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カテゴリ: ビジネス関係

司馬遷「史記」研究家・書家 吉岡和夫さん

日経スタイル

2020/10/25

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「趙氏孤児(ちょうしこじ)」(書・吉岡和夫)

 

中国・前漢時代の歴史家、司馬遷(紀元前145年ごろ~同86年ごろ)が書き残した「史記」は、皇帝から庶民まで多様な人物による処世のエピソードに満ちています。銀行マン時代にその魅力にとりつかれ、130巻、総字数52万を超す原文を毛筆で繰り返し書き写してきた書家、吉岡和夫さん(81)は、史記を「人間学の宝庫」と呼びます。定年退職後も長く研究を続けてきた吉岡さんに、現代に通じるエピソードをひもといてもらいます。(前回の記事は「人事評価、誰の意見が正しい? 史記に残る親子の教訓」)

日本ではあまり知られていないのですが、中国・春秋時代(紀元前770~同403年)の史話「趙氏孤児(ちょうしこじ)」は、中国で最も人気のあるドラマのひとつです。ある小学校では教科書に収録されていました。後に趙の国を生む趙氏が一族の危機を乗り越える話なのですが、組織の内と外に関係なく、他者との関係で大切なことを教えてくれます。

主君に命を狙われる

物語は史記の「晋(しん)世家(せいか)」と「趙世家」にまたがって記述されています。今回の話は、趙盾(とん)、趙朔(さく)、趙武(ぶ)の親子3代を軸に進みます。

晋の霊公は、民衆に重税をかけながらぜいたくにふける暗君でした。先代から執政として仕えてきた趙盾も、その傲慢さに手を焼きました。

あるとき霊公は、食事で出された熊掌(ゆうしょう)がよく煮えていなかったとの理由で、料理人を殺します。熊掌は熊の手のひらの肉で最高の珍味とされますが、煮るには長い時間をかけねばなりませんでした。


ひそかに運び出される料理人の死体に趙盾が気づきます。覆いの隙間からはみ出た死人の手を見たのです。目に余ると考えた彼は霊公を諫(いさ)めますが、霊公は反省しません。むしろ実力者である趙盾の反抗を恐れ、暗殺を企てます。

霊公の密命を受けた刺客、麑(はかねへんに且、しょげい)が早朝に趙盾の屋敷に行くと、寝所に通じる門はすでに開かれ、内側を見ると実に質素な暮らしぶりでした。彼は考えます。


忠臣を殺し、君命を棄(す)つるは、罪一なり。


忠臣を殺すのも、君命に従わぬのも、罪であることにかわりない――。刺客は役目を果たすことなく、庭の槐(えんじゅ)に頭を打ちつけて自ら命を絶ちました。


その後も霊公は何度も盾の命を狙います。しかし、うまくいくことはありませんでした。ある男に阻まれるからです。


かつて趙盾が狩に出たとき、桑の木の下に飢えた男がいるのを見つけ、食べ物を与えました。男は半分だけ食べ、残りを大切に持ち帰ろうとします。盾が理由を尋ねると男は「行方知れずの母をさがしているところでした。母に会えたら、これを食べさせてやりたいのです」。趙盾はさらに多くの食べ物を与えました。


やがてその男は宮廷で働くようになります。彼は、霊公が酒に酔わせた趙盾を武装した兵士に襲わせる計画を察知し、いち早く趙盾に伝えることで未然に防ぎました。霊公が猛犬を盾に向けて放ったときは、どこからともなく突然現れ、犬を打ち殺したのも彼です。霊公がついに趙盾へ討手を差し向けると、その前に立ちはだかったのも彼でした。男は自分の正体を問う趙盾に答えました。


我は桑下の餓人なり
私は桑の木の下で飢えていたところを、あなたに救われた者です――。男は名を聞かれても告げずに去ったのですが、史記はきちんと示明(はめへんに米、しびめい)という名を書き残し「陰徳を為(な)す」と記しています。趙盾は彼のおかげで無事に逃げ延びました。

趙盾を執拗に殺そうとした霊公は、趙盾の親族の将軍によって殺されます。民衆の支持のなかった霊公を討つのは易しいことだったと、史記には書かれています。趙盾は復権し、趙氏一族は新たな君主のもとで「公族」(公室の親族)の地位を与えられました。

