先進自治体では企業経験のある人材を登用

JBpress(株式会社Public dots & Company 伊藤 大貴)

2020.1.15

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                   広島県はDXに取り組む先進自治体の一つ(写真は広島県庁:YUTAKA/アフロ)


 自治体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み始めている。だがDXを担う「テック系企業」の多くは公共システムの経験がほとんどない。自治体とテック系企業の間に埋めがたいギャップを埋めていく努力が必要だと、市議会議員の経験もあるPublic dots & Companyの伊藤大貴氏は指摘する。ここで先進事例として紹介する2つの自治体は、どちらも企業の経験を有する人材が首長を務めており、DXの推進に際して外部からの人材を充てていることが大きな注目点だ。(JBpress

 企業における取り組みが進み始めているDX(デジタルトランスフォーメーション)。その波が自治体にも押し寄せてきている。企業におけるDXとは、デジタル技術を利用して事業を根本的に変革することと捉える場合が多いが、自治体におけるDXとはどのようなものだろうか。

 企業がDXに取り組む背景には、これまでにないビジネス・モデルを展開する新規参入者(ディスラプター)によって、従来のビジネス構造が根本的に変化し、場合によっては社業を根こそぎ奪われることへの危機感がある。

自治体の生産性向上が迫られている

 一方自治体がDXに取り組もうとしているのは、急速な勢いで自治体のあり方が今、変わろうとしているからだ。人口減少や高齢化、都市への人口集中、自治体の財政難などが相まって、自治体が自前主義で、すべての公共サービスを提供する「総合百貨店主義」が限界を迎えている。このために自治体の生産性向上は待ったなしであることを、以前の記事「生産性向上に舵を切り始めた地方自治体」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58542)で説明した。筆者はこれを「都市のオープン化」と呼んでいる。

 DXは、単純に「既存の業務をデジタル技術を使ったものに置き換える」というものではない。自治体DXを構成する要素は大きく3つある。(1CX(カスタマーエクスペリエンス)の強化、(2)業務改善/業務改革、(3)イノベーションの創造、である。自治体におけるカスタマーとは住民のことだ。イノベーションとはたとえば、医療データ、観光データ、教育データなど自治体が持つ各種データを民間企業が活用することで、新しいソリューションやサービスを生みだし、それによって住民サービスの質が向上する、というようなことである。つまり自治体DXとは「デジタル技術の浸透で、人々の生活がより良くなっていく」ことと言える。

 5GAIIoT、ブロックチェーンなど、実用フェーズを迎えている各種のテクノロジーを積極的に活用すれば、自治体の都市経営において生産性の低い部分を民間企業のサービスやプロダクトで代替できる。それは新しい官民連携時代の到来とも言える。

自治体とテック企業の間にあるギャップ

 企業にとって、自治体のDXは新たなビジネスチャンスの到来でもある。ただ、特にDXを担う「テック系企業」の多くはこれまでの公共システム(自治体との案件)の経験がほとんどないと言っていい。このため現状では自治体とテック系企業の間に埋めがたいギャップが存在する。

 
一例がプロジェクトの進め方だ。テック系企業では、プロトタイプを作って、実装と検証を繰り返しながら、ソフトウェアを完成に近づけていく「アジャイル開発」がかなり一般的だ。しかし、自治体の計画や施策ではアジャイル的なプロジェクトの進め方はまず存在しない。現状では、事前に全体の施策体系を設計(機能設計)し、それから実行に移すという、いわゆるウォーターフォール型になっている。

 自治体がアジャイル型プロジェクトに不安を持つ理由の一つは、事前に予算を見積もれないことだ。デジタル化、あるいはオープンデータを活用した市民向けアプリ開発を3000万円の予算で始めたものの、結果的に1億円になってしまった、というときに説明責任を問われると思うからだ。

 この両者の差を埋めていくための特効薬は存在しない。ウォーターフォールが前提で組織が動いている自治体に対して、「(アジャイル開発の良さが)なんで分からないんだ」と言っても仕方がない。彼らにどう説明していくかも重要だ。だからこそ、自治体DXを推進していく中で、官と民を繋いでいく、デザインしていく存在は非常に重要になっていくだろう。

 そのためのヒントとなるのが、次に紹介する2つの自治体のDX先進事例だ。どちらも企業の経験を有する人材が首長を務めており、DXの推進に際して外部からの人材を充てていることが大きな注目点だ。

