MONEY VOICE(田中優)

2020917

 

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地球温暖化の解決を考えるとき、二酸化炭素だけに目が行きがちだ。しかし、化学肥料に含まれる亜酸化窒素を削減することも長期目線では必要となる。そしてさらに、アメリカ型の大規模農業・アグリビジネスと決別し、日本の農業を変革することが地球環境全体の改善につながっていく。(『
田中優の持続する志(有料・活動支援版)』)

化学肥料をやめれば温暖化解消に繋がる?

当メルマガの読者さんから以下のような質問をいただきました。大事な内容を含むので、せっかくですからメルマガでお答えしたいと思います。質問は以下の通りです。

温室効果ガスについての質問です。

温室効果ガスとしては、一般にCO2が大きな原因とされています。一方、亜酸化窒素はCo2300倍の温室効果があるとのことで、この主な排出源が農業で使われている化学肥料(窒素)で、化学肥料の使用をやめるなり減らせば、温暖化に大きく貢献(ほぼ解決できるかも)できるという意見があります。

一般的に考えて化学肥料は地球規模で使われているので、こちらに焦点を当てた削減活動の方が大切なのではとも思えます。使用量か削減効果についての詳細は分からないので、Co2との単純比較はできないですが、優さんの方で把握されている情報があればその公開なり、これから分析できる可能性があるのかどうかお聞かせ願いたいと思うのです。

まずは確認しましょう。「亜酸化窒素はCo2300倍の温室効果」があるのは、正しいでしょうか。

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出典:全国地球温暖化防止活動推進センター

 

上図の通り、「温暖化係数」は二酸化炭素を「1」としてその倍数で示しますが、一酸化二窒素(亜酸化窒素)は「298」ですから、正しいです。このデータは、「一般社団法人 地球温暖化防止全国ネット」からの引用で、「地球温暖化対策の推進に関する法律」にもとづいて設置されたものです。データは信頼できます。

そして 「海洋や土壌から、あるいは窒素肥料の使用や工業活動に伴って放出され、成層圏で主に太陽紫外線により分解されて消滅する」もので、大気中での寿命は121年と長く、成層圏で紫外線に分解されるまで存在するので、厄介なガスであることは確かです。

一般的な使用に「肥料」があるのは確かです(主要な化学肥料は窒素・リン酸・カリウムです)が、それだけでなく、「化石燃料燃焼、バイオマス燃焼、農耕牧畜、土地利用変化、汚水など」の工業活動からも排出されています。

この経年推移を見ると、毎年増え続けているのは確かで、対策が必要です(下図参照)。

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青色は月平均濃度。赤色は季節変動を除去した濃度。出典:一酸化二窒素濃度の全球平均経年変化気象庁

 

化学肥料に使われているのは膨大ですし、身近な問題です。

 

化学肥料が農作物を弱くする

この化学肥料に使われるのは、戦後の食料増産を目指した「緑の革命」以来で、それは多くの問題を起こしています。

過剰に散布された窒素は、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素という形で水質を汚染し、飲料水などに多く含まれていると、血液の酸素運搬能力を阻害する「メトヘモグロビン血症」を引き起こして、海外では乳児が死亡した例もあります。人の健康を害するおそれがあることから、平成112月に水質環境基準健康項目に追加されるようになり、平成137月から水質汚濁防止法に基づく排水規制も実施されています。


参考:硝酸性・亜硝酸性窒素による地下水の汚染について環境生活部環境局循環型社会推進課北海道

 

それ以上に私が問題だと思うのは、化学肥料を与えすぎると植物が自分で容易に得られるため、根の周りを覆っている菌根圏の菌類に集めてもらわなくても根が自分で集められるようになり、「菌根圏を弱くしてしまう」ことです。

植物にとって、せっかく作った炭素などの栄養の半分を土壌微生物に与えていますが、それを「不必要だ」と感じ始めてしまうのです。すると根は、炭素や糖分を菌根菌に与えなくなり、結果的に土壌に炭素が蓄えられなくなりかねないのです。

土壌には木材の持つ炭素の5倍もの量の炭素が蓄積されています。それをしなくなれば、より土壌微生物はいなくなります。地球温暖化だけでなく、肥沃な土壌の劣化を招きます。これが怖いのです。

温暖化解決のキーマン「土壌と森林」が弱ってしまう

今の二酸化炭素排出の問題も、解決に向かわせてくれているのは「 土壌と森林 」です。

二酸化炭素の排出を削減できたら、次にしなければならないのは二酸化炭素の吸収です。そこに最も重要になるはずの「土壌と森林」が、先に壊されてしまうかも知れないのです。

そこから考えても「土壌と植物」を結び付けている菌根菌の存在は、最も重要な機能なのだと思います。

亜酸化窒素だけを減らしても解決しない

ただし、亜酸化窒素だけを排出しなくなっても、地球温暖化は解決できません。

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出典:気象庁


現状の地球温暖化を進行させているガスは、
75%までが二酸化炭素(上図では化石燃料由来と土壌改変や森林破壊などに分けて表示している)によって占められています。亜酸化窒素は全体の6.2%を占めるのみで、それ単独では温暖化防止はできないのです。