トップに命を狙われた趙盾を、名もなき者が命をかけて守ったのはどうしてでしょうか。史記は趙盾を「素(もと)より貴く、民の和を得たり(心根がきれいで、民衆もよく親しんだ)」「素より仁にして人を愛す(思いやりの心が備わっていて、人を大切にした)」と評しています。そういう人物の命を奪おうとすることは、最高権力者といえども容易ではなく、逆に自滅するということでしょうか。

無償の人、打算の人

ただ、趙氏の危機はそれで終わりではありませんでした。

よくない君主のそばには、よくない家臣がいるものです。霊公にかわいがられた屠岸賈(とがんか)は、そんな一人です。霊公が殺された後も、なぜかうまく身を保ち、刑罰をつかさどる「司寇(しこう)」という実力ポストを手にします。


晋の君主は霊公の次の次、景公となっていました。すでに趙盾は没し、子の趙朔が後を継いでいました。屠岸賈は霊公殺害について蒸し返し、亡き趙盾に罪を着せます。そして子の趙朔もろとも趙氏を滅ぼそうとします。


この動きを知り、趙朔に早く逃げるよう告げたのは同僚の韓厥(かんけつ)です。しかし趙朔は逃げることを潔しとしません。そして景公の許しも得ぬまま屠岸賈が送り込んできた諸将に一族もろとも殺されてしまったのです。ただ、先君の姉だった妻だけは何とか王宮にかくまわれ、まもなく男児を産みます。この子がつまり「趙氏孤児」です。


この話を耳にした屠岸賈は宮中に乗り込んできます。母親は赤子をはかまの中に隠し、呼びかけました。


趙宗滅びんか、若(なんぢ)(がう)せよ。即(も)し滅びざらんか、若声する無(な)かれ。
趙氏が滅びてもよいのなら泣き叫んでもいいよ。存続を望むなら声を出してはいけないよ――。赤子は声を発することなく、何とかその場をしのぎました。

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イラスト・青柳ちか

 

殺された趙朔には程嬰(ていえい)という親友と、公孫杵旧(こうそんしょきゅう)という食客がいました。杵旧が程嬰に「赤子を育てあげるのと、死ぬのでは、どちらが難しいだろうか」と問うと、「死ぬ方が易く、赤子を守る方が難しい」との答えが返ってきました。すると杵旧は「あなたはその難しいことをやり遂げてください。私は容易な方をやります」と提案し、決死の芝居を打ちます。


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人は身代わりとなる赤子を連れ、山中に隠れました。その後、程嬰のみが寝返り、赤子と杵旧の居場所を伝えたのです。杵旧はわざと程嬰への恨みの言葉を残しながら、赤子と一緒に殺されました。屠岸賈の意を受けた諸将は、趙氏の子を殺したと思い込みます。


程嬰は趙朔の子と隠れ住み15年が過ぎます。病を得た景公がその原因を占うと「趙氏の子孫が先祖を祭れないことがたたっている」とのこと。景公は韓厥から、趙朔の子、趙武が生き残っていることを明かされ、宮中に呼び入れます。そして諸将に占いの結果と趙氏再興の希望を伝えると、諸将は言い訳しました。「あれは屠岸賈にだまされてのこと。みんな趙氏の再興を願っています」。景公は趙武と程嬰に諸将を従わせ、屠岸賈の一族を攻め滅ぼしました。


趙武が成人すると程嬰は、死んだ杵旧に早く報告したいと願い出て自害してしまいます。趙武が「恩に報いたい」と泣いて止めるのも聞きませんでした。趙武は3年の喪に服し、その後も絶えることなく程嬰の功績を顕彰しました。

あえて逃げずに討たれた趙朔の判断については、賛否があるかもしれません。それでも、その遺児のために、韓厥、杵旧、程嬰がとった無償の行為、あるいは自己犠牲には、何か理由があったと思われます。趙朔もまた彼らと同じような無償の人だったのではないでしょうか。打算の人は打算の人と近づき、離れるときは簡単に離れますが、彼らはそうではありませんでした。無名の男が趙盾を守った理由とも通じ合うものがあります。

最後に笑う者と、そうでない者を分けるものはいったい何でしょうか。趙氏孤児の物語を思うたび、考えさせられるのです。

吉岡和夫

1939年(昭和14年)千葉県生まれ。横浜国大経済卒。東海銀行(現在の三菱UFJ銀行)に30年間勤務。書家の古谷蒼韻氏に師事。雅号は「泰山」。中国「司馬遷史記博物館」(2016年開館)の顧問も務める。著書に『史記を書く』(1996年)、『毒舌と名言の人間学』(2005年)など。名古屋市在住。

 

AERAdot. (編集部・福井しほ)

2020.10.25

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売り手市場の就活は終わるのか…(撮影/写真部・張溢文)

 長く続いた就活「売り手市場」がガラガラと音を立てて崩れていく。五輪特需でピークともいわれた2021年卒生の就活は、突然の新型コロナウイルス禍によって大きな転換を強いられた。就活生にとっての“人気企業”に多くの学生を送り出してきた大学は、どう動いたのか。AERA 20201026日号、「採用したい大学」特集から。

【人気企業102社】全国52大学就職先一覧はこちら!

