天牛(紙切り虫)

私が関心のある、気に入った、「新聞」・「メルマガ」等のニュースをまとめて紹介します。「コメント」は歓迎ですが、「公開」の前に、判断をさせていただきます。

2019年06月

習近平が叩き壊した中国経済、帰りのバスに乗り遅れるな


JBPRESS(
福島 香織ジャーナリスト)

2019.6.27

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                                                     上海高島屋の外観(高島屋ホームページより)

 日本の代表的な百貨店、「バラの包みの高島屋」が中国から撤退することになった。折しも、仏資本の大型スーパー、カルフールが中国量販店の蘇寧に株の8割を叩き売って、中国市場撤退を表明した直後。マクドナルドの中国事業も2017年に中国中信集団(シティックグループ)に買収されたし、アマゾン・ドット・コムも中国国内向けネット通販事業からの撤退を発表。いよいよ小売業界の中国市場撤退ラッシュもピークに入った感がある。

 フランス資本スーパーの星、カルフールは623日に、中国事業の株の80%を中国の家電量販店を前身とする小売・EC大手の蘇寧電気・蘇寧易購に譲渡すると発表した。カルフールは今年(2019年)末までに中国市場から完全撤退するとも宣言。蘇寧は同時に、子会社の蘇寧国際がカルフール中国の株80%を48億元で購入したと発表した。残りの20%の株はカルフール集団が保持しているが、その残り20%の株もいずれ譲渡する模様で、それが譲渡し終わったとき、カルフールの中国市場完全撤退が完了するということらしい。今後は、中国のカルフールは蘇寧のスーパーということになる。

カルフールの功績と転落

 カルフールは欧州最大、世界第2位のスーパーチェーンで、1995年に中国市場に進出した。全国2251都市に210の大型店舗および24のコンビニ商店を構え、6つの配送センターを運営。店舗総面積は400万平方メートルという。だが、昨年の中国市場における売り上げは299.5億元。前年比7.67%減で純利益はマイナス5.6億元の赤字だった。

 蘇寧は2018年の営業収入が2453.11億元で、純利益は133.28億元。営業収入は2017年比で30.53%増。利益の源泉はネット通販が主流になりつつあり、ECサイト蘇寧易購には11000以上の加盟店をもっている。7年連続して中国の「100強チェーン」のトップである。

 カルフールの中国市場における全盛期は、私の北京勤務(200208年)と被っているので、完全撤退のニュースはちょっと感慨を覚えた。中国にカルフールの第1号店舗が誕生したのは1995年、北京で最初の外資超市(スーパー)だった。北京市民に「家楽福」として親しまれるようになったのは、2004年の方円店オープン以降ではないかと思う。当時、中国人の友達と「カルフールに行く」というのは単なる買い物以上のイベント感があった。

2003年に北京に進出した米資本のウォルマートとともに、98年以来、北京の外資高級スーパーとして愛されてきた日本のイトーヨーカドーの脅威ともなった。折しも動物由来のコロナウイルスによる感染症SARSや、人に感染する鳥インフルエンザの流行があり、食品安全ブームが起きたことも重なって、中国で元々あった生鮮食品の露店市場の淘汰が始まっていたタイミング。外資系スーパーが安全で清潔な生鮮食品を買うのに最適な場所という認識が広まり、特別な高級品を買う場所から都市中間層の台所という位置づけに変わりつつあるころだったと思う。2007年、2008年は「中国百強チェーン」の第6位、第3位に輝いた。

 振り返れば、中国の都市中間層のライフスタイルを激変させる大きな牽引力となったのが、カルフールに代表される外資系スーパーだった。しかしカルフールは2012年ごろから業績に陰りが見え始めた。2014年から2015年にかけて売り上げが大幅に落ち、2016年に心機一転を図って新たに85店舗の大型店を開店させるが、これが失敗。2018年は19店舗が閉店に追い込まれた。

先読みが甘かった高島屋

 日本の高島屋も中国市場撤退を発表した。今年8月に上海のフラッグシップ店の閉店をもって中国業務を停止するとした。その代わり東南アジア業務を拡大する計画だという。

 高島屋は2012年に上海にフラッグシップ店を開店。これが総面積4万平方メートルという大規模なもので、当時からリアル店舗の小売業がECに飲み込まれる形で落ち込んでいるのに「なぜ今、大型店舗?」と疑問の声が沸き起こっていた。日経新聞などによれば、当時の日中関係悪化による「日貨排斥」(日本製品のボイコット)ムードが経営に悪影響をもたらし赤字から抜け出せなかったというが、日中の政治的要因よりは先読みの甘さではないかと思う。そもそも日本企業の中国進出に必ず反日リスクが付きまとうのはわかっていたこと。

 高島屋はベトナムのホーチミン、タイのバンコク、シンガポールに店舗を持っており、今後は中間層が拡大しているベトナムなどに力を入れていくらしい。


外資小売が中国市場に見切り

 この数年の間、中国では外資小売の撤退がブームだ。2014年は英国のテスコ、2016年は英国のマークス・スペンサーが撤退。2017年は韓国のロッテ・マートが撤退。小売とは違うが同年は、マクドナルドの中国事業の、中信集団と米投資ファンド、カーライルによる共同運営会社への売却が話題となった。今年4月には米ファストファッションストアチェーン、Forever21が中国におけるオンライン販売業務を停止し中国市場から撤退。前後して英国のニュールックも撤退。仏オーシャン(Auchan)は小売事業を台湾発の大潤発に委託。スペインのZARA、スウェーデンのHMも次々、店舗を閉店している。

