日本経済新聞 電子版

2020/9/16

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                                 ビザ要件の厳格化で、日本人駐在員は23割減る可能性も

 

シンガポールが自国民の雇用を確保するため、外国人のビザ取得要件を厳しくしている。早稲田・慶応大卒の30歳の日本人の場合、月給が50万円以上ないと専門職向けビザ(EP)が下りなくなっている。企業は日本から社員を派遣しにくくなり、現地化を一段と進める必要に迫られている。

シンガポール政府は国籍や年齢、学歴などに応じて、多くの駐在員が取得するEPに必要な月給水準を細かく定めている。基準の詳細は公表していないが、現地での就労を希望する外国人は政府がネット上で提供する自己診断ツールを使って、ビザの要件を満たしているかを推測できる。

人材紹介会社のJACリクルートメントがこのツールを使って、EP取得に必要な月給額を調べたところ、2020年に入って大きく引き上げられていたことが分かった。

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上昇の理由はまず最低月給額の引き上げだ。政府は5月に3900シンガポールドル(約30万円)に上げたばかりのEP取得に必要な月給額を、9月に4500シンガポールドルに再び引き上げた。申請者の年齢が上がるにつれて、必要な月給額も高くなる仕組みで、45歳以上は8400シンガポールドル以上の月給がないとEPは取得できなくなった。


さらに学歴の基準も厳しくなった。早慶、一橋、大阪大学など約60の大学はこれまで必要な月給が最も少ない第1区分だったが、第2区分に降格になった。いまや第1区分に属する日本の大学は東大、京大、東京工業大学の3大学のみだ。JACの試算では、早慶卒の30歳の日本人がEP取得に必要な月給は、2年前に比べ1.5倍近くに跳ね上がっている。

12年後にシンガポールの日本人駐在員が23割減る可能性がある」。YCPホールディングスの粕本晋吾・東南アジア代表はビザ要件厳格化の影響は大きいとみる。大企業では、若手社員が月給要件を満たせなくなる恐れがある。

飲食、美容といったサービス業への影響も深刻だ。高卒の日本人シェフがビザを得るには、これまでも8千シンガポールドル程度の月給を求められることが少なくなかった。これ以上基準が上がれば日本料理店の経営が難しくなる。

シンガポールのリー・シェンロン首相は「外国人の雇用が一つの国籍に過度に偏っている企業には特に警告する」と述べ、進出企業に多様性の確保も求めている。シンガポールに住む日本人は約37千人と、これまで東南アジアではタイに次いで多かった。だが、新型コロナウイルスの発生を機に駐在員の役割の見直しも進む見通しで、今後は現地人材の育成にカジをきる日本企業が増えそうだ。

(シンガポール=中野貴司)