亜酸化窒素の悪影響は121年も続く

そして、亜酸化窒素に特徴的なのは121年という長期の影響です。この長寿な温室効果ガスの影響も考えられています。

地球温暖化係数は、20年、100年、500年と異なるタイムスケールの設定に基づいた数値が発表されています。それぞれの温室効果ガスの寿命が異なるため、残留期間を考慮に入れると、数値が異なってくるのです。ただ、一般的に使用されているのは、100年間の影響を考えた場合の数値です。

出典:4-5 地球温暖化係数(GWP;Global Warming Potential)について知りたい – JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

一般的にみられるグラフは100年間の影響と言われても、人間の生命からはちょっとピンときません。さて、どう考えたらいいのでしょう。

つまり、CH4HCFCなど(短命な温室効果ガス)の対策は、この急激な気候変動を抑制するのに効果的といえます。一方、N2OCFCPFCSF6の及ぼす温暖化は長期にじわじわと現れるので、将来の地球の気候に及ぼす影響が大きくなります。海面上昇や大規模な氷床の変化は、今後何世紀にもわたる気候変動がもたらす影響ですから、今のうちにこれらの寿命の長い温室効果ガスの削減を進めなくては、将来に禍根を残すことになります。

出典:温暖化の科学 Q10 二酸化炭素以外の温室効果ガス削減の効果ココが知りたい地球温暖化 地球環境研究センター

とあります。要は短命なヤツは今影響を及ぼす力が大きいので今すぐ、長寿命なヤツはこれから何とかしようということになります。「亜酸化窒素」は今出したものが121年も残るのですから、もうやめていこうというものになります。

「慣行農法」が日本の農家を苦しめている

ここから私が思うのは、農業の変革です。

「農薬・化学肥料」を用いた「慣行農法」はもうやめるべきだと思います。日本でこれを言うと「農業を支えてくれている年寄りに草むしりさせる気か」とか、すぐ感情的なやりとりになりそうです。しかし、1960年より前はほとんど「農薬・化学肥料」などなく、今でいうところの有機農業が当たり前だったのです。

「慣行農法」は「慣行」なんかされていなかったのです。それが進められたのは、日本の農家が見捨てられ、都市に労働力を集めようとした1960年からです。アメリカを真似て大規模な機械農業にしていこうとした時代です。農業を工業化しようとしたのです。その代わり堆肥は化学肥料に、作業は農薬と機械任せにしようと進めました。

その結果、農家の収入は下がり続け、一方で買わされる「農薬・化学肥料」は高く、斡旋された農機具や農協が進める自家用車などのローンは、農業収入を超えるまでになり、別な本業を持ちながら耕す「兼業農業」化したのです。

本来なら部落に1台あれば、順番に使えばよかったはずでした。ところが田植えが5月の連休に一斉にされるようになり、各人が持たなければならないように仕向けられたのです。こんな無駄なことはやめましょう。みんなでシェアすれば足りるのです。

有機農業の方が虫がつかない

そして、面白いことがわかってきました。無農薬・有機の方が、虫がつかない。ついてもすぐ自滅するのです。

それは植物のもともと持っていたフィトケミカル(植物由来の化学物質)が虫の成長を害して、育てなくさせていたのです。ぼくの親しい友人の吉田俊道さんのやっている「菌ちゃん農法」の方法です。
参考:「雑草があれば2カ月で有機野菜作り始められる」常識を覆した土作りの方法とは?(佐藤智子)個人 – Yahoo!ニュース

実はこの流れが国際的な 「家族農業の10年」 の流れと同じであり、欧州委員会の発表した「農場から食卓まで戦略」とも合致します。

参照:欧州委、「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略を公表。持続可能な食料システム目指す – Circular Economy Hub

無理やりアメリカ型のアグリビジネスへ

ところが、日本政府はアメリカばかり見て、大規模機械化農業がすべてであり、遺伝子組み換え、ゲノム編集、大企業支配の大規模農業ばかりを夢見ています。農地の狭い日本には無理なことなのに、無理に大規模なアグリビジネス主導の農業へと進めようとしています。

逆です。まったく逆に、家族農業や小規模農業を進めればよいのです。持続可能な農業も実現できるし、細やかな農業も可能になります。

日本の農地の生物的な豊かさの程度では、先進国に珍しく豊かさを保ったままでいます。それも小規模な農家の努力によるものであり、森林と近い農地によるものでしょう。

ないものねだりの馬鹿げた政策をやめて、世界的な広がりを見せている「アグロエコロジー」の運動に参加すべきです。そうすれば、農地ばかりか地球環境に対しても大きな豊かさをもたらすでしょう。

プロフィール:田中優(たなか ゆう)
「未来バンク事業組合」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表。横浜市立大学、恵泉女学園大学の非常勤講師。著書(共著含む)に『未来のあたりまえシリーズ1ー電気は自給があたりまえ オフグリッドで原発のいらない暮らしへー』(合同出版)『放射能下の日本で暮らすには?』(筑摩書房)『子どもたちの未来を創るエネルギー』『地宝論』(子どもの未来社)ほか多数。