日経ビジネス(記者 大西 綾)

2020323

 

 IT(情報技術)やAI(人工知能)などのデジタル技術を使ってビジネスモデルを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。多くの企業が推進部門を設け、変革に取り組むが、そもそもDXという概念はどういう経緯で生まれたのか。

 DXを初めて提唱したのは、米インディアナ大学で教べんをとるエリック・ストルターマン氏だ。2004年、当時、スウェーデンのウメオ大学教授だった時に発表した論文「情報技術とよりよい生活について(英語名:INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE)」の中で初めて「Digital Transformation」と記した。同氏はDXをこう定義した。「全ての人々の暮らしをデジタル技術で変革していくこと」。あらゆるものがデジタル技術と結びつき、その時点で思いもつかなかったことができるようになる。そんなデジタル社会の到来をストルターマン氏はDXという言葉で予言したのだ。

 そんなDXの「生みの親」と言えるストルターマン氏にDXとはそもそも何なのかを聞いた。

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                                                                 エリック・ストルターマン氏

米インディアナ大学ブルーミントン校の情報学、コンピューティングおよび工学部の上級副学部長。主に情報技術と社会、デザイン思考などを専門とする。1981年にスウェーデンのウメオ大学情報学教授、2005年より現職。

 

Digital Transformation」という言葉が出てくる論文を発表してから約15年が経過した。そもそも、なぜこの概念を思いついたのでしょうか。

エリック・ストルターマン氏(以下、ストルターマン氏):約25年前のことです。同僚と話していた時に、ふと思いつきました。人々の暮らしのほぼ全ての領域が、何らかのデジタルフォーマットへと転換され、デジタル技術がますます影響を与えるようになる、と。

 確かに当時はDXの考え方は理解されませんでした。でも、人々がデジタル技術が将来、何をもたらすのかを知る必要はないとも考えました。いつの間にか暮らしが変わった。DXとはそういうものだと思います。

 実際、今では映画館に行くことなく、ネット上の配信サービスを受けることで、映画を見ることができますよね。スマートフォンを片手に、人々はいつの間にかAI(人工知能)を使っています。

DXを支える中核となる技術はどんなものですか。

ストルターマン氏DXのキーコンセプトは「1 or 0」です。CDがデジタル配信に置き換わったように、これまであった「モノ」がデジタル化によってなくなってしまう。この10という概念がDXには重要になります。それを実現するツールがAI(人工知能)やクラウドだと考えればいいのではないでしょうか。大事なのはこのコンセプトです。

今やあらゆる場所でDXが言われるようになりました。うまく進んでいると思いますか。

ストルターマン氏:良いことと悪いこととそれぞれあります。1つ例に挙げましょう。明日、私は授業がありますが、オンラインで済ませます。というのも、何人かの生徒が新型コロナウイルスの感染拡大を危惧していたため、オンラインに変更したのです。「スカイプ」や「Zoom」などの会議ツールが生まれ、10年前は考えられなかったスタイルで授業できる。これはDXの良いところでしょう。

 ですが、良い面ばかりではありません。昨年夏に空港に行った時、顔認証だけでゲートを越えられました。これはとても便利なことですが、別の人はデータが取られているかもしれないという怖さを抱くかもしれません。

DXは「デジタル格差」を促したとの指摘もあります。

ストルターマン氏:デジタル格差を生み出してしまったのも事実です。そして、DXがテクノロジーの課題というより、政治的な問題に関わるようになっています。スマホを使って、政治的な意思決定をコントロールしてしまうなど問題にもなりました。若い人はスマホやデジタル空間での振る舞い方を老いた人々より知っていますが、公平な視点とは思いません。

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                                 インタビューはネットを介した会議システムを使って実施した

 

確かに米グーグルのサービスは無料で使えます。一方でデータ収集への不気味さのようなものがあります。

ストルターマン氏:とあるサービスが無料で使える。それはなぜか、ということを考えたことはありますか。人々にはデジタルリテラシーをもってもらうことが重要です。なぜ無料なのか、なぜ有料ではないのか、などを常に考え続けることです。企業は収益を稼ぐことに傾きがちで、人々もそれに甘えてしまう。政府からも何らかのサポートが必要になってくるが、大事なのは人々も同じようにDXへのリテラシーを深めていくことでしょう。

最もDXが進んでいると思う企業はありますか

ストルターマン氏:グーグルと米アマゾン・ドット・コムでしょうか。2社はDXについて理解と実行がうまく進んでいるからこそ、こうした大きなパワーを手にし、成功できました。ただいいことばかり、とも言えません。独占といった新たな問題をはらんでいるからです。

DXを日本企業がうまく進めるためには何が必要になりますか。

ストルターマン氏:それぞれの地域でDXの様相は異なるので、特定の地域については分かりません。例えばアフリカは電話網のインフラを導入せずに、一気にスマホの仕組みを取り入れてしまったという事例がありましたから。

 ただ言えるのは、DXのやり方をコピーしてはダメということでしょう。各企業で問題、課題、解決方法が異なります。同じ産業だから競合と同じやり方でDXを導入しようとしても失敗するだけです。トップがDXについて正確な情報を得た上で方法を考え、戦略を社員と共有し、顧客にリーチすること。AIを導入すればいいなど、一つのソリューションで解決するのは簡単ですが、問題はそういう訳ではありません。

ストルターマン教授が描くDXのあるべき姿とはどんなものでしょうか。

ストルターマン氏:興味があるのは、technology disappearingの世界です。技術が消えるという意味ではありません。技術はこれからもどんどん使われますが、使われる場面が見えなくなっていくのです。例えば、今はスマホの画面を指でなぞるだけで、いろいろな指示を出すことができます。でも、将来はこんなことも必要にならない。住宅やビル、自動車などにスマホのような高機能端末が入り込み、話しかけたり、触ったりするだけで、ある機能を実現する。そのとき、私たちはそのテクノロジーの存在をいちいち気にすることもありません。テクノロジーを知らず知らずのうちに使いながら、より良い生活を送れるようになるのです。

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