 不況になるほど採用の幅は狭まりターゲットは強まる傾向にある。

 同志社大学のキャリアセンターには、4月に学生からこんな相談があった。

「企業からの連絡が突然こなくなりました」

 聞けば、ビフォー・コロナにあたる昨年の秋冬のインターンに参加した学生は選考が進んでいて、内定を取った学生もいるという。3月以降に接点を持った学生の選考が軒並みストップしているとわかったのは、ゴールデンウィーク直前だった。

 

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マイナビの文系・理系別人気ランキングをもとにアエラが企業を抽出。20年春の就職者数を調査した。企業のなかで最も採用数が多かった大学を赤色、採用数で
5番目までを青色、10人以上採用された大学を黄色で示した(協力/大学通信)


■「見捨てられた」の理由

 同大キャリアセンターの岩田喬(たかし)所長が言う。

「学生にとっては緊急事態宣言下の時期が一番孤独でした。4年生の中には自分たちが見捨てられたと感じる学生もいます」

 20年春も日本生命保険や日本航空へ卒業生を大量に送り込んだ同大。学生を安心させるべく緊急メッセージを出し、7月には、この時期に異例の大規模な学内企業説明会を実施した。

「外出自粛で就活は2カ月ほど遅れていると考えてもいい。説明会にはオムロンや日本銀行などの大手にも参加していただき、企業からも好感触でした。航空業界から金融業界などのグローバル部門へ切り替える学生も多く、期待しています」(岩田所長)

 長引く就活だが徐々に元の光景に戻りつつある。

 10月初旬、東京都庁の目と鼻の先にあるビルの地下に、リクルートスーツに身を包んだ学生たちが次々と入っていく。たどり着いたのは、21年卒生を対象とする合同企業説明会場だ。

 2日間のイベントに参加した学生は約470人。企業と学生の間には感染防止のためのビニールカーテンが吊られ、無駄なおしゃべりをしづらい空気もある。それでも、オンライン就活と比べれば、企業の「熱」を肌で感じられる。参加していた成蹊大文学部に通う女子学生(22)は、こう話した。

 

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マイナビの文系・理系別人気ランキングをもとにアエラが企業を抽出。20年春の就職者数を調査した。企業のなかで最も採用数が多かった大学を赤色、採用数で5番目までを青色、10人以上採用された大学を黄色で示した(協力/大学通信)

「大学には2月以降一度も行けず、少しなまけてしまいました。友だちとはLINEで話すことが多く、内定を取ったのかどうかも聞きづらい。それにウェブの説明会は録画されたVTRを見せられることばかり。リアルな説明会では近い距離で質問できてよかったです」

 コロナ禍では、オンライン就活が広く普及し、学生だけでなく大学側もいかに素早く対応できるかが問われた。

■対面支援ができない
 1学年で8千人を超えるマンモス大学の近畿大も対応に苦慮した。大和ハウス工業や積水ハウスなど住宅や鉄道で全国屈指の就職者数をたたき出しているが、

「当たり前に行ってきた対面支援ができなくなってしまいました。直接会うことで理解できる部分もありますが、オンラインでどうコミュニケーションをとるかが課題となっています」

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近畿大のアカデミックシアター内。コロナ禍は「マグロ」の置き物でディスタンスを取る(写真/近畿大学提供)

 と、同大キャリアセンターの坂野裕一さんは意気込む。17年に「アカデミックシアター」をオープンし、キャリアセンターをその施設内の図書スペースに隣接させたことで学生が訪れやすくなり、相談数が増加。コロナ禍の今年は密にならないよう、オンラインをうまく活用しながら学生を支援する体制を整えた。

DIAMOND Online (羽生田慶介:オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO)

2020.10.23

 