人口4000人弱の町で始まるDX

 まず福島県磐梯町を取り上げよう。

 20196月、星野リゾート出身の元町議、佐藤淳一氏が町長に初当選し、「共創協働のまちづくり」を掲げた。その中では、「人に優しいテクノロジー」を積極的に活用することで、国が進める行政のデジタル化、社会のスマート化をスピード感をもって進めていくことを宣言している(https://www.town.bandai.fukushima.jp/soshiki/seisaku/cho2room1.html)。

 佐藤町長は、11月に一般社団法人Publitech代表理事を務める菅原直敏氏を「最高デジタル責任者(CDO)」として招聘した。自治体がCDOという役職を設置するのは全国でもまだ非常に珍しい。

 一般社団法人Publitechは、「人々をテクノロジーでエンパワメントすること」、つまり人々が自分らしく生きていくためにテクノロジーを活用する、そんな世界観を掲げた非営利の団体だ。自治体がDXを推進するうえで、外部から人材を招聘するとすれば、ここの代表理事ほど適任はいなかったと言っていいだろう。

 現在、磐梯町のCDOに就任した菅原氏のリーダーシップの下に、磐梯町では行政のデジタル化に向けた準備が急ピッチで進んでいる。磐梯町の取り組みを聞きつけ、静岡県島田市は菅原氏を管理職研修の講師として呼んでいる。菅原氏によると問い合わせが殺到しており、「2020年は全国行脚をしなければいけないほど」だという。

磐梯町の人口は4000人弱と少ないのだが、この少なさがDX推進には強みとなる可能性がある。この数であれば、行政事務のデジタル化に住民が慣れるのに、それほど時間を要さずにすむだろうからだ。しかも、その効果を住民が実感しやすい。

 取り組み当初は、デジタル化による業務改善/業務改革と市民サービスの向上(CX)から着手することになるだろう。しかし、早い段階でイノベーション創出のフェーズに移行していくはずだ。磐梯町を舞台にしたデジタルサービスの開発の取り組みが始まれば、関心を持つ企業も増えるだろう。

通産官僚から起業家というキャリアの県知事が主導するDX

 同様に自治体DXの先頭を走っているのが広島県だ。広島県知事の湯崎英彦氏は、「DXの先駆者になる」と高らかに宣言している。

 同氏は通産省(当時)勤務を経て、インターネット接続会社のアッカ・ネットワークスを起業した経歴を持つ。行政もテクノロジーも企業も経験した人物が、広島県ではDXのリーダーを務めている。湯崎知事は2019年のIT/エレクトロニクスの展示会CEATECの基調講演で、広島県が取り組むDXの方向性として、(1)行政プロセスのデジタル化、(2)(農業や医療など)仕事や暮らしに関わるデータの活用による産業創出、(3)(1)と(2)から導き出されるスマートシティへの移行、を掲げた。

 広島県は20197月に「デジタルトランスフォーメーション(DX)推進本部」を立ち上げ、本部長と3人の副本部長には行政とテクノロジー、オープンイノベーションに精通した人材をそれぞれ充てた。

 本部長に就任したのは副知事の山田仁氏。経済産業省からの出向で副知事を務める山田氏は、東京大学工学部を卒業後、経済産業省に入省し、技術振興・大学連携推進課長やコンテンツ産業課長を務めてきた人物だ。副本部長には、総務省情報通信政策課などを経験し、フィンテックをはじめとしたテクノロジーに精通している向井ちほみ氏、富士通や米国のIT企業でエンジニア、コンサルタントとして活躍してきた桑原義幸氏などが就いている。

 そのほか、2020年の注目は何と言っても、元ヤフー社長の宮坂学氏が副都知事に就任した東京都だ。東京都の持つ予算の大きさとヤフー時代の人脈、経験もあって、それこそ「爆速」で、東京都はDXを推進していくだろう。副知事就任から矢継ぎ早に、ICT人材の民間登用を行い、TOKYO Data Highwayという基本戦略も発表した。これから示される東京都の2020年度予算は注目だ。

 東京都も知事が企業経験の重要性を理解したうえで外部から人材を登用しているのだ。

 ただ、現状ではこういうDXに理解がある自治体ばかりではないことも事実だ。身も蓋もない話になってしまうが、今後自治体DXと連携していくことを検討している企業はまず、感度のいい自治体を見極めていくことが重要になるだろう。

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