天牛(紙切り虫)

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2019年08月

高騰が続く食品物価、庶民の不満はいつ爆発するのか

 

PBpress(福島 香織:ジャーナリスト)

2019.8.29

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                                                         (写真はイメージ)

 中国で豚肉を中心とした食品物価の高騰が著しく、一部では“豚肉パニック”といった様相になっているらしい。

「中国では今、豚肉を買うのに身分証明書がいる」「豚肉制限令が出て、12キロまでしか豚肉を売ってもらえない」・・台湾の報道バラエティ番組が、中国の“豚肉パニック”をこんな風に報じていた。さすがにこれは、誇張のし過ぎだ、でたらめだ、と中国のネットユーザーが一斉に反論していたが、一部で豚肉購入制限が出ているのは事実で、豚肉不足と高騰が各地で確かに深刻だ。

購入量制限で庶民はパニックに

 今年(2019年)4月以降、湖北、安徽、四川、福建などの29省の一部地域で豚肉価格補填制度が導入されており、その中には、買い占め防止のために豚肉購入量の制限と身分証明書の提示が決められている地域もある。

 福建省三明、莆田の両県では豚肉の品不足と高騰があまりにもひどいことから、中秋節、国慶節にむけて、豚肉に対する補助金制度や購入制限措置を導入すると発表した。

 三明市の明渓県では、817日から107日までの週末と中秋節、国慶節には豚肉価格を平時価格に戻して発売するという。また莆田県荔城区では96日から豚肉4種(リブ肉、赤身肉、もも肉、ヒレ)に関してキロ当たり4元の補填金をつけるという。ただし両地では豚肉補助をつける代わりに、購入量を12キロまでに制限。この補助と制限を受けるためには、購入時に身分証明書が必要、という。補填最高額は1人当たり月額31元を限度とした。

 この措置が発表されたとたん、地元の庶民はパニックに陥り、スーパーにつめかけたり、電話が殺到したりしているらしい。このあたりを、台湾のバラエティ番組が面白おかしく報じたら、中国ネット民たちが激怒した、というわけだ。

庶民の不安はかなり深刻

 福建省の一部地域の対応に話を戻すと、明渓県は物価調整資金として県の4社のスーパーに対して20万元の豚肉用補助金を捻出したという。

 明渓県ではどのスーパーも1日の豚肉4種の販売量を計600キロ(ヒレ、もも肉それぞれ200キロ、リブ肉、赤身それぞれ100キロ)に制限している。消費者は1日の購入量を1人あたり2種類の肉をそれぞれ1キロまでに制限される。

 

   肉の販売の身分証提示や購入量制限については、安くなった肉の買い占め防止になるとして肯定的に受け入れられており、現地紙は「この政策に感謝している」という庶民の声を報道している。でも、豚肉を自由に買えないこの政策を「豚肉配給制か」と思う人もいるだろう。まあ、日本のスーパーの、お買い得品を「12個まで」に制限するキャンペーンと同じと言えば同じかもしれないが。

 浙江省、江西省、江蘇省、広東省はまた違う政策を立てており、養豚家への補助金などを打ち出している。浙江省は71日から1231日までの期限をきって、養豚農家に対して豚1頭あたり500元を支払うという。

 また先日の国務院常務委員会では、アフリカ豚コレラ問題が完全に収束していない中で各省に養豚ノルマを課す形の養豚業強化政策を打ち出した。こうした政府側の対応をみても、中国の豚肉をめぐる庶民の不安がかなり深刻であるということは間違いない。

完全に制圧できていないアフリカ豚コレラ

 背景には、アフリカ豚コレラ、米中貿易戦争、中国のもともとの畜産と食肉流通システムの矛盾などの複合的要因がある。

 アフリカ豚コレラは昨年8月に発生して以降、あっという間に中国で広範囲に蔓延し、今も完全には制圧できていない状況だ。中国の報道ベースでいえば、昨年8月初めから201973日までに、中国でのアフリカ豚コレラの発生は143カ所で、116万頭以上が殺処分された。