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写真はイメージです Photo:PIXTA


コロナショックを経て、人々が企業を見る目や意識、姿勢が大きく変化し、これまでよりもさらに誠実であることを求めている。また企業が、悪意はなくても勉強不足や想像力の欠如によって人権を侵害し、大炎上するケースも増えている。何に気を付けるべきなのか。

本連載では、注目を集める企業の人権違反とその対応策について紹介する。連載
2回目で取り上げるのは、就職活動生に対する「リクルート・ハラスメント」について。以前よりもリクハラを巡る事件が増えたのはなぜか。そして企業はどんな対応策を講じればいいのか。(オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO 羽生田慶介)

住友商事、大林組の社員が起こした「リクハラ」が社会問題に

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、近年続いてきた新卒採用の売り手市場に、陰りが見えている。

 日本経済新聞社が20201018日にまとめた採用状況調査によると、主要企業の大卒採用の内定者数(2021年春)は前年春と比べて11.4%減となり、リーマン・ショック以来の2桁減を記録した。新型コロナウイルスや米中摩擦などによる景気悪化の影響だ。

 今なお続く「オンライン就活」の波が落ち着き、今後、対面での就職活動が解禁されるとあらためて懸念されるのは、就活生に対するハラスメント、いわゆる「リクハラ(リクルート・ハラスメント)」だろう。

 リクハラはこの数年で急速に社会課題として注目されるようになってきた。2019年前半には、大手企業の社員が女子大生に対するわいせつ行為により逮捕される事件が立て続けに発生した。

 例えば192月には、大手ゼネコン大林組の男性社員が逮捕された。OB訪問で会った女子大生に対して、面接指導をすると自宅に誘い込み、わいせつ行為に及んだためだ。

 続く193月には、住友商事の社員がOB訪問に訪れた女子大生を泥酔させ、学生の宿泊先ホテルに侵入して性的暴行を加えたとして、準強制性交罪などの疑いで逮捕されている。就職先の人気企業ランキングでは男子部門で5位以内、女子部門でも15位以内に位置するエリート商社の社員が、多くの就活生の憧れと期待を裏切ったわけだ。

 性的な被害だけではない。204月にはパワハラによって内定者を自殺に追い込むような事件も発覚した。パナソニック子会社のパナソニック産機システムズの内定者が、同社人事課長からのパワハラによって自殺に追い込まれたことに対して、遺族の代理人が会見を開いている。

 この人事課長は、男子学生ら内定者に対して、内定者向けの交流サイトに毎日ログインし、コメントなどを投稿するよう求めていた。この交流サイト上で、「無理なら辞退してください、邪魔です」「丸坊主にして反省を示すか?」「空気、読めてるか?」などと、人事権をちらつかせながら攻撃的な投稿を繰り返していたという。精神的に追い詰められた男子学生は、入社式を迎えることなく、ビル屋上から飛び降りた。

 コロナ禍の影響による景気悪化などを背景に、新卒採用が売り手市場だと考える企業は、207月には全体の4割にとどまっている。19年の9割からは大幅に減ったわけだ。採用市場で買い手が強くなると、企業側はより力を持ち、就活生側はこれまでよりも圧倒的に企業側の都合に振り回されるようになる。このパワーバランスの中で今、「リクハラ」が増えることが懸念されているのだ。

就活生の2人に1人が被害経験あり?

 リクハラには、就活生や内定者に対する「セクハラ」や「パワハラ」などのほかに、内定者に対して、他社に対する就職活動を控えるよう働きかける「オワハラ(“就活終われ”ハラスメント)」なども含まれる。

 19年にビジネスインサイダージャパンが実施したアンケート調査によると、就活生の実に半分は、就活セクハラの被害経験があるという。被害経験のある就活生のうち75%が、その企業や大学などの関連機関、さらには身近な人にも相談できなかったという。

 これまで社員同士のハラスメントなどは、多様な形で社会問題となり、一定の対策を実施する企業も増えている。一方で盲点となっていたのが、就活生らを含む社外の関係者に対するハラスメントだ。

 196月に国際労働機関(ILO)が採択した「仕事の世界における暴力とハラスメント条約」では、保護の対象に求職者や就活生も含まれている。しかし同年12月に日本政府が決定したパワハラ防止法の施行に向けた指針では、保護の対象は企業と雇用関係がある労働者に限られ、就活生に対するパワハラ防止策を義務づけることは見送られている。