また年初から、シンガポール政府系ファンド、テマセクが香港のドラッグストア大手ワトソン・グループの株式売却を検討しているとのニュースが流れている。ウォルマートも店舗を減らしているし、撤退は時間の問題かもしれない。

 
背景にあるのはもちろん中国小売市場の冷え込みだ。
ECが消費の主流になり、しかも不動産価格の高止まりでテナント料も高止まりのなか、百貨店や大型スーパーのような経費のかかる店舗経営は成り立たなくなってきた。蘇寧だって北京の路面店はガラガラだ。気になる人は5月の経済統計を見てみることだ。食品とエネルギーの消費者物価指数は上がっているが、その他のCPIは低迷。経済は冷え込んで、外資小売で売っているような高級品に対する消費者の財布の紐は締まる一方だ。

 だが、それだけではないだろう。2004年から中国市場にしがみついていたアマゾンは、オンラインショップ全盛だというのに結局シェアを1%もとれずに2019年に撤退を発表した。米ライドシェア大手、Uber2014年に中国市場進出したが、2016年には中国のライドシェア大手滴滴と競争を断念し中国事業を8億ドルで売却してさっさと撤退した。

 要するに小売市場が、というより中国市場全体が、今後、外資にとって儲かる市場ではないということがはっきりしてきたということなのだ。


米中貿易戦争の本質とは

 習近平政権はもともと外資にも民営にも冷たい。

 中国は今年3月に外商投資法を可決し、あたかも市場の対外開放に大きく舵を切るようなサインを出した。だが、どう考えても米中貿易戦争の行方に明るい未来はない。G20の米中首脳会談では貿易戦争が最大のテーマとなり、ひょっとするとなにがしかの前向きなメッセージが出されるかもしれないが、これがもはや単なる経済問題でもないことは誰の目にも明らかだ。華為(ファーウェイ)のグローバル市場締め出しも、単なる5Gの国際標準争いではない。

 これは西側自由社会と中国共産党式管理社会という価値観の衝突、対決であって、米中どちらかが自分たちの価値観を捨てない限り、解決し得ない対立なのだと思う。だが米国や私たちが民主や自由や法治を捨て中国のやり方を受け入れることは考えられないし、中国はこのままの体制であれば、西側社会の言うような法治や自由や民主を受け入れることはない。同じルールでビジネスができなければ、外資企業が中国市場で中国企業を相手に勝てるわけがないではないか。

今までは、中国企業をライバルにすることなく、中国企業と組んで中国市場で稼ぐことができた。だが、それは中国側が、安価な労働力や、環境汚染しても文句を言われない地方の土地を提供する代わりに、外国企業が技術やノウハウ、資金を提供するという組み合わせが、たまたま双方が納得する形であっただけだ。

 しかも、当時の中国は外国の技術と資金が喉から手が出るほど欲しかった。そのため「いずれ米国式ルール、価値観を中国も徐々に受け入れていくつもりだけれども、時間がちょっとかかりますよ」というポーズを見せていた。

 ところが、習近平政権になってからは、西側のルール、価値観は全否定。外国のハイテク技術を我が物とし、その国産化を掲げ、その国産ハイテク技術をもって海外市場に進出し、自分たちより国力の弱い国々に、中国式ルールを受け入れよ、という。米国にすれば、それは米国から不当に盗んだ技術だ。

しかも中国式ルール、つまり西側の言う法治ではなく、中国共産党が法を使って仕切るルールを拡大することで世界秩序のスタンダードにしようという野望を隠さなくなった。それが「一帯一路」という経済一体化戦略の狙いの
1つだ。そのことに気づいた米国が、中国に対し、米国はじめ西側陣営とフェアにビジネスをするならば、中国式ルールでなく米国式ルール、つまり法治を基礎とした自由主義市場スタイルでなければ受け入れられないと主張しているのが、米中貿易戦争の本質だ。

踏み絵を踏まされる各国企業

 法治を基礎とした自由主義市場を中国が受け入れれば、共産党体制の崩壊につながるから中国は断固、受け入れられない。なら、どうなるかというと、西側自由主義市場経済ルールの社会共産党式新権威主義市場(共産党式国家資本主義)の社会に分断される「新COCOM(ココム)体制」ともいうべき構造に行き着くという予測がある。

 冷戦時代のココムとは「対共産圏輸出統制委員会」の略で、戦略物資を中心としたココムリスト(禁輸品目リスト)に載った製品の対共産圏禁輸の監視と違反に対する制裁を担った。今、米国がやろうとしているファーウェイ製品の締め出しは、まさにココム体制の復活に他ならない。

つまり、世界市場は米国派(自由主義市場、法治)と中国派(新権威主義市場、共産党管理市場)に分断され、各国、各国企業はどちらを選ぶか踏み絵を踏まされる覚悟が必要だということだ。