 国家統計局のデータでは、201916月、全国の生きた豚の出荷数は31346万頭、前年同期比で6.2%下降した。養豚場にいる生きた豚の数は34761万頭で、前年同期比で15%減少。ちなみに中国市場の年間の豚肉生産量は5340万トン規模、輸入量が120万トン(2017年)だ。中国の豚肉消費の全体規模が大きすぎてピンとこないかもしれないが、国際貿易における豚肉取引量が年800万トンというから、たとえば中国で豚肉生産量が15%減った場合、中国人が豚肉を食べ続けようと思うと、国際市場に流通する全豚肉を中国が買い占めてもその不足分を補えない、という話になる。

 

末端の豚肉価格でいえば、中国農業部が公表したところによると、81622日の豚肉卸値はキロ当たり平均29.94元で、その1週間前と比べると11%上昇、前年同期比より52.3%上昇した。4567月の上昇率は前年同期比で、それぞれ18.2%、14.4%、21.1%、27%という。去年20元だったトンカツ弁当が今年は30元以上するような感じだ。

 しかもアフリカ豚コレラが完全には制圧できていないのであれば、いつぶり返してもおかしくない。中国当局は、アフリカ豚コレラのワクチン開発が実験段階に入っている、としているが、しかし実用化までには810年かかるとしている。今は、アフリカ豚コレラ罹患豚を見つけたら、ただ安全に処分し完全に流通を封鎖するしかない。

 2018年のアフリカ豚コレラの影響は、単に養豚数や出荷数が減少するだけでなく、養豚家・養豚企業の激減を引き起こしており、中国の養豚産業全体を揺さぶっている。

 今年3月までに供給量が減ったため、生きた豚肉価格が急上昇した。だが4月に入ると、アフリカ豚コレラの感染地域が気温の上昇にともない北上してきたため、北部の養豚企業が、感染域が来る前に手持ちの豚を売り切ってしまおうと投げ売りを始めた。同時に、その地域の消費者は、コレラにかかった豚肉は食べたくないという心理から豚肉を敬遠するようになり、豚の需要が下落、今度は生きた豚の価格が暴落した。6月に入って、生きた豚の繁殖率の低下とともに出荷量が減少し、全国でまたまた豚肉価格が高騰。8月、豚肉の値段はピークを迎えた。

 養豚の繁殖と出荷は少なくとも半年前後の周期があり、短期間で供給量の不足を緩和するのはかなり難しい。豚コレラを恐れるあまり、母豚から子豚まで投げ売りして、養豚を廃業する企業や農家も続出した。豚肉価格は9月さらに上昇し、高止まりの状態でしばらく継続するとみられている。

 こうした豚肉価格の激しい変動によって、弱小な養豚農家は淘汰されていく。一方、いわゆる「養豚株」と呼ばれる畜産・農業企業の株は、政府がテコ入れするとの期待もあって2019年から高騰を続けている。ただ、かつて「第一豚肉株」と呼ばれた雛鷹農牧は2018年に不正会計問題が発覚し、さらにアフリカ豚コレラが重なり、30億元以上の赤字のために豚の飼料が買えずに大量の豚を餓死させたとも報じられ、上場廃止が決まっている。

 豚肉高騰のもう1つの要因として、当然、米中の貿易戦争がある。英BBCが報じているのだが、米国農業省によれば中国は82日から1週間の間、米国産豚肉1万トンを購入。これで中国は8週連続で米国から豚肉を大量購入したということになる。米国は81日に、1カ月後に3000億ドルの中国製品に10%の追加関税を1カ月後に実施するとアナウンスした。中国側はその対抗措置として、豚肉を含む米国の農産品に10%の追加関税をかけると発表している。追加関税がかかる前の駆け込み豚肉購入、というわけだ。

中国庶民の不満はどんな形で弾けるのか

 こうした状況に 中国国内メディアは「養猪喫鶏」(養豚しながら鶏肉食べよう)などという意見で、今年上半期の鶏の出荷が前年同期比15.8%増の42億羽、鶏肉生産量に換算すると6637万トン(同13.5%増)となったことなどを報じている。

