オーシャン・クリーンアップ創設者 ボイヤン・スラット

日本経済新聞(ブリュッセル=竹内康雄)

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                                オーシャン・クリーンアップのボイヤン・スラットCEO=川上真撮影


米カリフォルニア州とハワイの間にごみが自然と集まる海域がある。
18000億点のプラスチックごみがあると推定され、重さは8万トンに達する。この「太平洋ごみベルト」に201910月、小さな船が現れた。約600メートルの細長いU字形の装置を使い多くのプラごみを次々に回収した。

同事業はオランダ・ロッテルダムに本拠を置く非政府組織(NGO)、オーシャン・クリーンアップが手掛ける。創設者で最高経営責任者(CEO)のボイヤン・スラット(25)は「海のプラごみをすべてなくすという目標に少し近づいた」と笑顔をみせる。年14千トンを回収できる次世代システムを複数配備し、5年以内に海域のプラごみを半減する計画を立てた。

問題意識を持ったのはギリシャでスキューバダイビングをしたとき。16歳のスラットは海中で驚いた。「魚よりプラスチックが多いじゃないか」。オランダに戻ったスラットは資料を集め、プラごみ問題を調べた。分かったのは誰もこの問題に真剣に取り組んでいないこと。「だったら僕がやる」。高校生活を解決策を考えるのに費やした。

いくつかの実験を経てアイデアを思いつく。世界には海流によりプラごみが集まる5つの「ごみベルト」がある。その海流を使ってプラごみの回収装置を最適な位置に運び、効率よくごみを集める仕組みを考えた。

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                                    回収された海洋ごみ(3)

高校卒業後、名門のデルフト工科大で航空工学を学んだ。だがプラごみの問題がアタマから離れない。プラスチックは紫外線や波の力で小さくなり、微細なマイクロプラスチックになる。これらを摂取した魚などを食べることで人間の健康に影響が出る恐れがある。考えている間にもマイクロプラスチックは海中でどんどん増え続ける。

この問題に真剣に取り組むのが自分しかいないならば「行動は早ければ早いほうがよい」。スラットは半年で退学を決断し、13年にオーシャン・クリーンアップを立ち上げた。プラごみの発生を減らすのではなく、きれいな海を取り戻す「ゲームチェンジャー」をめざす。

知名度不足に苦しんだが、ある日を境に一変する。インターネットで話した構想がメディアに取り上げられ、その後、クラウドファンディングで資金を募るとすぐに9万ドルが集まった。その後も支持は広がり14年には160カ国の38千人の個人や企業から計220万ドルを調達した。エンジニアや環境の専門家なども集まり、今では世界各国から集まった200人のスタッフを率いる。

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川から海へ出るごみを河口付近で回収する「インターセプター」(マレーシア・クラン)=オーシャン・クリーンアップ提供


プラごみの発生源近くの対策にも力を入れる。河口付近に「インターセプター」と名付けた特殊な船を配置し、流れついたプラスチックを回収する。すでにインドネシア、マレーシアなどで稼働しベトナムやドミニカ共和国にも広げる。
25年までに1千の川に配備する計画だ。「ごみが海にたどり着く前に回収すれば、漁業や観光に与えるダメージをぐっと減らせるんだ」

失敗も経験した。太平洋ごみベルトで回収に成功する約1年前、機器はごみを集められずに壊れていた。一部の科学者からは小さな海洋生物も必要以上に捕獲してしまうのではないかとの懸念も出た。「自分の力には限界がある。チームの皆に相談して少しずつ乗り越えてきた」

世界では欧州を中心に若者がデモを起こし、政治家らに地球環境対策を進めるよう声を上げている。スラットは理解を示しながらも自らは一線を画す。各国の政府高官と交渉することも多いスラットは「政府も企業も正しいことをしたいと思っている。彼らのやる気をくじくのではなく、協力して前向きな変化につなげていきたい」と話す。

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運営資金は個人や企業からのお金や現物の寄付でまかなう。プラごみをリサイクルした製品の販売も検討するが「非営利という形態は変えない」という。東南アジアなど海洋汚染が進む地域に近い日本との協業も考える。日本からの寄付はトップ5に入る。「日本人は魚をたくさん食べるでしょう。だったら海をきれいにしなきゃ」



この
100年、人類は技術はもちろん、健康や教育、人権など幅広い分野で進歩をしてきた。スラットはその進歩の副産物が環境問題という。「これからの1世紀は皆が愛するものを守り続けられるかどうかの分かれ道。これを正しい方向に持っていくのが僕のミッションだ」

(敬称略)


1994年、オランダ・デルフト生まれ。子供のころは好奇心が強く、モノをつくるのが好きだった。14歳の時には、ペットボトルを使ったロケット200基超を打ち上げ、当時のギネス記録に認定された。

16歳。ギリシャの海でダイビングをしているときに海中のプラスチックごみの多さに驚く。高校時代を通じてプラごみ問題に関心を持ち、2012年に解決につながるアイデアをネット配信で披露した。

18歳、航空工学を学んでいたデルフト工科大学を辞め、自らの構想実現に専念。非政府組織(NGO)「オーシャン・クリーンアップ」を創設した。

25歳、「太平洋ごみベルト」でプラごみの回収に成功した。50年までの海のプラごみをゼロにする目標実現に向けて一歩を踏み出す。


年間
800万トン流出、損害130億ドル

包装材や容器、電気製品などありとあらゆる用途に使われる便利なプラスチック。だが、有機物のように分解されるわけではない。海に廃棄されると時間とともに目に見えないほど小さい「マイクロプラスチック」になる。それを摂取した魚を食べた人間への健康被害が懸念されている。年間800万トンのプラスチックが海洋に流出しているという。

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経済協力開発機構(OECD)によると、プラごみの発生は海洋の生態系や漁業、観光などに年間130億ドルの損害をもたらしている。2050年には海にいる魚の重さをプラスチックが超えるとの試算もある。日本の環境省の資料によると、陸上から海洋に流出したプラごみは中国が最も多く、インドネシア、フィリピンなど上位を東南アジアが占める。リサイクル率は1割程度で、再利用が課題だ。

プラスチックによる海洋汚染は古くからあるが、国際社会で大きく取り上げられるようになったのは最近のことだ。国連は
15年に定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」で海の環境改善を打ち出した。196月に大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議では、プラごみによる新たな海洋汚染を50年までにゼロにする目標「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を採択した。

<関連記事>  プラスチックごみ、廃プラ

9. 西之島にプラごみ汚染 東京から1000キロ 海鳥被害を懸念ー中國新聞(2019.12.30) 

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.都市部になく地方で多かった意外なプラごみの正体(下)ーJBpress(191211)

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. 浮遊するプラごみで最も多いのは人工芝だった!()JBpress(2019.12.10)

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6.東京湾を漂うプラごみはどこからくるのか?()JBpress(2019.12.9)

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. 先進諸国のごみの受け入れを拒否する東南アジアーNewsweek(2019.11.28)

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4. 先進国にプラごみ滞留 中国が輸入禁止、国内処分急務ー日本経済新聞(2019.9.22)

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.フィリピン、プラごみ強硬姿勢 世界大手に対策迫るー日本経済新聞(2019.9.9)

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2.中国発「プラごみ」大流出時代に、日本企業が最後の防波堤と目されるワケーDIAMOND online(2019.8.22)

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1.大海の真っただ中を漂う 微細なプラスチックごみーMIDOsan(2019.8.1)

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