 共産党式新権威主義市場ルールが本当に経済的繁栄をもたらすというなら、利益優先の企業ならば中国市場を選ぶという選択肢もあるだろう。だが、今の中国の経済状況をみれば、このやり方はうまくいかない。習近平の反鄧小平路線以降、中国経済の市場縮小、低迷は明白だ。中国の御用エコノミストは「バブル崩壊や金融危機というのは自由主義市場だからこそ起こるので、共産党の管理が強化された市場であればバブルは崩壊しない」といった説明で、習近平政権の市場管理強化を肯定するが、バブルを完全にコントロールする方法など私にはあり得るとは思えない。

 今はまだ2012年まで続いた改革開放路線の恩恵で、中国経済にまだ商機があるように見えているかもしれない。しかし習近平政権になってからの民営企業イジメや株式市場介入などを見る限り、中国経済はこのまま失速し長い停滞期に入るだろう。

 もう1つ。この踏み絵が価値観の問題だとすれば、「法治を基礎とした開かれた自由社会」と「共産党管理統制の閉鎖的な全体主義社会」と、どっちの社会に属したいのか、という問いに、人として選択が迫られている。

 もちろん、経済の屍こそが金になるというハゲタカ企業、ヤバい市場こそ燃える冒険主義的企業、儲けになれば人権や価値観などどうでもいい言い切れる企業にとってのチャンスとポテンシャルは否定できない。だが、それでも「帰りの最終バス」に乗り遅れないよう時刻表には注意する必要があるようだ。G20の米中首脳会談では、その時刻表が多少見えてくるかもしれない。

 

DIAMOND online
2019/06/26


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深センの夜景。急成長する中国を未だに甘く見ている日本人が少なくありません Photo byTakuya Oikawa


中国の製品・サービスが「安かろう悪かろう」と軽んじられてきたのも、今は昔。QRコード決済やAIなど、テクノロジーの分野で中国は日本を既に追い越し、米国に迫ろうとしている。マイクロソフト、グーグルでエンジニアとして活躍し、現在は複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏が、中国で目にしたIT事情を解説しながら、日本の技術、ITの進化に関わる課題を浮き彫りにする。(クライスアンドカンパニー顧問 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)

IT技術を使えない・学ばない人に優しすぎる日本

 昨年、深センと上海を数回訪ねましたが、今や中国では若年層から年配層まで幅広い年代の日常生活の中にITテクノロジーが浸透しています。

 決済については、既にさまざまな報道で紹介されているとおり、スマートフォンによるQRコード決済が一般的になっています。「AliPay(支付宝/アリペイ)」や「WeChat Pay(微信支付/ウィーチャットペイ)」など、日本でも百貨店や家電量販店、ドラッグストアなどで、加盟店ステッカーを見たことがある方は多いでしょう。

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                                   地下鉄専用のアプリがあり、入り口と出口でQRコードをスキャンして改札を通る  Photo by T.O.

 深センや上海では、このQRコード決済を屋台のおじさん、おばさんも普通に使っています。これはすなわち、中国の一般の人のITリテラシーが高いことを示しています。実際、6070代の人が「モバイル決済がないと生活できないから」という理由で使いこなしています。どうやら最初だけお子さんやお孫さんがセットアップするなどして、使い方を教えれば、その後はそれほど難しくないので自分で使えるようになっていくようです。

 日本で同じようにQRコード決済を普及しようとしたら、最初に「使えない人たちをどうするか」が問題になることでしょう。

 日本は、IT技術を使えない人に優しすぎるのではないかと感じることがあります。私たちIT技術者はしばしば、システムやアプリの開発の際に「素人には分からない。もっと分かりやすくしてください」と頼まれます。もちろん分かりやすく、使いやすくするのは大切ですが、「さすがにこれなら使えるだろう」というレベルに到達しているものに対しても、指摘が入ることが多いのです。

 つまり、中国の人は最新のIT技術を使いこなすために学ぶ努力をしているのに、日本ではその努力を求めるのはいけないことのようになっています。

 日本人もかつてはそろばんなどで、計算の技術とツールの使い方を学んできました。スマートフォンよりそろばんの方が、よほど使いこなすのは難しいと思いますが、ちゃんと使えていたのです。ところが話がITになると「学ばなければ使えないなんておかしい」となり、それが正義となってしまっています。今や3歳児でも、スマホやタブレットでYouTubeの動画を再生できる時代です。中国人にできて日本人にできないというのは、IT技術を学ぶことに対する、ある種の甘えがあるからではないでしょうか。

 こうしたIT技術を学ぶことへの姿勢は、ひいては国際競争力に影響すると私は考えています。日本人はITを学ぶことへの姿勢・考え方を改めなければならない、と中国人のITリテラシーの高さを実際に見て感じました。

社会受容性の低い日本では新しい技術がなかなか試せない

 中国ではQRコードを使った、さまざまな面白いサービスが生まれています。私もいろいろ試してみましたが、中には「これは到底、サービスとして成り立たないだろう」と思えるものもありました。