「豚肉が高いのなら鶏肉をたべれば?」という、まるでマリー・アントワネットが「パンがないならケーキをたべれば?」と言ったみたいな話なのだが、そうは簡単にいかない。もしもそのとおりに豚肉から鶏肉に切り替える人が増え続ければ、鶏肉と卵も値上がり続ける。養鶏企業、養鶏農家にとっては儲けのチャンスということで「養鶏株」も値上がりしているが、養鶏には養鶏で、鳥インフルエンザリスクの流行という極めて高いリスクもある。201818月は全国で鳥インフルエンザが流行し、鶏肉価格が暴落したことがあった。

 豚肉上昇を揶揄するような、こんな小話が中国の微博で流れているそうだ。

「早朝に油条(揚げパン)を買いに行くと12.5元という。昨日2元だったじゃないか?というと、おばさんは、豚肉が高騰したからね、と言った。豚肉の高騰と油条の値上げとどんな関係があるの? というと、おばさんは、私が豚肉を食べたいからだよ、という」

 豚肉高騰は豚肉だけの高騰ではなく、生活物価全体を引き上げる。中国統計局によれば、豚肉価格の上昇が他の食品価格を吊り上げる効果によって、7月の消費者価格指数(CPI)は前年同期比2.8%上昇。このうち豚肉価格が27%上昇したことがCPI全体を0.59ポイント分引き上げたという。

 ここに人民元の急落が重なっていけば、中国で急激なインフレがおきるという予測もある。経済官僚たち恐れているものの1つは、言うまでもなく中国のハイパーインフレだ。

 ちょうど30年前の1989年、学生の民主化運動が大規模化したことの背景には、1986年から89年にかけてのハイパーインフレによる庶民の生活苦や不満があった。ひどいインフレは、デモやときには暴動を引き起こす。

 しかも、今の中国のインフレは食品領域に限定されていて、その他の分野はむしろデフレ。つまり給与が上がらないのに食品代がかさむという、庶民にとっては最も苦しいスタグフレーションに陥りかけている。

目下の中国当局サイドの反応を見るに、米中貿易戦争が今後うまくいく見込みはほとんどない。中国国内でデモや暴動の公式報道はほとんどないが、香港では反送中デモが日に日に激しくなり、これが中国にどのような影響を与えるのか、世界は固唾をのんで見守っている。香港議会では、親中派議員が香港法令にのっとった「緊急情況規例條例」(緊急法)を制定してデモを制圧すべきだという主張まででてきた。これは事実上の「戒厳令」と同じという批判が出ている。

 いたるところで緊張が極限まで張りつめている中で、中国庶民の生活物価高に対する不満がどういう形で弾けるのか、弾けないのか。チャイナウォッチャーとしては目が離せないのである。

 

 


日本経済新聞(中国総局 原田逸策)

2019/8/28 

 
中国経済の市場化が滞っている。その柱である金利自由化は開始から15年を経て、なおゴールが見えない。根底には共産党の一党支配と相いれない市場に資源配分を委ねることへの指導部の不信感がある。

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                                  金利自由化は終わりが見えない(北京市の中国人民銀行本店)

中国人民銀行(中央銀行)が20日に北京で開いた記者会見で、同日公表を始めた銀行貸し出しの新たな指標金利(ローンプライムレート、LPR)について、劉国強副総裁らは「市場化」という言葉を30回も使った。

基準金利と大差なし

LPRは優良企業向けの最優遇貸出金利で、日本のプライムレートと似た存在だ。いまは国務院(政府)が決める基準金利が銀行の貸出金利に強い影響力を持つが、今後はLPRをもとに実際の融資金利が決まる。LPRが基準金利を代替していく見通しだ。

どこが「市場化」なのか。基準金利は政府が恣意的に決める一方、LPR18の銀行が報告する値を平均して算出する。市場参加者の見方を反映するため「市場化」だという。

だが、今回の改革は当局が操作しやすい「新たな基準金利」をつくるだけに終わる恐れが強い。理由は3つある。

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                               人民銀行幹部は「市場化」を繰り返したが820日、北京市内)


まず、
LPRの算出時に参照するのが人民銀行が大手銀行に短期資金を融通する「中期貸出ファシリティー(MLF)」の金利であることだ。各行はこの金利に資金調達コストなどを上乗せしてLPRをはじくが、MLF金利の算出根拠はハッキリしない。市場金利の上海銀行間金利(SHIBOR1年物で22日は3.06%)とも差がある。MLF1年物は20184月に3.3%に上がってから据え置かれたままだが、この間にSHIBOR1年物は3.04.5%で変動した。市場を無視して当局が決める点でLPRは基準金利と大差ない。

