AERAdot.(稲垣康介 朝日新聞編集委員)

2020.9.19

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                                  全米オープンを制した大坂なおみ選手(写真/gettyimages

 

 全米オープンを制した大坂なおみ。1月に亡くなったコービー・ブライアントさんから大きな影響を受けた。大坂は訃報に際し、「多くのことを教えてくれてありがとう」とSNSにつづっていた。AERA 2020928日号の記事を紹介する。

 有言実行。自身の言霊の力に後押しされた快進撃だった。

 大坂なおみ(22)が全米オープン1回戦に勝った後だった。米国で黒人が警官らの行為で命を落とす事件が続く中、犠牲者の名前を記したマスクを着けて、こう宣言した。

「マスクは7枚用意している。悲しいことに7枚では(犠牲者全員の)名前を出すには足りない」「決勝まで進み、7枚すべてを見せられたらうれしい」

■昨夏の応援席の3
 その7人の中で最も古い悲劇は8年前、トレイボン・マーティンさんの事件だ。フロリダ州の17歳の少年は帰宅途中、自警団員の白人に撃たれた。大坂はSNSに思いをつづった。

「彼の死はとても鮮明に覚えている。当時私は子どもで、ただ恐怖に感じた。関係ない情報かもしれないけれど、私は数年間フード付きパーカーを着なかった。“不審に見える”と思われたくなかった。彼の死が最初の事件でないのはわかっているけれど、私には起きていることに目を開かされた出来事だった」

 当時、14歳で同じ州に暮らしていた。ハイチ出身の父と、日本人の母の間に生まれ、褐色の肌を持つテニス少女の恐怖が、服装にも神経をとがらさせた。

 今年5月、米ミネアポリスで黒人男性、ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を押さえつけられ、息絶えた事件以降、大坂は鋭い言葉でつぶやき始めた。

「自分の身に起こったことでないからといって、何も起こっていないわけではない」

 傍観は現状容認だと訴えた。

 ツアーで世界を駆け巡るのが「日常」の大坂だったが、コロナ禍で自宅待機となり、社会問題にも目を向ける余裕ができた。自己啓発本でも有名なジム・ローンが残した言葉がある。

「あなたは最も多くの時間をともに過ごす5人の平均である」

思い出すのが昨年の全米オープン、大坂の2回戦の光景だ。取材していた私は、会場がざわつくので記者席から双眼鏡で確認して驚いた。大坂の応援に米プロバスケットボール(NBA)レーカーズのスーパースターだったコービー・ブライアントさんが駆けつけた。大坂の恋人である人気ラッパー、コーデーさん、さらに米プロフットボールリーグ(NFL)の49ersで活躍したコリン・キャパニックさんの姿も。彼は2016年、警官による黒人への暴力に抗議し、国歌斉唱時に片ひざをつき、起立を拒んだ。これが原因で翌シーズン以降は所属チームが見つからず、今に至る。

 大坂が今回マスクで示した抗議の背景に、両親や昨夏の応援席にいた3人らの思考、行動が影響しているだろうと感じる。

 なかでも、大坂が「偉大なる兄」と慕っていたブライアントさんは、今年1月、ヘリコプターの墜落事故でこの世を去った。今大会では彼の背番号「8」のレーカーズのユニホームを着る姿が見られた。優勝記者会見でも着ていた。私はオンライン記者会見の最後に大坂に尋ねた。

■強さを与えてくれた
──ブライアントさんに勇気づけられましたか?

「彼は私がすごいことをすると思ってくれていた。だから願わくば、将来偉大になっていたい。時が経てばわかることだけど」

 元世界ランキング1位、ビクトリア・アザレンカとの全米決勝で、第1セットを16で失い、続くセットも02の窮地から大逆転した大坂の不屈の精神は、苦境や土壇場で逃げず、シュートを決め続けたブライアントさんの勝負強さと重なる。

 大坂は決勝後、レーカーズのユニホームを着て、センターコートで優勝トロフィーを掲げる一枚をSNSにアップした。こんなメッセージと共に。

「このユニホームを毎試合後、着ていた。私に強さを与えてくれたと確信している。常に」

 きっと、これからも。

 

AERA 2020928日号