日経産業新聞

2020/7/24

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ウェブサミットのメーン会場は、ライブのような熱気に包まれる(201911月、リスボン)


新型コロナウイルスの感染拡大で中止が相次ぐ国際的な見本市やイベントが新たな開催手法を模索し始めた。欧州最大級のテック系イベントはオンラインとリアルの同時開催を決めた。投資家と出会ったり、商談ができたりするリアルの良さを残しつつ、ネットで参加者を増やす。感染の「第2波」への警戒はあるもののイベントの経済効果は大きく、地元自治体も期待する。

欧州最大級のテック系イベント「ウェブサミット」はこのほど、1224日にオンラインとオフライン(対面)の両方で開催すると発表した。新型コロナの影響で他のイベントと同様にオンラインとするが、例年通りポルトガルの首都リスボンでもイベントを開く。

2019年に7万人だった参加者はオンラインにすることで10万人に増える。世界中のどこからでも参加できるオンラインのメリットも強調しつつ、従来通りの対面での開催の選択肢も捨てなかった。リスボンの地元自治体などとギリギリまで調整したこともあり、例年よりも1カ月遅れの日程となった。

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                                起業家と投資家が出会う場でもあった(ウェブサミット)


ウェブサミットのパディ・コスグレイブ最高経営責任者(CEO)は6月下旬の記者会見で、「イベントの将来は(オンラインと対面の)ハイブリッドになるだろう」と述べた。感染が落ち着けば元に戻るとの期待も強い。同氏は5月、日本経済新聞の取材に「対面でのコミュニケーションが他のものに取って代わられることはない。パンデミックは『ゴムバンド』のようなもので、より対面の価値が認識されるようになる」と述べている。

リスボンで毎秋開かれるウェブサミットはスタートアップが投資家と出会って資金調達につなげる場だ。米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズも創業間もないころに参加していたという。海沿いの展示場で開かれるイベントの参加者は若く、半分は女性だ。メーンステージは電飾がきらめき、まるでライブのようだ。ビールを片手に立ちながら談笑する様子は本当に商談の場かと疑うほどだ。

ウェブサミットの運営会社はもともとソフトウエア開発会社だ。自社開発アプリを通じ、参加する企業と投資家らを属性に応じてある程度マッチングする。事前に連絡を取り合い、参加したときにはすでに商談がまとまっているケースもある。そのためイベントは「顔見せ」の意味合いもあり、リラックスした雰囲気が漂う。

コスグレイブ氏は、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が1995年に米見本市コムデックスを買収して人脈を築いたことをヒントに、10年前にイベントを立ち上げた。新型コロナで在宅勤務が世界各地で定着しているが、ネット万能の時代にあっても対面のコミュニケーションが重要であることは変わらないとみている。

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イベントが対面への復帰を模索するのは、自治体などが経済効果を期待しているからでもある。参加者の旅費や飲食代などは大きく、スペインのバルセロナで毎年2月に開かれる世界最大のモバイル関連見本市「MWC」は、中止によって約600億円が消えたと見積もられている。

国際見本市連盟(UFI)によると、会場設営や参加者の旅費など見本市の開催に伴って生じる直接支出だけで、18年の市場規模は1369億ドル(約14兆円)だった。このうち8割近くを北米と欧州が占めた。リスボンを含め、地元自治体にとって貴重な収入源だ。

もっとも、見本市やイベントには新型コロナ以外の逆風も吹いている。消費者の行動の変化だ。

インターネットやSNS(交流サイト)の普及で、情報収集の方法は変わった。トヨタ自動車19年、77年から継続して出展してきた世界最大級のドイツ・フランクフルトモーターショーへの参加を見送った。出展の費用に見合う効果が得られなくなっているという。

今年3月の開催を取りやめたジュネーブ国際自動車ショーは629日、21年も中止にすると発表した。新型コロナで自動車各社の業績が悪化し、出展が難しくなっているためだ。トヨタがフランクフルトへの出展をやめたように自動車大手にとってショーの意味合いが変わっていることも背景にある。

見本市は新型コロナや時代の変化をにらみながら新しい形を探る。だが対面の重要性は変わらない。オンラインとの融合で参加者が増えれば、対面でのコミュニケーションにつながる新たな出会いが生まれるかもしれない。

(ロンドン=佐竹実)