次に、銀行が資金調達する際の預金金利は厳しい規制を残す点だ。人民銀行の孫国峰貨幣政策局長は「預金は今後もかなり長期間にわたって基準金利を残す」と発言した。業界団体「市場金利設定自律機構」を通じて「預金金利の管理を強め、市場の競争秩序を保つ」と、各行の「あうんの呼吸」で横並びとなるのを黙認した。

自由金利の国では、銀行の貸出金利は資金調達コストに取引先の信用リスクや事務費用を上乗せして決まる。貸出金利の市場化には資金調達時の預金金利も市場化する必要があるが、預金の規制をむしろ「強める」のはちぐはぐだ。

最後に、貸出金利で不正をしていないか調べるのが「市場金利設定自律機構」である点だ。中国では貸出金利の下限を基準金利の0.9倍にする暗黙の慣行がある。人民銀行の劉副総裁は「隠れた下限金利を打破する。金融当局と市場金利設定自律機構が監督する」と語ったが、これは悪い冗談にしか聞こえない。なぜなら基準金利の0.9倍を下回らないよう銀行を指導してきたのが同機構だからだ。人民銀行も166月に公に認めている。

同機構は預金金利が上がりすぎないよう「談合」に目をつぶる一方、同じ組織が貸出金利では競争を促す。こんな規制がうまくいくはずない。

制度上は自由化実現

金利自由化はお金をどこにどう配分するかを市場に委ね、経済の効率性を高める改革だ。中国では04年に始まった。もともとは国が決めた基準金利で貸し出しも預金もしていたが、徐々に銀行の裁量が広がり、1510月には貸し出し、預金の金利とも基準金利と関係なく設定できるようになった。

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表向きは自由化が実現したが、実際は貸出金利は基準金利の
0.9倍を下限、預金金利は同1.31.4倍を上限としたりする「申し合わせ」が地区ごとにできた。この業界慣行が根強く、人民銀行が市場金利を下げても貸出金利に波及せず、中小企業が苦しんでいる。

15年が経過しても金利自由化の道筋すらみえない。日本は198594年の9年間で金利自由化を実現した。みずほ総合研究所の三浦祐介主任研究員は「少なく見積もってもあと5年、実際はもっとかかるだろう」と話す。

実は記者は中国が本気になればすぐに金利自由化を実現できるとみている。制度上は自由化しており、あとは運用の問題だからだ。

具体的にはこうだ。まず、12年後の基準金利の廃止を宣言する。いきなり廃止すると契約手続きの混乱が起きるため準備期間を取る。そして中国の独占禁止当局である国家市場監督管理総局に銀行の談合行為を徹底的に監視させる。日本の金利自由化でも公正取引委員会が一定の役割を果たした。

省庁再編で18年に新設された同総局の地位は低く、人民銀行や市中銀行は言うことを聞かないだろう。そこで共産党中央規律検査委員会が談合した銀行員を摘発する。銀行は震え上がり、談合はなくなる。1617年の環境規制はこのやり方だった。預金金利は上がり、貸出金利は下がる。そもそも国有企業相手に3%も利ざやを取ることがおかしい。

そんなことを夢想したところで実現はしないだろう。習近平(シー・ジンピン)国家主席は「党がすべてを指導する」と繰り返し、市場化改革とは根底で相いれないからだ。結局、最高指導部が市場化を支持しないので今回のような中途半端な改革しかできない。人民銀行が繰り返せば繰り返すほど「市場化」はむなしく響く。

 

060925 「中原の虹」(1-4巻)(浅田次郎著)-講談社
*図・表は、クリックで拡大


作品紹介)
そして王者は、長城を越える。龍玉と天命を信じ、戦いに生きる。英雄たちの思いは、ただ1つ。
ついに歴史が動く。感動の最終章。浅田次郎の最高傑作、堂々完結!

