PRESIDENT Online(溝上 憲文人事ジャーナリスト)

2020.6.30

 

売り手市場から買い手市場へ。コロナショックで就活の潮目が変わった。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「企業と学生の立場は逆転していますが、それに気付いていない学生もまだ多い。2008年のリーマン・ショック後は採用数減などの影響が約5年続いた。コロナショックはそれ以上になる恐れがある」という——

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写真はイメージです

 

就活の潮目が変わったのに気づかない学生の末路

2021年卒の採用活動は、新型コロナウイルスの感染拡大と「緊急事態宣言」の発出により、4月以降完全にストップした。大企業を中心にウェブ面接に切り替える企業も登場したが、例年に比べて内定出しも遅れている。

昨年の61日時点の就職内定率は70.3%だったが、今年は56.9%と少ない(リクルートキャリア調査)。

もちろん緊急事態宣言の混乱の影響もあるが、コロナショックによる業績悪化の影響も無視できないだろう。

朝日新聞の「全国主要100社アンケート」(623日)によると「コロナの影響で2021年春の新卒者の採用計画を見直すか」という質問への回答はこうなっている。

「不変(見直ししない)」:68
「未定」:17
「採用数を減らす」:10
「その他」:4
「増やす」:0

すでに大企業の選考活動は終盤にさしかかっているのに「採用減」「未定」を含む企業が27社もあるというのは異例の事態である。

仮に当初予定の採用数を減らすということになると、昨年なら内定を得ていただろう学生を不合格にすることになる。毎年数百人規模を採用している不動産業の人事部長は胸の内をこう明かす。

21年卒の採用数を最終的にどうするか、現時点ではペンディングになっている。会社の業績は45月の受注は確かに減少しているが、今後の状況がどうなるのか経営陣にも読み切れていない。しかし7月中には結論を出さないといけない。個人的には予定通りの採用数になると思う。ただし、例年のように内定辞退が出ても、2次募集や秋採用をしないで減る分にはかまわないというスタンスで臨むことになるのではないか」

こうした動きを見ているとコロナショックを契機に明らかに就活の潮目が変わりつつある。つまりアベノミクスの影響で長らく続いた「売り手市場」から「買い手市場」への転換だ。

2020年卒の新卒求人倍率は1.83倍と、間違いなく売り手市場だった。新型コロナウイルスが問題になる前は売り手市場が続くと言われ、求人倍率も1.8を維持するか、下がっても1.7台後半とみられていた。だが、コロナの影響で状況はガラリと変わった。

すでにその兆候は採用面接でも表れている。

ウェブ面接時に「目線が時折上を向く」学生のけしらない理由

コロナ前は人手不足と騒がれ、企業は早期獲得を目指し、前年夏のインターンシップを皮切りに学生を囲い込み、それ以降は花火大会、工場や施設見学、その後の宴会と、学生をつなぎ止めるために必死の“接待”を繰り返してきた。

学生の側も売り手市場ということもあり、過去の先輩たちがそうであったように多くの学生が無理することなくどこかの企業に入社できるだろうと高をくくっていた。

しかし、今年の5月以降の面接では企業側の微妙な変化も起きている。広告業の人事部長はウェブ面接での風景をこう語る。

「面接をしていると、学生の目線が時折上を向くことがある。じつはPCの画面の上にカンペ(カンニングペーパー)を用意して話しているのがよくわかる。対面の面接だと紙を見て話せないので、志望動機などについて丸暗記して面接に臨むのが普通。ウェブだとそれをする必要がないが、面接官の中にはカンペを見ているな、とわかると『何だ、こいつは』と、減点する人もいる。私としては、安倍首相もカンペを見てしゃべっているだから、そこまで目くじらを立てなくてもと思うのだが」

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 初めてのウェブ面接とはいえ、学生の甘さと面接官の強気の姿勢がうかがえるエピソードだ。


Wi-Fiの調子が悪くて……」「その時間は他社面接が入ってます」

一方、サービス業の人事部長は「面接をなめている学生が1割はいる」と語る。

「こちらは5人の面接官が5分前からスタンバイしているのに、時間になってもなかなか学生が入ってこない。ギリギリで入ってきたが、第一声が『どうも~』。さらに学生は途中で落ちてしまう。理由を聞くと『Wi-Fiの調子が悪くて入れません』。こちらが『次の方がいるので、それが終わり次第、再接続してください』と言うと『その時間は他社の面接が入っています』。こういう学生は珍しくない」

同社はすでに業績悪化を見込んで中途採用を中止している。21年卒の採用数は当初予定通りだが、仮に内定辞退が発生し、予定数に満たなくても2次募集はしないという。企業の姿勢はコロナ前と違って、明らかに強気の姿勢に一転している。