 例えば、とある外資系のスーパーで使われていた「無人レジ」をさらに発展させたシステム。これは、アプリをインストールするとスマホがバーコードを読み取るスキャナーになり、店頭商品を買い物カゴに入れるときに自分でスキャンすれば、そのまま持ち帰れるというものです。確かに楽ですし、レジスペースを無くすこともできます。しかし店員が、店を出る前に念のためカゴの品物を確認する仕組みになっていて、その手間がすごくかかるため、実際の運用は難しそうでした。

 ただ、そこには「一応やってみる」という姿勢があります。ダメでもいいからつくってみて、試してダメならやめる。それが可能だから、そうしたサービスが雨後のタケノコのようにどんどん出てきている。つまり、彼らは、失敗から学んでいるのです。これは中国の「社会受容性」の高さが成せる技だと思います。

 新しいサービスの中には、多少リスクがあるものも、たくさんあります。中国だけでなく米国でも、クルマの自動運転の実証実験が行われ、シリコンバレーなどでは何台もの自動運転車が走っています。その中には、事故を起こしたものもありました。もし日本で同じことが起きれば実証実験を行えなくなり、実用化はかなり先になるでしょう。

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米国では自動運転車の実証実験も盛んに行われている。もし日本なら、事故が起きれば、実用化が遠のく可能性も高い Photo byT.O.


 米国では事故が起きたからといって、全ての州で自動運転の実証実験を禁止することにはなりません。もちろん議論の中で「安全性をきちんと確認してほしい」という話にはなりますが、「新しい技術にはリスクがある」「人間が運転しても、同じように事故が起こるかもしれない」という考え方が当たり前で、「実験をやめろ」という意見が大勢を占めることはありません。これが新しいものに対する社会受容性だと思います。

 AIをはじめとする新しい技術が登場しているのに、社会受容性が低い日本では実験すらできない。これでは先進的な技術を実装することができず、ITの進化は遅れてしまいます。日本でも昔は「やってみてダメならやめればいい」と新しい技術や仕組みにトライする姿勢があったはずですが、今の日本の姿勢には強い危機感を覚えます。

日本企業は米国の「まね」もしなくなってしまった

 先進的なビジネスを始めるときの手法で「タイムマシン経営」と呼ばれるものがあります。米国で成功したビジネスモデルが日本に広まるまでに数年の「時差」があることを利用して、米国の「まね」をして日本にいち早く導入できれば成功する、という考え方です。ソフトバンクグループ代表の孫正義氏が1990年代後半に提唱していました。

 しかし近頃の日本企業は、このタイムマシン経営すら実行に移せていません。最近では「AmazonEcho(アマゾンエコー)」や「GoogleHome(グーグルホーム)」といったAIを搭載したスマートスピーカー開発で追いつけていないのが、そのいい例です。

 初代のアマゾンエコーが米国で発売されたのは、201411月のことです。その後2世代目にアップデートされていますが、日本での発売は201711月。また、グーグルホームが米国で発表されたのは20165月、発売は同じ年の11月です。こちらは、日本では201710月に発売されています。

 つまり両社とも、日本展開には1年半から3年ほど時間がかかっています。その間に、日本の大手AV機器メーカーが独自のスマートスピーカーを生み出せる時間と技術力はあったはずです。しかし、彼らが独自製品を出すことはありませんでした。それどころか「グーグルのAIアシスタントが搭載されたスピーカーをつくる」と完全に向こうのプラットフォームに乗っかってしまっていました。スマートスピーカーは巨大ITプラットフォーマーの主戦場となっているので、例としては適切ではないかもしれないですが、同じような例は他でも見ることがあります。初めから、アマゾンやグーグルとの戦いを放棄しているのです。

 もちろん、どの分野においても日本企業がダメということはありません。例えば配車サービスでは、米国発の「UBER(ウーバー)」を追って「JapanTaxi(ジャパンタクシー)」などががんばっています。配車サービスについていえば、アジア圏ではウーバーが撤退しつつあり、中国の「滴滴出行(DiDi:ディディ)」をはじめとしたアジア発のサービスが進出・台頭してきている状況です。国ごとに法律の違いやレギュレーションがあり、受け入れられるサービスにも独自の特徴がありますので、まだ十分に戦える場はあるでしょう。

今後のイノベーションではグローバルとローカルのバランスが大事

 中国の検索サービス「百度(バイドゥ)」やマイクロブログ「微博(ウェイボー)」といったサービスは、グーグルやツイッターなど米国のサービスをまねて立ち上げられたものです。

 中国市場では外資企業の活動が制限されており、海外から進出する企業にとってアンフェアな条件は確かにあります。しかし、中国で大きく成長したIT企業は米国から学んだものを独自に進化させた後、今や他国へ輸出するまでに発展させています。

 中国は今、悔しいけれど日本より進んでいる分野が増えています。課題はありつつもテクノロジーを使いこなせているということは、世界最先端のAI国家になることが予測できるということ。日本人はそれを嘲笑している場合ではありません。

 中国は広く、貧しい地域もいまだにたくさんあり、マナーがなっていない人もまだまだ多いのは確かです。一方で知性に秀で、グローバルでも引けを取らない富を持つ人もたくさんいます。日本人の、特に上の世代の人の中には中国を小ばかにしたり、下に見たりしている人もいますが、今や大国として米国も抜きそうな勢いです。