「答えろ。なぜ宦官になどなった」
「将軍はなにゆえ、馬賊などにおなりになられたのですか」
最後の宦官になった春児と、馬賊の雄・春雷。極貧の中で生き別れた兄弟は、ついに再会を果たし、祖国は梁文秀の帰国を待ち望む。
龍玉を握る張作霖。玉座を狙う袁世凱。正義と良識を賭けて、いま、すべての者が約束の地に集う。

第42回吉川英治文学賞受賞

 
日本経済新聞(編集委員 中沢克二)

2019/8/27 

 
「(中国国家主席の)習近平(シー・ジンピン)にとって、トランプ(米大統領)が仕掛ける終わりのない貿易戦争、そして香港問題が思わぬ天の助けとなった」「持久戦を戦うにはまずは安定、団結だ」。先週以来、中国側から聞こえてくる声である。

激しい権力闘争を戦う習近平の基盤を揺るがしかねない米中貿易戦争と香港問題が天祐(てんゆう)だったといわれても、にわかには信じられない。とはいえ、ある程度、納得せざるを得ない証拠が出てきた。25日付共産党機関紙、人民日報の1面トップ論文に初登場した大見出しである。

「人民の領袖は人民を愛す」。この署名入り論文は、甘粛省を視察した習近平が人民に寄り添う領袖だと訴えている。河北省の海浜リゾートに現役指導者と長老らが集った「北戴河会議」が終わって10日余り。絶妙な時期だけに意味は大きい。

昨年は「個人崇拝」で批判浴びる

過去、共産党内で「人民の領袖」と呼ばれたのは新中国建国の父、毛沢東だった。70年前の建国前、共産党は黄土高原にある陝西省延安を根拠地とした。延安時代の毛沢東の敬称が「人民の領袖」。後の神格化運動の起点だった。毛沢東にはさらに格の高い「偉大な領袖」という敬称もある。


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習近平主席には毛沢東と同じ「人民の領袖」という称号が大々的に使われ始めた(中国内の展示から)

 
死を前にした毛沢東が後継者に指名した華国鋒は「英明な領袖」とされた。だが、毛沢東式の個人崇拝を毛嫌いする後の最高指導者、鄧小平によって事実上、失脚に追い込まれた。習近平は毛沢東並みの高みを本気でめざしている。目標実現のメドは、3年後の2022年に開かれる共産党大会だ。

布石は既に打たれている。中国は183月、憲法を改正して「210年まで」としてきた国家主席の任期制限を撤廃した。実は「終身の主席」に道を開いた際、側近らは習近平を毛沢東並みの「人民の領袖」と呼ぶキャンペーンに着手していた。

まず、1980年代から習近平をよく知る側近が動いた。全国人民代表大会(全人代)常務委員長の栗戦書である。改憲を成し遂げた全人代の閉幕演説で習を「人民の領袖」「新時代の国家のカジをとる人物」と持ち上げたのだ。

18年夏にかけて中国メディアには「人民の領袖、習近平」という文字が踊り始めた。「黄土高原からやってきた人民の領袖」という内容のビデオも広く流布された。多数の犠牲者を出した悲惨な文化大革命(196676年)の時代、まだ少年だった習近平は、延安に近い農村でいわゆる「下放」生活を送った。その地名、梁家河にちなんだ学習運動も始まろうとしていた。

ところが、大きな落とし穴が潜んでいた。余りに急ぎ過ぎたのだ。長老らへの丁寧な説明もない。案の定、幅広い合意を得られていない動きは、長老らや非主流派から激しい抵抗にあう。「新しい形の個人崇拝=神格化ではないのか」という批判だ。これが18年夏の「北戴河会議」の要諦である。

そこには正当な根拠があった。「個人崇拝を明確に禁止している共産党規約に違反している」というものだ。ちなみに「習近平新時代思想」を盛り込んだ17年共産党大会の党規約改正でも、個人崇拝の禁止規定は維持されている。「改革・開放」政策を打ち出した鄧小平は、毛沢東が発動した文化大革命の悲劇を二度と起こさないように党規約で個人崇拝を禁じたのである。

対トランプ持久戦、そして香港も


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         トランプ米大統領()との「持久戦」を意識する習主席=右(6月、大阪での米中首脳会談)=AP

