全プラごみの2%を減らすことの意義は?

東洋経済オンライン(中村 陽子:東洋経済 記者)

2020/07/15

21

プラスチックの分解・劣化の過程についての研究はまだ結論が出ていない(写真:Blue flashPIXTA

 

1年間に海に流れ込むプラスチックごみは800万トン。毎日自家用車1.5万台分のごみが流出している計算になる。「海洋中のプラスチックの重さが2050年までに魚を上回る」という衝撃的な推計が発表されてから4年、日本でもプラスチック製レジ袋が原則有料化された。待ったなしのプラスチックごみ問題に意識を向けるきっかけになりそうだ。『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』を書いたサイエンスライターの保坂直紀氏に聞いた。

プラスチックの分解・劣化過程は不明

──意外だったのが、肝心のプラチック生産・廃棄量などの基本データが把握されておらず、放置されたプラスチックがどう分解・劣化していくかの研究もまだ結論が出ていない、ということでした。

国連などが言及する数字は、研究者の論文から引用したものです。各国データの集計も、事はそう簡単じゃない。とくに海については、流れ込むプラスチックごみ(以下、プラごみ)の多くが発展途上国から。ごみの山からペットボトルを拾って残ったジュースを飲むような子どもたちが大勢いるわけで、雨が降れば川に流れ、そのまま海に出ていってしまう。そういう国々に、プラごみの統計を取れと言っても難しい。

プラスチックは土に埋めても半永久的になくならない、ということになってるけど、なくなるようだとの見解もある。一定の非常によい条件を与えてやれば、何十年かかかって食べてしまうバクテリアがいると。

──日常的にプラスチックが使われるようになってまだ50年。科学的な解明には時間が短すぎる?

土に埋めても、まだ結果は出ませんよね。そういうとき、科学の世界では極端な条件差を与えて実験する。その結果何かがわかったとしても、現実的にそんな条件が起こりうるかはまた別なわけです。

この間、どの添加剤をどう混ぜるとどう品質性能が高まるか、ものすごいスピードで研究されました。今度、それをどう捨てるかについては社会が関わってくる。廃棄コストが半分になりますといっても、社会が振り向いてくれなければ、その研究は意味がないことになる。その辺のモチベーションが廃棄研究では上がらなかったのかもしれない。欲しいものを買うときは気分が高まるけど、捨てるときは高まらないのと同じですね。

──実は、レジ袋が全プラごみに占める割合は2%に満たないとか。

市民が出すごみで厄介なものの1つがレジ袋であることは確かですね。もととなる原油の使用用途のうちプラスチックは3%、レジ袋はそのごみのさらに2%といってしまえば、ごくごくわずか。でも地球環境を考えたら、やらなければいけない。私たち1人ひとりの力は小さいけど、その小さい力を出し合わなければ。まずは始めてみようという気持ちになることです。自分たちがさんざん汚しといて、後はよろしくって子ども世代に丸投げするのも嫌ですしね。

「魔法のプラスチック」はない

──マイバッグも、繰り返し使用しないと、二酸化炭素排出量の面ではレジ袋を上回ってしまう。

22

保坂直紀(ほさかなおき)/1959年生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所特任教授。東京大学理学部卒業。同大大学院で海洋物理学を専攻、博士課程を中退し、85年読売新聞社入社。在職中、科学報道の研究により東京工業大学で博士(学術)を取得。2013年同社退社。(撮影:梅谷秀司)(撮影:梅谷)

100%ポリエステル製だと、原料採掘から焼却までにレジ袋の50倍の二酸化炭素を排出してしまう。つまり50回繰り返し使ってトントン。10回で飽きて捨てたら、かえって環境に悪いってことです。

今回のレジ袋有料化では、植物などから作られるバイオマスプラスチックが25%以上含まれていれば有料化は免除されました。ただここで要注意なのは、バイオマスプラスチックは、土の中や海に放置されたとき自然に分解が進む生分解性プラスチックとは別物だということ。光合成で植物が体内に取り込んだ二酸化炭素は焼却時に出ていくのでプラマイゼロ。