 そのほか、個人情報に対する考え方が緩く、著作権の扱いや模倣ブランドといった評価できない部分も中国にはありますが、ダメなところだけを見てバカにし、「安かろう悪かろう」などと言っている場合ではありません。良い商品やサービスもたくさん出てきており、むしろ日本がまねすべきところが多くなっています。

 ITの世界では一時期、グローバル展開によりビジネスを大きくすることが流行していましたが、今ではグローバルとローカルのバランスが大事になってきています。特に米国でトランプ政権が発足してからは、米国も含めた全世界でのビジネス展開が難しくなったこともあって、よりローカルが見直されています。そうした環境の下、日本でももっと日本に特化したサービスを展開してもよいのかもしれません。

 日本は極端から極端に行きがち。「日本に特化したサービスを」となると、昔、台頭したガラケー(フィーチャーフォン)に象徴されるような、日本だけでしか通用しないイノベーションへ走りがちです。これからは、日本に特化した高機能・高性能なサービスや製品を開発した上で、それをそのまま他国へ展開するのではなく、他国で求められるスペックに落とし込んで、グローバルに輸出するビジネスモデルを模索してもよいのではないでしょうか。

<関連記事>  WeChat

 

2.グループガバナンスの教訓 大和ハウス中国合弁会社不正から垣間見えるーアゴラ(2019.6.21)

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/18338389.html

 

1.中国・テンセントはフェイスブックを超えるかー日経BizGate(2019.5.30)

  http://kairou38.livedoor.blog/archives/18269218.html


リクルート遺伝子への挑戦者(2)
日本経済新聞 電子版(篠原英樹)

2019/6/2

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 リクルートホールディングスの足元の躍進を支えているのは海外事業だ。M&A(合併・買収)を繰り返し、2012年3月期に300億円弱にすぎなかった売上高は優に1兆円を超え、全体の売り上げに占める比率が半分近くに達した。急成長の影には、失敗を教訓にした「しくじり先生」がいた。新たな事業への挑戦を繰り返してきた創業の遺伝子が、活路を開いた。

インディード買収

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リクルートの米子会社インディードのオフィス

 リクルートの海外急成長の立役者が、12年に約1000億円で買収したインディードだ。世界で月間2億人以上が使う求人検索サイトを運営、今や「人材業界のグーグル」とまで呼ばれるが、当時の売上高は約90億円。利益はほとんど出ていなかった。

3月
                       
池内が入社2カ月後、リクルート事件が起きた


 海外での成功体験を持たないリクルートにとっては、無謀な挑戦に見えた。この買収案件を、言い出しっぺの出木場久征(
44)と二人三脚で通したのが海外担当役員だった池内省五(57)だ。

 池内の会社人生は、リクルート最大の「しくじり」から始まった。1988年に入社、「社長として創業者として1つ約束するとしたら1人も落後者を出さないことだ」と訴えた創業者の江副浩正の訓示に感動したのもつかの間、2カ月後に「リクルート事件」が発覚し、社内は大混乱に陥る。池内は、東京地検特捜部が社内に乗り込んで令状を示したのを目の当たりにしている。

入社2カ月で事件 

4月
ゼクシイの中国事業は成功しなかった

 人事部門に配属された池内は、1年後に京大大学院で量子力学を専攻したのを買われてスーパーコンピューターに関わるプロジェクトに参加した。リクルートが日本では珍しかったスパコンを購入、企業に時間貸しするなどのITビジネスに取り組み始めた頃だ。ほぼ文系一色の会社だったため、急ピッチで理系人材を採用していた。

 だが長続きはしなかった。リクルート事件で新規事業への機運は失速。スパコンプロジェクトは尻すぼみになった。

 その後、人事畑で順調に出世した池内に転機が訪れたのは05年。経営企画・人事担当役員として海外も担当することになった時だ。当時の大きな課題が結婚情報誌「ゼクシィ」の中国進出だった。

 リクルートは04年にゼクシィ中国語版の発行を開始。上海から北京、広州へと販売エリアを広げていった。経済成長に伴い中間層の生活水準が急速に向上しており、日本式のウエディング需要が高まるとの見立てがあった。 

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               柏村は悩んだ末に中国撤退を決めた


 ゼクシィ中国語版の発行を新規事業提案制度「Ring」で提案したのが柏村美生(
45)だ。自ら現地の司令塔となり、徐々に軌道に乗せていったが、単身赴任が長かったことから08年に帰国。その直後に思わぬ事態が生じる。リーマン・ショックだ。

 海外IT企業で働いていた中国人エンジニアが続々帰国。現地でネットサービスが一気に普及した。当時のゼクシィは紙ベース。情報誌で読者を増やし、読者の数を力にして結婚式場などからの広告掲載費を稼ぐ日本での成功モデルが全く通じなくなった。創業者ともいえる司令塔が不在のまま、ネット対応に遅れていった。

遅かった再登板

 「中国事業がおかしくなっている」。こんな報を受け10年に池内が柏村を再び送り込んだ時にはすでに時遅し。ネット会員の獲得の遅れが響き、競合との差は埋めがたくなっていた。

