日本経済新聞 電子版(日経クロステック 堀越功)

2020/7/31

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4G周波数帯を5Gに転用した場合、どの程度速度が出るのか。利用者保護が求められる(撮影:日経クロステック)

 

総務省は6月、2023年度末までに携帯各社が整備する次世代通信規格「5G」の基地局数を、当初計画の3倍となる21万局超に引き上げる目標を公表した。209月までに既存4Gで利用する周波数帯を5Gに転用できるように制度改正し、携帯各社の5G基地局整備を促す考えだ。ソフトバンクKDDI5G基地局整備の大幅前倒しを表明する一方、慎重な姿勢を崩さないのがNTTドコモだ。4G電波の転用では速度が出ない「なんちゃって5G」にとどまるという懸念を示す。

4G転用では速度出ない

筆者が先日NTTドコモ社長の吉沢和弘氏にインタビューした際、同氏が最も語気を強めたのは4G周波数帯を5Gに転用する話題の時だった。吉沢氏は「既存周波数帯を5Gに転用する方針に同意するものの、4G帯域を5Gに転用しただけでは速度が出ない。ピクト表示は5Gだが4Gと性能が変わらない『なんちゃって5G』だ。利用者が有利誤認しないように注意を図るべきだ」と強い口調で指摘した。

4G周波数帯を5Gに転用する総務省の新たな方針は、ソフトバンクなどの強い要望によって実現した。5G向けに携帯各社に割り当てられた3.7ギガヘルツ(GHz)帯、4.5GHz帯、28GHz帯という周波数帯は電波が遠くまで飛びにくい。電波が飛びやすい4G周波数帯を5Gに転用できれば、5Gエリアを一気に広げられる。

一方のデメリットは、吉沢氏が指摘するように、4G周波数帯の帯域幅をそのまま5G に転用するだけでは速度は4Gと変わらない点だ。それが「なんちゃって5G」たるゆえんだ。

ソフトバンクとKDDI21年度末までにそれぞれ、5G基地局を5万局に増やす方針を示す。当初の計画を大幅前倒しできた理由の一つが4G周波数帯の5Gへの転用だ。

ソフトバンク関係者は「制度整備前であるため具体的にはこれからだが、4G向けの700メガヘルツ(MHz)帯や1.7GHz帯から5Gへの転用を進めたいと考えている。4G周波数帯を5Gに転用したエリアでは、当初は毎秒1ギガビットの速度を実現していきたい」と打ち明ける。

これに対しドコモの吉沢氏は「当社も既存周波数帯の活用を進めるが、21年度末までに5G基地局を2万局とするドコモの方針は、あくまで5G向けの新たな周波数帯で実現する。高速・大容量を提供できる5G向け新周波数帯を積極的に展開する。利用者保護の観点から誤解を受けないようにすべきだ」と力を込める。

実際、海外では画面上のピクト表示の有利誤認で問題になった経緯がある。米国の大手携帯電話事業者のAT&Tが、4Gで通信しているにもかかわらず「5GE」というピクト表示を採用し、利用者の反発を招いたケースだ。

こうした事態を防ぐため国内の携帯大手4社は「5G」のピクト表示について、通信中の場合は5Gエリアのみ、待ち受けの場合は4Gのアンカーバンドで在圏しているケースを認めるという方針で合意している。

ただし4G周波数帯を5Gに転用した場合に速度が出ないという問題は残ったままだ。総務省は「ユーザーがどの程度の最大通信速度が出るのか把握することができるように、エリア別のマップやリストを公表するなど、適切な周知手段をもってユーザー保護に努めていくことが望ましい」と指摘する。

4G基地局をいち早く進めたドコモ、不利になる展開

ドコモが利用者保護の必要性を指摘するのはもっともだ。ただ筆者は、吉沢氏が予想以上に強い口調で懸念を示した点に驚いた。その裏には、ドコモが別の観点で不満を抱いているという事情もみえてきた。

吉沢氏は「700MHz帯のような周波数帯はもともと4G向けに割り当てられた。今回の総務省の方針では、700MHz帯を5G基地局で整備したとしても4G基地局を整備したとみなされる。ドコモは700MHz帯の整備は既に計画の90%を超えている。しかしKDDIやソフトバンクはそこまで達していない。本来の割り当て趣旨からするとおかしいのではないか」と疑問を呈する。

携帯電話事業者に割り当てられた電波は、割当時に提出した開設計画を満たすように基地局を速やかに整備しなければならない。ドコモは700MHz帯の4G基地局の整備をいち早く進めてきた。

しかし、それによって同帯域に5G基地局を入れづらくなってしまったということだ。4G基地局を整備すればするほど同帯域を利用するユーザーが多くなり、5G基地局への転用が難しくなる。4G利用者の速度が低下したり、つながりにくくなったりする可能性があるからだ。

逆にドコモほど700MHz帯の4G基地局整備が進んでいないというKDDIとソフトバンクの方が、同帯域に5G基地局を展開しやすいという状況が生じている。こう考えるとドコモが抱く不満はよく分かる。

一方、他社関係者からは「ドコモの既存基地局は「DSS(ダイナミック・スペクトラム・シェアリング)」と呼ぶ技術への対応がすぐに難しいために、なおさら不満を抱いているのではないか」という声が上がる。

DSSとは、同じ周波数帯で4G5Gの電波を共用できる技術だ。通常、既存周波数帯を5Gに転用する場合、該当する周波数帯を4Gから5G利用へと切り替える必要がある。DSSを利用することで、同じ周波数帯で4G5Gを混在してサービスを提供できる。周波数帯の移行をスムーズに進められる。

DSSの技術で先行するのはスウェーデンのエリクソンなど海外通信機器大手だ。エリクソン・ジャパン最高技術責任者(CTO)の藤岡雅宣氏によると「エリクソンが15年以降に発売した基地局はDSSに対応している」という。ソフトバンクやKDDIはエリクソンなど海外通信機器大手の基地局を採用しており、DSSもいち早く導入しやすい。

それに対しドコモが採用する基地局はNEC富士通など日本製が多い。DSSの採用については「4G利用者への影響というユーザー保護の観点から、慎重に検討を進めている」(NTTドコモ)と述べるにとどまる。DSSの採用でもソフトバンク、KDDIと、NTTドコモとの間で違いが生まれてそうだ。

■エリアと速度の総合力勝負

20年秋には、米アップルの5G対応「iPhone」が登場するといわれる。コンシューマーを対象とした5G商戦が本格化するこのタイミングで、ソフトバンクとKDDI4G周波数帯の5G転用を進め、5Gエリアの広さをアピールする戦略を取るだろう。それに対しNTTドコモは、あくまで速度を重視するとみられる。

利用者は使ってみないと分からない速度よりも、エリアの広さをまず求める。当初はドコモが不利になる展開が予想される。だから同社はこの問題にことさら反応するのか。

もちろんドコモが指摘する利用者保護の観点は重要だ。だが本来、速度とエリアの広さを兼ね備えた5Gサービスこそ、利用者が望むものだ。最終的にはエリアを広げ、速度を向上するという総合力によって各社の勝敗は決まる。

[日経クロステック2020722日付の記事を再構成]