 政府の対応の遅れと同じように、日本の企業でも、就活生に対するハラスメント防止のためのルールや制度の整備は整っていない。

「出会い系サイト」として悪用される就活アプリ

 近年、リクハラが増える背景にあるのが、就活マッチングアプリや就活SNSなどの台頭だ。

 大林組社員による事件では、被害者の学生と社員はOBOG訪問用のマッチングアプリで知り合ったとされている。OBOG訪問用のマッチングアプリは、学生とその大学の卒業生であるOBOGをつなぐためのサービスだ。

 登録する社会人は、企業の公認アカウントを利用する採用担当者ばかりではなく、個人でアカウントを登録し、ボランティアで学生の就活相談に乗るユーザーもいる。そして、事件を起こした大林組の社員は、この後者のボランティアユーザーだったとされている。

 こうした就活用のマッチングアプリを、学生と知り合うための「出会い系サイト」として悪用する社会人が増えているという。就職活動中の学生は、企業に対してより弱い立場にある。そのため仮に、多少の違和感や不信感を抱いても、OBOGの言うことを我慢して聞いてしまう。この力関係の差が、ハラスメントを生み出しやすくしているのだ。

 パナソニック産機システムズでは、内定者向けの交流サイト上で社員の高圧的な投稿がエスカレートし、内定者を自殺に追い込んだ。同サイトは、投稿内容などから学生らの意欲を判別して、内定辞退者を早期発見する機能を売りにしていたという。こうした交流サイトに、研修の一環として、内定者20人全員を登録させていたというのだ。

 最近では優秀な人材を囲い込むべく、多くの企業が内定者コミュニティーなどをつくって、学生を囲いこんできた。住友商事も、事件後の調査では、OBOG訪問マッチングアプリに、若手から中堅まで、約350人の社員が登録していたという。企業の方針として、より良い人材を獲得するためにマッチングアプリを導入するケースも増えてきていた。

「オワハラ相談ホットライン」つくって先陣を切った三井物産

 逮捕者が出た大林組と住友商事は、事件後にOBOG訪問の実施要領を策定するなどの対応措置を発表した。

 具体的には住友商事では就活生との飲酒を禁止し、面談は平日1318時に社内施設で原則、実施するなどの制限を設け、社内申請も義務づけた。大林組も同じように、面談場所の制限や事前申請の義務付けなどの措置を実施した。パナソニック産機システムズも内定者向けの相談窓口などを設けるようになった。

 オワハラ撲滅に向けて先陣を切ったのが、三井物産だ。同社は19年、「オワハラ相談ホットライン」を設置している。人材開発室長から採用候補者に対してホットラインの存在をメールで周知し、50件以上の就活生からの相談に対応しているという。

 さらに現在でも、リクハラ防止策を強化せよという世論は強まっている。1911月には、ハラスメント相談のウェブサイト運営会社「キュカ」のメンバーらが、厚生労働省に11333人分の署名を提出。同時に出した要望書では、就活生のハラスメント規制保護対象化や国主導の実態調査、相談窓口の設置などの対策強化を求めている。

 翌12月には東京大学などの女子学生による有志団体「SAY」が会見を開き、就活セクハラに関する緊急声明を発表した。女子学生たちは就活への支障を懸念して顔を隠しながらも、就活セクハラの生々しい実態を告白。実効性のある対策を企業や政府、大学に対して強く求めた。

 だが学生たちが必死の思いで訴えた要請に対して、政府は現状では特段何も対応をしていない。前述の通り、1912月に政府が決定したパワハラ防止法の施行に向けた指針では、保護の対象に就活生は含まれていない。この指針の中には、企業が実施することが「望ましい」取り組みとして、リクハラの禁止の方針を策定・周知することや、相談があった際に対応することなどを定めるにとどまっている。

履歴書から消えた性別記入欄

「今、恋人はいますか」
「何人兄弟姉妹ですか」
「尊敬する人物は誰ですか」

 こうした質問はすべて、自治体などの作成する採用ガイドブックにおいて、「採用活動で聞いてはいけない質問」とされている。ハラスメントや就職差別につながるためだ。だが、就職活動に関わる多くのビジネスパーソンがその事実を知らない。

 197月には、JIS規格でも性別記入欄を含む履歴書様式例が削除されている。トランスジェンダーへの配慮の必要性などを背景に、NPO(非営利組織)などが中心となって、全国から1万人以上の署名を集め、経済産業省に提出した結果、日本規格協会がJIS Z 8303『帳票の設計基準』の記載を変更するに至ったのだ。