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               峰岸真澄 リクルートホールディングス社長


 「自力回復は難しい」。わかってはいたが自分が立ち上げた事業だけに撤退の決断を下すのには苦しんだ。その時頭をよぎったのが、中国進出時に社長の峰岸真澄(55)から言われた一言だ。「たとえおまえが失敗してもたかが知れてる。たかが知れてる失敗は日本に帰って稼げばいい」

 柏村が撤退を決断したのは半年後。リクルートが海外事業で撤退するのは初めてだった。「今価値あるモノが、来年も価値があるとは限らない」。柏村はその時の失敗を、今も胸に刻んでいる。

 リクルートが00年代に進出したアジア諸国でのビジネスは、ことごとくうまくいかなかった。池内はその敗因を徹底的に分析した。

 その結果痛感したのは、事業計画の遂行に責任を持つ強い司令塔が、常に現地にいなければならないということだった。

4つのルール

 リクルートは11年、グローバルIT企業として世界に再挑戦すると決めた。その時にたてた4つのルールには、池内の「しくじり」の教訓が込められている。

 (1)何を実現するのかを定量的な目標で示す(2)1人の役員に買収交渉から経営計画の立案、買収後の統合作業までを任せる(3)相手先の状況に応じて少額出資も選択肢とする(4)目標の達成について現地の最高経営責任者(CEO)に委譲する――という内容だ。

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                出木場久征はjンディードを米国で指揮する

 これを定めた直後に訪れたのがインディードの買収劇だった。

 ルールにのっとって、買収交渉から経営計画の立案を担ったのが出木場だ。池内は出木場の上役として買収先との交渉をサポート、社内外の説得に回った。

 「利益も出ない会社を1000億円で買収するといっているらしいね。意味がわからない」。ある社外取締役からはこうなじられた。だが池内には理系出身ならではの確信があった。「最もインディードのテクノロジーが進んでいる」

■巨額買収でリベンジ

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         リクルートが買収した米インディードは世界で月間2億人以上が利用する世界最大の求人情報サイトだ


  「グローバルIT企業になるためには欠かせません」。池内はリクルートのめざす方向とインディードの強みを理詰めで粘り強く説明して回り、交渉から約半年で買収にこぎ着けた。

 賭けは成功した。買収後、出木場はインディードの米テキサスの本拠地にCEOとして常駐し、事業を急拡大させた。18年には求人関連の口コミサイトを運営する米グラスドアを約1300億円で買収。成功体験の連鎖をめざしている。池内は海外ビジネスでリベンジを果たした。

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                 ヤフーに対抗しようとリクルートがつくった「イサイズ」のホームページ


 池内がかつて携わり、頓挫したスパコンビジネスなどに関わったエンジニアたちは、1990年代後半からのネットビジネスの担い手となった。ヤフーに対抗して始めたポータルサイト「ISIZE(イサイズ)」をはじめ、ネットビジネスでも数々の失敗を重ねたが、メディアの「紙からネットへ」の変化に迅速に対応できた。まさに失敗が成功の母となってきたのがリクルートの歴史といえる。

 中国撤退を決めた柏村は今、ゼクシィをはじめとする出版・教育関連を手がける中核子会社リクルートマーケティングパートナーズの社長を務めている。帰国後、池内からも峰岸からもとがめられることはなく「お疲れさんモードだった」

同じ失敗は許さない

 柏村は「失敗がマイナスになる、やり直すという感覚になったことはない。それが社風」と強く感じている。ただし子会社トップとして部下に話す時には「失敗から学ばなければ問題になる。同じ穴に落ちると非常に激しい会社」という怖さも同時に伝えている。失敗からの学びがリクルートを成長させてきたといえる。

 08年のリーマン・ショック以降、リクルートの業績は10年にわたって右肩上がりを続けている。平均勤続年数が10年に満たないことを考えると、失敗を知らない世代が急速に増えている。失敗がなければ学びの機会もなくなる。

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               池内は若手にあえて失敗談を語っている

 リクルート事件、リーマン・ショック
……。危機は忘れた頃にやってくる。65歳の定年が近づいている池内は今、若手社員に自分の失敗談や体験談を、あえてするようにしている。それは失敗から学んできた遺伝子を、継承する作業でもある。=敬称略、

DIAMOND online(室伏謙一:室伏政策研究室代表・政策コンサルタント)

2019/06/25

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写真はイメージです Photo:PIXTA

41日の出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(以下、「移民法」という)が施行されて以降、状況はどうなっているのか。現状と問題点について、指摘したい。(室伏政策研究室代表、政策コンサルタント 室伏謙一)


「移民」受け入れが着々と進んでいる

 41日の出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(以下、「移民法」という)が施行されて以降、「国民の目」が届かないわけではないが届きにくいところで、外国人材すなわち移民の受け入れが着々と進められている。

 例えば、特定産業分野のうち外食業において、「外国人材」として日本で働くための事実上の資格試験である特定技能1号技能測定試験が、42526日に早々と実施され、521日に合格発表が行われた。合格者は347人でその内訳は、ベトナム人203人、中国人37人、ネパール人30人、韓国人15人、ミャンマー人14人、台湾人10人、スリランカ人9人、フィリピン人8人等だ。

