合ってきたからだと思っています。人間関係に難しさを感じていたり、他人への踏み込み方をいまいち掴めず困っている方の、お役に立てるのではないかと思います。

本書の行間には、阿部側の苦労や気遣いが込められています。そこからも、農家の右腕という私の存在を「受け入れる側」の事情や思いを、読み取ってもらえるはずです。

経営改善の事例集、ノウハウ集

先述のクラウドファンディングによって生まれたウェブサイト「阿部梨園の知恵袋」から、100件を抜粋して本書にまとめました。ランダムに羅列していますが、私たちの実施したことをできるだけ網羅的に復元しました。順番に読んでいただいても、目に留まったものから読んでいただいても結構です。

直接的にお役に立てるものがなかったとしても、私たちの通った道を疑似体験しながら、何かしら、経営改善の目線や原理原則について学んでいただけるのではないかと思います。

本書の特徴は、ストーリー部と実務ノウハウ部が両面Aシングルになっている点です。はじめはどちらかだけの本にしようと考えていたのですが、両方を1冊にまとめました。内容もリンクしていますので、相互に参照しつつ、お好きな方から読み進めてください。

 

佐川友彦(さがわ・ともひこ)
1984
年生まれ。ファームサイド株式会社代表取締役。阿部梨園マネージャー。東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。デュポン株式会社の研究開発職、創業期のメルカリのインターンなどを経て、20149月より栃木県の阿部梨園に参画。
生産に携わらず、農家が苦手とする経営管理、企画、経理会計、人事労務など経営全般を統括し、ブランディングやデザイン、販売、広報など営業面も担当する。組織開発や生産性を大幅に進歩させ、小規模ながらブランドを確立し阿部梨園の直売率を100%に引き上げる。阿部梨園で積み重ねた小さな経営改善、業務改善は3年で500件を数え、2017年に改善実例300件を公開する農業界では前代未聞のクラウドファンディングを実施。300人以上から440万円(達成率440%)の支援を集めて目標超過達成。「阿部梨園の知恵袋|農家の小さい改善実例300」として無料公開されている。実践的かつ詳細な内容が、多くの農業関係者から支持を得る。日本経済新聞、NHK、日本農業新聞などメディア掲載・出演実績多数。農業経営の専門家として年間数十件の講演、セミナー活動を行う。「農業ビジネス ベジ」、「地上」などで連載記事執筆。2020年、農業経営のコンサルティングなどを行うファームサイド株式会社を立ち上げ、代表に就任。20206月「第3回とちぎ次世代の力大賞」大賞受賞。本書が初の著書になる。

200822 野菜の高値続くー中國新聞
            *図・表は、クリックで拡大

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