 仮に今後、企業が独自のエントリーシートに性別欄を設けていたとすると、こうした部分にも、就活生から疑問が呈される可能性が高まるだろう。

 19年にもう一つ、就活に関する問題で大きな話題となったのは、リクルートキャリアによる内定辞退予測情報の不適切な提供だった。就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアは、内定者が辞退する可能性を独自に算出し、学生の同意なく企業に販売していた。

 本件でプライバシーの権利侵害などに当たるとして責任を問われたのは、販売元であるリクルートキャリアだけではない。データを購入したトヨタ自動車などの37社も、名指しで批判された上に、個人情報保護委員会から行政指導を受けることとなった。購入する企業にも、相応のリテラシーが求められている時代になった、というわけだ。

 データエコノミーの広がりや人権に関する考え方の変化を受けて、企業の採用活動に求められる対応も刻々と変わっている。この変化を的確に捉えることが何よりも重要だろう。

 そもそも就職活動で選考する学生たちは、それぞれが一人の人間であるということを決して忘れてはならない。仮に企業側が力を持っていたとしても、ぞんざいに扱っていいような存在ではないのだ。かつて就職氷河期にあった、豆をふるいにかけるような感覚で学生を選考する時代は、もう終わった。

 就職活動や就活生への対応を通して見えてくるのは、それぞれの企業が働く人をどう捉えているかという姿勢や価値観そのものだ。そしてリクハラとは、まさにその問題の氷山の一角にすぎない。働く人を大切に扱わない企業は、結局は社員からも学生からも選ばれなくなるだろう。あなたの会社はどうだろうか。あらためて見直してみよう。

 

日経スタイル (森本千賀子:エグゼクティブ層中心の転職エージェント)

2020/10/23

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DXの加速は転職市場にも変化をもたらしつつある(写真はイメージ) =PIXTA

DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組む意識が一段と高まってきました。コロナ禍によって、「対面」や「イベント」方式の営業活動あるいは業務オペレーションに制限がかかってきたことから、デジタルを導入してビジネスモデルや業務を変革しようとする「DX」推進に本腰を入れる企業が増えています。

そうした動きに伴って、DX推進を担う人材の採用も活発化しています。DX推進に欠かせない要素といえば、「データの活用」「人工知能(AI)の導入」「クラウド化」など。これらのプロジェクトに携わった経験がある人は総じてニーズが高いといえます。

しかし、採用ターゲットとなるのは、必ずしもデジタル領域のスペシャリストやIT(情報技術)・ネット系エンジニアだけではありません。デジタルの専門家ではない人が、「発想力」「企画力」「変革推進力」などを買われ、DX推進を担うポジションで転職を果たしているケースもあるのです。

DX推進の目的は多様で、大きく分けると「攻めのDX」「守りのDX」があります。それぞれの目的に対し、どんな人材が求められているかをご紹介しましょう。

「攻めのDX」で求められる人材

「攻めのDX」とは「イノベーションを起こす」ことです。既存のプロダクトやサービス、あるいは営業手法から脱却し、新たな価値を生み出すことで利益につなげようとする取り組みです。業界内でいち早く打ち出し、マーケットで優位に立つことを狙います。

例えば、住宅業界であれば、お客様に住宅展示場やモデルルームに足を運んでもらうのではなく、自宅にいながらVR(バーチャルリアリティー)で住宅の内覧ができるサービスを提供する。小売業界であれば、顧客の購買行動のデータをリアルタイムで解析し、即座に商品開発やECチャネルでの販売戦略に反映させるといった取り組みがこれに当たります。

では、各業界でこうした「攻めのDX」を推進するポジションには、どんな人材が求められているのでしょうか。

職種としては「経営企画」「事業開発」「事業企画」「営業企画」など。「DX推進室長」といったポジションの求人もあります。「CDO(チーフデジタルオフィサーまたはチーフデータオフィサー)」のポジションを置く企業も出てきています。

もちろん、デジタルのリテラシーや導入経験があれば重宝されますが、そんな人材はまだまだ多くありません。そうした知識・経験がなくても、ビジネスの構造を理解し、固定観念を打ち破れる人、これまでになかった価値とはどんなものかを発想できる人、デジタルの専門事業者を巻き込みながらアイデアを形にしていくプロジェクト推進力がある人であれば、DX推進のポジションで迎えられる可能性があります。