厳しい雰囲気のなか、勢いのある習近平派といえども無理はできない。ひとまず大勢に従うしかなかった。18年の夏が過ぎると、梁家河にちなむ学習運動も事実上、棚上げされてしまった。中国メディアが「人民の領袖、習近平」を目立つ形で取り上げることもなくなった。

1年後の19年夏、情勢は動いた。習近平が再び大々的に「人民の領袖」と呼ばれ始めたのだ。大逆転といってもよい。人民日報1面トップ見出しへの登場は「北戴河会議」で一定の了解を得たという公式宣言である。その翌日には、中国国営中央テレビでも同様の評論が放送された。

「裏で様々な議論があったとしても、(北戴河の)表の話し合いは、さほどもめなかったようだ」。中国関係筋の間では、こういう理解が多い。

予測不能なトランプに対抗して対米持久戦を戦い、共産党統治の危機につながりかねない香港問題に腰を据え
て対処するには、毛沢東に肩を並べるような「人民の領袖」が必要である。それが直近の暗黙の了解に見える。

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                            香港ではデモ隊への実弾威嚇発砲も(拳銃を構える警察官(25日、香港)=ロイター



人民を愛し、人民から愛される領袖、習近平。人民日報論文はそのイメージづくりを再び始める号砲である。「北戴河会議」後の習近平の甘粛視察はその地ならしだった。

しかも1カ月先の101日には、北京で新中国建国70年の式典が大々的に開かれる。習近平は甘粛での空軍基地視察の際、「新時代の強軍思想」を訴えている。米国との厳しい対峙のなか国威を示す大軍事パレードがある予兆である。

その時、天安門上には習近平とともに歴代トップを含む長老らが並ぶ。長老らは15年の軍事パレードでも天安門の上に姿を現した。健康に問題がない限り今回も登場する。元国家主席の江沢民、前国家主席の胡錦濤、元首相の朱鎔基、前首相の温家宝……。高齢の長老らが今夏の「北戴河会議」に自ら参じたかは不明だ。だが、長老らの意向は確実に習指導部に届いたはすだ。

建国70周年軍事パレード前の団結


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陝西省に「下放」されていた際の習近平主席(右、梁家河の記念施設の展示から)と習氏が暮らした、オンドルのある洞窟式住居(陝西省延川県梁家河)

 70周年の晴れ舞台に天安門へ登る以上、「国難」に立ち向かう習近平に一定の礼を尽くすのは当然だ。それが対外的には「一枚岩」を強調する共産党のしきたりである。習にとっては確かに天祐といえる。極めて評判が悪かった18年の憲法改正が今ようやく名実ともに承認された。そんな評価もできる。

半面、鄧小平が築いた政治的遺産は失われつつある。毛沢東式の独裁を封印するため党規約に個人崇拝禁止を盛り込み、憲法で国家主席に「210年まで」という任期制限を設けた。これが文化大革命の混乱を終わらせ、高度経済成長に突き進む前提だった。

鄧小平は89年の天安門事件を引き起こした責任という十字架を背負いながらも、豊かな中国を実現する基礎を固めた。鄧小平の指名で後を継いだ江沢民と胡錦濤の執政期間を含めて「鄧小平時代」といってよい。「習近平新時代」の勢いは「鄧小平時代」の残り香までも消してしまうのか。

とはいえ人民日報の「人民の領袖」論文が示す了解が、危機対応を優先したかりそめの団結なのか、真に安定した「習近平新時代」の到来を意味するのかは、もう少し長い目で観察する必要がある。

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                               長老らが北京の天安門上に並んだ20159月の軍事パレード=柏原敬樹撮影

 まず見るべきは、1年近く延期されてきた共産党中央委員会第4回全体会議(4中全会)の行方だ。今夏の「北戴河会議」がもめなかったとしたら、「4中全会」を開く前提条件も整ったはずだ。中長期の経済政策の大方針を議論する重要会議を開けなかったのは「党内に足並みの乱れがあったから」という見方が多い。

規定では19年末までに開く「4中全会」で決まる国内、対外経済の大方針は、トランプ政権との貿易交渉の行方を大きく左右する。習近平にとって後ろから弾を撃たれない体制が本当に固まったとしたら、ある程度、裁量を持った大胆な対米交渉が可能になる。注目したい。(敬称略)

 