 ベトナム人が突出して多いのは、技能実習生としての受け入れ人数が最も多いのがベトナム人であることも背景としてあるのだろう。平成306月末の実績で、在留資格「技能実習」で日本に在留しているベトナム人の数は134139人であり、年々増加する傾向にある。

 ちなみに2番目は中国人で、同じく平成306月末の実績で74909人だ。

 なお、これらの数値はあくまでも在留資格「技能実習」に限ったもので、在留している総数では、ベトナム人291494人、中国人が741656人。多く在留しているイメージのあるブラジル人については、これらの国よりも少なく196781人である。

非常に高い合格率のカラクリ

 この試験の合格率は75.4%であり、非常に高いといえる。

 これは同試験の受験資格の1つとして、『中長期在留者(出入国管理及び難民認定法第19条の3に規定する者をいい、「3月」以下の在留期間が決定された者、「短期滞在」、「外交」、「公用」のいずれかの在留資格が決定された者、特別永住者及び在留資格を有しない者等を除く)であること又は過去に本邦に中長期在留者として在留した経験を有する者であること』と規定されている点が背景の1つとして考えられる。

 つまり、簡単にいえば、既に日本に適法に在留しているか、過去に適法に在留していた経験があるかのいずれかが受験の条件ということ。言ってみればゼロからの受験ではなく、「下駄(げた)」を履いて試験に臨んでいるようなものだ。

 毎日新聞の報道によると、「農林水産省によると、試験は外食業界で2年ほど働いた人の半数が合格する想定で、合格者は飲食店などでアルバイトをする留学生が多いとみられる」とのことだ。

 ただしそうなると、本邦に在留している外国人であって外食業で働いてきた者を使い続けるために、ほぼ「結論ありき」で実施されたと見えなくもない。

 この特定技能1号技能測定試験の試験水準は、『「特定技能」に係る試験の方針について(平成312月 法務省入国管理局)』では、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針について(平成301225日閣議決定)」において、「1号特定技能外国人に対しては、相当程度の知識又は経験を必要とする技能が求められる。これは、相当期間の実務経験等を要する技能であって、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準のものをいう」とされていることを踏まえ、「初級技能者のための試験である3級相当の技能検定等の合格水準と同等の水準を設定する」とされている。

3級相当の技能検定」とは、技能実習生向けの技能検定区分の1つであり、その試験の程度は「初級の技能労働者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度」とされている。曖昧この上ない。

 さらに、試験の方針では『「実務経験A年程度の者が受験した場合の合格率がB割程度」など合格者の水準を可能な限り明確化する』とまで記載されている。

 これでは試験の結果いかんよりも、設定した合格率の範囲で得点上位から合格させることになる。疑り深い見方をすれば、全体的に得点が低い場合であっても合格できることになってしまう。75.4%という非常に高い合格率の背後には、「下駄」に加えてこうしたカラクリがあったというだろう

「移民法」の成立に合わせて設立された団体?

 さて、今回の試験、これを実施したのは移民法を所管する法務省でもなければ外食業界を所管する農林水産省でもない。「一般社団法人外国人食品産業技能評価機構」なる、聞き慣れない団体が実施主体である。

 聞き慣れないのは、それもそのはず。この団体が設立されたのは本年121日。会員は外食、中食、食品製造等の関連団体だ。

 移民法の成立に合わせて設立されたであろうことは明らかである。

 一方、試験を作成したのはこの団体ではなく、一般社団法人日本フードサービス協会だ。同団体は外食産業の業界団体であり、誰でも知っているような外食店舗を展開する企業が会員として名を連ねている。

 これらの団体は、移民法成立直後に行われた「平成30年度農業支援外国人適正受入サポート事業(外食業分野における外国人材の適正な受入れ体制の構築)」の公募で、試験の実施準備団体、試験の作成団体としてそれぞれ選定されている。

 公募期間は平成301225日から翌31121日まで。勘のいい読者であればもうお気づきだと思うが、試験実施団体の設立日と平成30年度公募事業の締切の日が同じである。普通に考えれば、団体が設立された日に締切になる公募事業に応募することなど、不可能とは言わないまでも困難であり、極めて不自然だ。

 そして、平成31年度(令和元年度)の公募は、30年度の締め切りからわずか2週間程度しかたっていない26日から行われ、同月26日に締め切られ、それぞれ試験実施団体および試験作成団体として選定されている。

 もちろん、事業の継続性や安定性の観点から、前年度に実施した事業者が引き続き選定されるということはありうるし、そのために形式的に公募を行うこともありうる。

 しかし、前年度の公募開始からの一連の流れを考えれば、とにかく早く外食業への移民の受け入れを実現したい、できるだけ早く「外国人材」という名札をつけた移民を受け入れて、働いているという実績を作りたい、その結論に導くための形式的なもの、別の言い方をすれば、「結論ありき」の出来レースであると見られても仕方あるまい。

何のための制度や手続なのか

 そもそも、今回の特定技能1号技能測定試験の実施に当たっては、受験者に学習して「いただく」ために、ご丁寧に日本語およびベトナム語の両言語でテキストまで用意されている。