時流をつかんで、DX推進プロジェクトへ転職

現在、経営企画や事業開発などの担当者として働いている皆さんの中には、「DXに取り組むべきだと考えて情報収集や勉強をしているものの、経営トップがなかなか腰を上げてくれない」と、もどかしく感じている人もいるかもしれません。そういう人をDX推進プロジェクトに迎えたいと考えている企業もあるので、この波にタイムリーに乗ってキャリアを積んでいくためには、転職という選択肢もあるかと思います。

Aさん(40代)の事例をお伝えしましょう。Aさんは出版業界で紙メディアの編集プロデュースを任されていましたが、デジタル時代の到来に危機感を抱いていました。しかし、会社にデジタル事業への取り組みを進言しても聞き入れられませんでした。行動を起こさずにいられなかったAさんは、副業でスタートアップ企業のオンラインメディアの立ち上げに参画しました。

オンラインメディアの編集やマネタイズモデルの企画に携わる中で、変化のスピードを実感し、さらに危機感を強めたAさん。結果的にオンラインメディア運営企業に転職しました。

DX時代に適応できる人材になるために

DX推進を任せる人材に求める要件として、こんな声もよく聞こえてきます。

「ウオーターフォール型よりアジャイル型の人がほしい」

これはシステム開発で使われる用語で、「ウオーターフォール型」とは上流工程から下流工程までをきっちり順番を追って進めていく開発手法です。一方の「アジャイル型」とは「素早い」を意味し、短期スパンで開発とテストを繰り返しながら仕様変更や機能追加を進めていく開発手法です。

アプリの開発現場などでは近年、「アジャイル型」が増えてきました。事業開発などのプロジェクトにおいても、同様の進め方が求められるようになっています。

つまり、ゴールを明確にし、計画をしっかり立てた上で着実に進め、完璧な状態でリリースするのではなく、「走りながらソリューションモデルを臨機応変に変えていく」ということ。ゴールが明確に定まっていない状態でも推し進め、完成度が56割の状態でリリースして、市場の反応を見ながらアップデートを繰り返し、徐々にゴールを描いていく。そんなスタイルでプロジェクトをけん引できる人材が、今後強く求められるようになっていくでしょう。

今、皆さんが手がけている業務の中でも、可能な範囲でそうした進め方を取り入れてみてはいかがでしょうか。そこで成功体験を作ることが人材市場での価値アップにつながると思います。

「守りのDX」で求められる人材

収益を生み出すことを目的としたイノベーションや新規事業に取り組む「攻めのDX」に対し、「守りのDX」とは、業務オペレーションの効率化、コスト削減、サプライチェーンの最適化といった取り組みを指します。

守りのDXを推進する企業が求めるのは、「課題発見・抽出力」を持つ人材。しかも、表面的な小手先の効率化ではなく、業務の本質をとらえ、「残すべきもの」「残す必要がないもの」を見極められる人材が必要とされています。加えて、セキュリティーやリスクマネジメントの観点も欠かせません。

求人が出てきているのは、事業会社の経営管理部門・情報システム部門・コーポレート部門(経理や人事、総務、法務)などからです。各業務の専門性に加え、データやデジタルを活用した戦略的思考ができる人材が求められています。

コンサルティングファームのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)コンサルタントやSIer(システムインテグレーター)の営業など、クライアント企業の業務課題の分析・改善を手がけてきた人が事業会社に移る事例が増えてきています。

菅義偉首相は全省庁の行政手続きを対象に「脱はんこ」や書面・対面主義の見直しに向けた方針を打ち出し、河野太郎氏を行政改革の旗振り役として任命しました。こうした背景もあり、企業の「守り」の部門においてもDXは加速していくことでしょう。

管理系の仕事のスタイルは確実に変わっていくので、従来のやり方を変えることへの抵抗感を捨て、どん欲に学んで新たな手法を取り入れていくことをお勧めします。

転職先を選ぶなら「トップの本気度」に注目を

DX推進プロジェクトに携わりたい」「DXの領域でキャリアを積みたい」という人が転職を図る場合、ぜひ注意して見てほしいポイントがあります。それは「経営トップの本気度」です。

DX戦略の責任者を募集」など、求人のワードは同じでも、熱量には差の大きいことがあります。実際、「世間ではやっているようだから、うちの会社も何かしてみようか」と、DX推進部門を設けてみたものの、なかなか思うように進まない企業も。DX推進担当者が経営に提案を上げるものの、効果を予測できないため投資判断ができないというケースもあるようです。

経営トップが現状にどれだけの危機感を持っているか、DX推進によってリアルビジネスにマイナスの影響が出る可能性があるとしてもリスクをとる覚悟があるかどうか。DXを意識して転職先の企業を選ぶ際には、ぜひそうした点に注目してみてください。