Money Voice(
鈴木傾城)
2019
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米中貿易戦争は終わらない。勘違いしてはいけないのは、アメリカがこれほどまで中国を叩くようになったのは、アメリカ側に問題があるのではなく、中国側に問題があることだ。(『
鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』鈴木傾城)

関税だけじゃない米中戦争

201876日、「中国が知的財産権を侵害している」としてアメリカが340億ドル規模の製品に25%の追加関税をかけると、中国もアメリカに340億ドル規模の報復関税を課した。

 

それを見たアメリカは2018823日に第2弾として、160億ドル規模の追加関税を発動、中国も再び報復関税をかけた。そこでアメリカは924日に2,000億ドル規模の製品に10%の追加関税をかけ、中国も600億ドル規模の報復関税をかけた。

エスカレートしていく貿易戦争の打開に両者は現状打開に向けて話し合いを続けてきたが交渉は決裂、トランプ大統領は2019510日に10%の追加関税を25%に引き上げて、さらに今後は3,000億ドル規模の製品に最大25%の関税引き上げもあり得ることを中国に通達している。

 

これに対して中国もまた「戦うなら付き合う」と徹底抗戦を表明し、報復を検討している。今後、中国が取り得る報復は報復関税だけでなく、「アメリカへのレアアース輸出完全禁輸」「アメリカ国債の大量売却」「アメリカ企業の中国市場販売制限」などがある。

 

アメリカもまた追加関税だけでなく、チベット・ウイグルの人権弾圧の問題化や、台湾に絡んだ「ひとつの中国」の脱却や、香港の「一国二制度」の維持への表明など、次々と中国を追い込む政策を進めている。

グローバル化を悪用してきた中国

201810月、アメリカの副大統領マイク・ペンスは「中国は政治、経済、軍事的手段、プロパガンダを通じて米国に影響力を行使している」と中国の振る舞いを50分に渡って激しく批判した後、このように述べた。

 

大統領は引き下がらない。米国民は惑わされない

ドナルド・トランプ大統領も20192月に上下両院合同会議での一般教書演説の中でこのように述べている。

中国は長年にわたり、米国を標的とし知的財産を盗んできた。我々は今、中国に対し、米国の雇用と富を盗み取るのはもう終わりだと明確にしておきたい

アメリカのメッセージは明快だ。「中国とは徹底的に戦う」のである。それが、アメリカの選んだ道である。だから、このアメリカと中国の対立は「新冷戦」と呼ばれるものになっている。

 

勘違いしてはいけないのは、アメリカがこれほどまで中国を叩くようになったのは、アメリカ側に問題があるのではなく、中国側に問題があることだ。

 

日本には常に中国側に立って中国を擁護してアメリカを叩く親中反米主義者が大勢いて、彼らはこのように言っている。

トランプ大統領が次の選挙しか考えていないから中国を叩いている
アメリカ第一主義の方が中国よりも悪い
アメリカの排斥の方が中国よりもひどい

そうではない。中国共産党政権がやってきた「あらゆる不正」が問題視され、それを改めようとしないから貿易戦争が勃発し、今のようになってしまっているのだ。

 

中国の「あらゆる不正」

中国の「あらゆる不正」は、もはや数え上げることすらもできないほどのボリュームである。

多くの国に大量の工作員を潜り込ませ、意図的に情報を盗み取っていくというのは通常の諜報活動だが、中国がやっているのはそれだけではない。

工作員をターゲットの国に潜り込ませるのは諜報活動の基本だが、中国の恐ろしさは工作員だけが工作活動をしているわけではないところにある。

 

中国共産党政権は、外国で働いている中国人社員に対して、中国に残っている家族を人質にして圧力をかけたり報奨金を出したりして、最先端技術を持つ企業から情報を盗ませたりしている。

あるいは、それぞれの大学に潜り込んだ学生や教授に情報を最先端技術や研究成果や論文を盗んで中国に持ち込ませている。中国はその盗んだ情報で特許を取る。これについては「米国の知的所有権窃盗行為に関する委員会」が調査を行って裏付けを取っている

 

トランプ大統領は中国人留学生が最先端分野を専攻する学生を制限する項目を「国家安全保障戦略」の大統領令の中に盛り込んで発動させたのは、まさに大学が知的財産の強奪の舞台となっていたからでもある。