地球温暖化対策にはなる。でもプラごみ削減にはなりません。しかも、複数種類のプラスチックが混じっているので、リサイクルには不向きです。生分解性プラスチックにしても、分解されるにはさまざまな条件を満たす必要がある。魔法のプラスチックではないのです。

──さらに別の厄介さも……。

拾えないごみ、つまり清掃ボランティアも見過ごしてしまう“拾われないごみ”になりがちなことです。風雨にさらされ劣化しボロボロになったレジ袋は、砂に埋もれたり、草の根元に絡みついて引っ張るとちぎれてしまったり。放置された先は海です。拾えないプラごみの代表がレジ袋と、5ミリ以下に小粒化したマイクロプラスチック。マイクロプラスチックも砂や小石に交じれば回収できない。

23

『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』(写真をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします)

海の生き物が間違ってマイクロプラスチックを食べ、その生き物を食べる私たちもマイクロプラスチック片を摂取してるのは確実です。マイクロプラスチックがさらに劣化し削られたナノプラスチックの存在も指摘されているし、繊維状のマイクロプラスチックもある。室内で舞い上がるほこりがそうだし、フリースを脱ぎ着するときもたくさん吸い込んでるはずですよね。

取り込まれたプラごみがどういった影響をもたらすかについては、実験で生き物に大量に与えたら運動が不活発になったとか、体内に油分が残留していたとかさまざまな研究結果が報告されてますが、まだ統一見解には至ってない。とくに人体への影響はまだ解明されていません。

プラごみ問題と地球温暖化は似ている

──そのマイクロプラスチックのホットスポットが東アジア海域、というのが不気味ですね。

気持ちのいい話じゃないですね。

プラごみ問題というのは地球温暖化とよく似てると思う。よくないことは頭ではわかるんだけど、実感としてつかめない。近年日本では毎年のように豪雨災害が起きていて、何かがおかしいとみんな思ってる。地球温暖化のほうがまだ人々の気づきが早いかもしれない。プラスチックについてもっと話題にすれば、「そういえば、身の回りにプラスチック多すぎるよね」とみんな思い始めるかも。

大事なのは、やはり1人ひとりが関心を持ち続けることです。プラごみ問題をどうするか判断するのは科学者でなく、社会の将来に決定権を持つ私たち。さあどうする?と判断を迫られたときのために、アンテナの感度を高めておきたい。温暖化もプラごみも、大きすぎて全然等身大じゃないし、未解明な点が多いし、マイバッグ程度で本当に減るのかとかモヤモヤ感が残る。できるだけ事実に基づいて整理をし、自分なりに納得して行動したいと思い、この本を書きました。

<関連記事>  プラスチックごみ、廃プラ

10. 中国、21年から「海外ごみ」輸入を全面禁止の訳ー東洋経済オンライン(2020.7.14)

   http://kairou38.livedoor.blog/archives/24012108.html

9. ゾウの死骸に大量プラごみ、タイ 消化器官に詰まり出血かー共同通信(2020.7.12)

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/23988843.html

誰も反対できないレジ袋有料化の蜃気楼ーJBpress(2020.6.26)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/23798108.html

いつの間にか口の中に!海洋プラの知られざるヤバさ  魚や貝が体内に取り込んでいるマイクロプラスチックとはーJBpress(2020.6.10)

   http://kairou38.livedoor.blog/archives/23626443.html

海のプラごみ、すべてなくす この1世紀が分かれ道ー日本経済新聞(2020.4.28)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/23127705.html

西之島にプラごみ汚染 東京から1000キロ 海鳥被害を懸念ー中國新聞(2019.12.30) 

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/21615608.html

.都市部になく地方で多かった意外なプラごみの正体(下)ーJBpress(2019.12.11)

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/21331749.html

浮遊するプラごみで最も多いのは人工芝だった!()JBpress(2019.12.10)

http://kairou38.livedoor.blog/archives/21331749.html

2.東京湾を漂うプラごみはどこからくるのか?()JBpress(2019.12.9)

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/21292162.html

先進諸国のごみの受け入れを拒否する東南アジアーNewsweek(2019.11.28)

    http://kairou38.livedoor.blog/archives/21126295.html