2022年卒の採用数は21年卒よりも確実に減る

そして人事担当者が口をそろえて言うのは、2022年卒の採用数は21年卒よりも確実に減るということだ。

前出サービス業の会社の経営会議では一部の役員から「当初予定の半数に削減するべきだ」という意見も挙がっているという。「今のところ採用予定数をどうするかは決めていない。景気がさらに落ち込むと減らす可能性が高い」(人事部長)。

前出の不動産業の人事部長はこう言い切る。

22年卒は圧倒的に厳しくなるのは間違いない。会社もその方向で検討しているが、場合によっては半減する可能性もある。新型コロナウイルスの感染拡大の第2波、第3波の襲来が叫ばれるなかで、ワクチンも1年や2年でできるかわからない。もちろん東京オリンピックも中止という前提でわれわれは先を見ている」

同社はリーマン・ショックの不況時に新卒採用数を半分以下に減らしている。当時と同規模になってもおかしくないという認識を持っている。

リーマン・ショックの不況以上に新卒採用数減は十分ありうる

確かに直近の経済危機ではリーマン・ショック時の採用と比較する向きが多い。あのときもそれまで売り手市場から買い手市場に一転した。

20089月に発生したリーマン・ブラザーズの破綻を契機に始まった金融危機のときは、すでに09年度入社の採用活動がほぼ終わっていた。

09年度入社の新卒求人倍率は2倍を超えていたが、10年度入社は1.62倍に低下(リクルートワークス研究所調査)。大卒採用計画数も09年入社の実績に比べて19.6%も減少した。

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年卒と10年卒の変化について、20099月に取材した流通業の人事担当者がこう語っていたのが印象的だった。

「前年(08年)までは学生の完全な売り手市場だったが、今年(09年)に入ってもっと深刻になり、就職氷河期の再来というかそれ以上だ。去年は学生のみならず大学のキャリアセンターの職員も企業に対してふんぞり返っていた部分もあったし、黙っていてもうちの学生はどこかの大手に入れると高をくくっていた。

ところが、そんな楽観ムードがガラリと変わった。当社がターゲットにしている首都圏の中位校クラスの大学の就職担当者に聞いたところ、8月下旬段階の文系男子の内定率は昨年8割を超えていたが、今年は6割程度と言っていた。女子学生にいたっては5割に遠く及ばない状況であり、相当に深刻だった」

実際に、早稲田大学の10年春卒の就職希望者の内定保有率は78割にとどまり、第1志望の企業から内定をもらった学生は少ないと報じられた(『日本経済新聞』09105日朝刊)。

しかも買い手市場は10年度卒で終わりではなかった。当時、大手建材メーカーの人事担当者は「09年卒は450人、10年卒は350人。業績が回復しなければ11年卒は200人程度になる可能性もある」と言っていた。

そしてそれは現実のものとなる。11年卒の求人倍率は1.28倍に低下し、12年卒はさらに1.23倍に低下している。20113月には東日本大震災が発生したが、今回と同じように採用活動が1カ月程度ストップしている。

リーマン・ショック以降、5年間の就活低迷期が続いた

大震災も経済に影響を与えたが、復興需要によって建設業など一部の産業は息を吹き返すことになる。

しかしそれでも新卒求人倍率は13年卒1.27倍、14年卒1.28倍と低迷し、上向き始めたのは15年卒(1.61倍)からだった。

リーマン・ショック以降、5年間の低迷期が続いたが、今回のコロナショックによる買い手市場はいつまで続くのか。

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緊急事態宣言が解除されても、コロナが収束しないなかで元の経済状態に戻るのはほど遠いとの見方が大勢を占めている。

IMF(国際通貨基金)は、人との距離を置くことによる営業活動や生産性の低下が20年後半も続くとし、世界の実質経済成長率を4月の予測より、1.9ポイント低い前年比4.9%に下方修正した(624日)。日本についても前年比マイナス5.8%に落ち込むと予想している。

リーマン・ショック時の教訓は「学歴重視が高まる」という傾向

ちなみにリーマン・ショック後の09年の日本の実質経済成長率はマイナス5.5%だった。不況の谷が深いと元に戻るまでに時間がかかる。

ところで採用数が少なくなり、買い手市場に転じると就活にどんな影響を与えるのか。リーマン・ショック時の教訓は「学歴重視が高まる」という傾向だった。09年当時の電機メーカーの人事担当者はこう語っていた。

「採用数が多ければいろんな大学からも採るようにしているが、余裕がなくなると相対的に偏差値上位校の比率が高くなってくる。数はともかく、外せないのは旧帝大と早稲田、慶応。今年(09年)は去年と比べて幅広い大学に声をかけてその中から採ろうという機運がなくなった」

すでに2022年卒の採用に向けた夏のインターンシップの受け付けが始まっている。さて今後どうなっていくのか、行方が注目される。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)

人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。