次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載3人が交代で執筆します。

森本千賀子

 

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。

 


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  http://kairou38.livedoor.blog/archives/25080804.html

 

9.日本のデジタル化のカギは「ウェルビーイング(幸福)」にありー日経ビジネス(2020.8.26)

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/24486419.html

 

8.DX(デジタル・トランスフォーメーション)って、何?ーDIAMOND online(2020.7.14)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/24001122.html

 

7.図らずもテレワーク普及で企業のデジタルトランスフォーメーションが一気に推進ーBusiness Journal(2020.6.5)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/23561350.html

 

6.DX最先端都市、神戸市の挑戦 戦略と泥臭さの融合が動かす「弾み車」ーITmedia(2020.5.18)

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/23354623.html

 

5.中国が掲げるコロナ経済対策の本命「新基建」とはー日経ビジネス(2020.5.1)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/23156035.html

 

4.製造業のDXを支援する新サービスを発表ーJBpress(2020.4.28)

http://kairou38.livedoor.blog/archives/23122398.html

 3.デジタル化 説明丁寧にー中國新聞(2020.4.10)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/22904152.html

 

2.DXか死か」を迫られる自治体の現状――RPAへの“幻滅”が示す問題の本質とは?」ーITmedia(2020.3.31)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/22808797.html

 

1.DXの進展で企業のサイバーセキュリティはどう変わるかーITmedia(2020.3.23)

     http://kairou38.livedoor.blog/archives/22712917.html

36Kr japan

20201021

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無印良品が中国で生鮮食品を扱う新たな業態を始めることがわかった。これまでにも書店、飲食店、ホテル、住宅リノベーションサービス、コンビニエンスストアなど中国内でも多くの業態を展開してきたが、新業態のスーパーマーケットが上海に中国初の店舗を開業する予定だ。

今月15日、上海の大型商業施設「瑞虹天地(XINTIANDI RUIHONG)」が2021年までに完成予定の新施設「太陽宮(HALL OF THE SUN)」のテナント募集説明会を開催し、同施設に無印良品が展開するスーパーマーケットが入居する予定だと発表した。

新業態は仮称「MUJI meal solution supermarket」あるいは「MUJI marche」。無印が生鮮食品を扱うのはこれが初めてではなく、日本ではすでに東京と大阪で、生鮮食品売り場を併設した二店舗を開業している。

2018年に大阪で開業した「無印良品イオンモール堺北花田店」では、無印良品の店舗としては世界最大面積のスーパーマーケットを謳い、4300平方メートルの売り場を展開。青果、鮮魚、精肉などを販売するほか、店舗で購入した食品の加工やイートインも可能で、従来の衣料品や雑貨と同時に食品の購入もできるようになっている。

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(写真:無印良品公式サイト)

 
無印良品は近年、業績が思わしくない。米国の子会社「MUJI USA」は今年7月、新型コロナ禍の影響もあり破産法を申請。2005年に進出した中国市場でも近年は品質問題などが相次ぎ、成長に歯止めがかかった。店舗販売は2年連続で減少、現在では270店舗を展開するにとどまっている。

中国市場で再起を図るにあたり、頻繁に掲げているのが新規事業の開拓だ。暮らしの美学を謳う「MUJI BOOKS」、一等地に構える「MUJI HOTEL」、軽食類を提供する「MUJI Diner」、暮らしの空間を提案するリノベーションサービス「MUJI INFILL」、オフィスエリアを中心に弁当などを提供するコンビニ「MUJIcom」と多くの業態を展開してきたが、いずれも店舗数は数店に留まり、拡大に移る気配はない。

中国で生鮮食品を手がけるプレーヤーは多く、新たな販売戦略を生み出すケースもますます増えている。新型コロナ禍に見舞われた今年は、アリババ系の生鮮スーパー「盒馬鮮生(Hema Fresh)」が住宅地をターゲットとした小型店舗「盒馬mini」や会員制店舗「会員店」を出店、テンセント系の「毎日優鮮(Missfresh)」は店舗なしの業態でオンライン販売を強化している。地域コミュニティ向けの共同購入モデルも業界に風穴を開けている。

中国事業不振の挽回策として無印が温めている生鮮業態だが、中国ではかなり競争の厳しいカテゴリーとなっており、成功は決して容易ではない。
(翻訳・愛玉)

原文はこちら

 

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