 

ついでに中国は、孔子学院のような洗脳機関を世界各国の大学内に設置して、学生を中国の都合の良い歴史プロパガンダで染め上げている。

 

中国は、ここで洗脳が効いて中国の言いなりになった学生に中国の主張を代弁させたり、工作活動させたりする。これについては米国防総省が動いて、アメリカの大学は次々と孔子学院の閉鎖を決定した。

さらに中国は、技術や特許を狙って世界各国の企業を次々と買収している。

中国市場に目がくらんでやってきた外国企業には必ず中国企業との合弁会社を作らせて技術を盗めるようにしている。中国政府が求めれば技術を開示しなければならないような法を作ったりもする。

中国企業を通して世界支配をする

そうやって世界中の知的財産を意図的に窃盗して、中国共産党と結託した中国の企業が世界でシェアを取れるように画策する。

 

中国の企業は、内部に共産党の委員会があって、そこの「書記」が会社の創業者や社長よりも権限を持つ。そして、中国共産党政権と結託した企業経営者が中国政府から補助金をもらって世界に切り込んでいく。

中国の企業は、事実上「中国共産党政権の手先」であると言われるのは、会社内部の共産党組織の支配と補助金によるものである。そして、中国の企業が急激に世界でシェアを取れるような技術とスケールを持つようになった理由もここにある。

中国人でなくても中国共産党の支配を受けることに

中国共産党政権があらゆる不正で世界中の知的財産を強奪し、それを自らの支配下の企業にカネと技術を流し込んでシェアを取らせて世界を荒らし回っているのだ。

1.        世界中の知的財産を窃盗する

2.        手先の中国企業に技術と補助金を流し込む

3.        中国企業に世界でシェアを取らせる

4.        中国企業を通して世界支配をする

これが中国共産党政権がやろうとしていることだ。そして、この不正なやり方で中国共産党政権が次世代を支配すると宣言したのが『中国製造2025』という産業政策である。

 

この政策で中国は次の分野で世界を支配すると言っている。

1.        次世代情報通信技術

2.        先端デジタル制御工作機械とロボット

3.        航空・宇宙設備

4.        海洋建設機械・ハイテク船舶

5.        先進軌道交通設備

6.        省エネ・新エネルギー自動車

7.        電力設備

8.        農薬用機械設備

9.        新材料

10.     バイオ医薬・高性能医療器械

11.      

これが成就すると、私たちは中国人ではないのに、中国共産党政権に間接的支配されるということになる。

盗んだ知的財産で世界トップを狙うという戯言

中国共産党政権の支配下にある中国企業は、他国から徹底的に盗んだ知的財産と、共産党政権から流し込まれた補助金によって世界を荒らし回り、シェアを取り、最終的には世界を支配しようと画策するようになった。

 

「中国の技術が世界をリードするからアメリカが焦っている」と、いかにも中国が技術大国のように語るアナリストもいるが、中国が最先端技術で世界をリードしてるように「見える」のは、そもそも知的財産の強奪の結果なのだから話にならない。

 

問題は中国が徹底的に盗んだ知的財産で世界を支配しようとしていることなのだ。それが『中国製造2025』の骨子なのである。

バックには中国共産党政権がある

アメリカが今、中国に対して矢継ぎ早に対応策を出さざるを得ない状況になっているのは、もはや時間が残されていないからでもある。

 

なぜなら、中国の5Gの技術がそれぞれの国の中枢に使われたら全世界の機密情報が中国共産党政権に完全に漏洩することになって、直接的にも間接的にもアメリカの機密情報が保てなくなるからだ。

 

アメリカがファーウェイを徹底排除しようとしているのは、まさにファーウェイが中国共産党政権の手先であり、5Gの根幹にある企業だからだ。ファーウェイのバックには中国共産党政権があり、この企業と中国政府は一体化して動いている

ファーウェイはただの企業ではないのだ。

本来であればファーウェイは死に体である。普通の企業であれば完全に死んでいる。しかし、これだけの逆風にさらされてもファーウェイが潰れないのは、ファーウェイの裏に中国共産党政権がいて「潰さない」からに他ならない。

 

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。

 

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