 これらのテキストは試験作成団体である日本フードサービス協会のサイトからダウンロードでき、当然のことながら無料である。

 テキストには(1)接客全般、(2)飲食物調理、(3)衛生管理の3種類があるという手厚さ。これでは試験というより、より多くの移民受験者に合格してもらうための、カタチだけの「試験モドキ」、「一応やりました」という単なるアリバイ作りであると揶揄(やゆ)されても仕方あるまい。

 外国語の教材がベトナム語のみ用意されていることからも、ベトナム人アルバイトや技能実習生が引き続き就労できるようにするためであることは明らかだ。

 これでは何のための制度や手続きなのか分からない。

 むろん、この試験に合格しただけでは特定技能一号外国人として外食産業で就業することはできず、日本語能力試験にも合格する必要がある。

 しかし、その日本語能力試験についても、先の基本方針においては、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有することを基本としつつ、特定産業分野ごとに業務上必要な日本語能力水準が求められる」とされている。

「観光客に毛が生えた程度」のレべルと評せざるをえない

 試験の方針では「基本」の水準については、(1)ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる、(2)簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる、および(3)自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる、等の尺度をもって測定することが考えられるとしている。

 端的に言って、これでは「観光客に毛が生えた程度」のレべルと評せざるをえないだろう。

 日本語能力試験は、国内にあっては日本国際教育支援協会が実施する日本語能力試験(N4以上)であり、国外にあっては独立行政法人国際交流基金が実施する日本語基礎テストである。

 その認定の基準も、前者については、「読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」、「聞く:日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」であり、後者については「ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる。自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる」である。

 

いずれも日本において、「特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる」という日本語の能力には程遠いと言わざるをえないだろう。

 既に特定技能1号技能測定試験は第2回試験も決まっており、624日から28日にかけて東京、大阪他主要都市で実施される。おそらく、それ以降も引き続き実施されることになるだろうし、その結果、拙速と言いたくなる速さで移民が流入してくるだろう。

百害あって一利なしの「愚策」直ちに見直すべき

 その先に待っているのは、何か。

 まず容易に想定されるのは「当たり前」の違いや円滑な意思疎通が困難であることによる現場の混乱等であり、そうしたことにより、希望に胸を膨らませて就業した移民たちは、多くの壁にぶつかることになるだろう。

 それに加えて商習慣、生活習慣、文化、宗教等のさまざまな壁があり、これらは一朝一夕で越えられるものではない(そもそもそれを越えようという意思や考えはないかもしれないが)。

 残念ながら、こうしたことはほとんど話題になっていないし、問題視し、国会で質疑している国会議員を、少なくともこの通常国会においては見たことがない(おられるのであれば、ぜひ積極的な情報発信をお願いしたい)。

 加えて、移民たちは日本側や日本企業側の都合で、不要になったら帰ってくれるわけではない。彼らは生活の根拠を母国から日本に移しているのであり、彼らは生活をかけ、「人生をかけて」日本に来ているのである。

 気がついたときには「既に手遅れ」となる前に、日本社会にとっても日本人にとっても、そして移民たちにとっても百害あって一利なしの「愚策」は直ちに見直すべきであろう。 

DIAMOND online(山口 博:モチベーションファクター株式会社代表取締役)

2019/06/25

 
エレベーターや電車内で中国人が大声を出している風景に出くわすことが多い、と日本人は思っている。しかし、中国人からは、日本人はなぜ不機嫌に黙り込んでいるのかと思われている。その認識のギャップは、中国人と日本人のモチベーションファクターの違いにある。(モチベーションファクター代表取締役 山口博)

公共の場で黙りこくる日本人は「不機嫌の塊」に見える

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エレベーターや電車の中で会話をすることは是か非か。マナーの良し悪しではなく、日本人と中国人の考え方の違いが現れている 
Photo:PIXTA

 中国人のビジネスパーソンO氏と、日本のオフィスビルでエレベーターに乗っていた時のことだ。すし詰めというほどではないが、数人の人がいて、皆、黙って乗っていた。

 O氏が私に話しかけてきた。O氏の普段の声量なのだが、シーンとしたエレベーターの中では声が響き、乗っていた人の中には、はっとした様子で振り向こうとした人もいた。私は「降りてから話しましょう」と言って、O氏をやんわりと制した。

 その後、O氏から言われたことが忘れられない。「日本人は、エレベーター内でなぜ、あんなに黙りこくっているのか。電車の中でも同じだ。1人で乗っている人はまだしも、複数で乗っている人同士、なぜ、普通に会話をしないのだ。会話をしていたとしても、ぼそぼそと、まるで内緒話をしているかのようだ。日本人はまるで不機嫌の塊ではないか」という意味の内容だ。

 日本のオフィスビルのエレベーターには、「エレベーター内では会話を慎みましょう」「ビジネス会話はご遠慮ください」と、表現こそさまざまだが、会話を控えることを勧める掲示がされていることが多い。ビジネス会話を禁止しようとしているのは、社員向けの機密保持目的のメッセージだろうが、会話をしないことを勧めているのは、他の乗客への配慮だ。その間、同行者がいれば、同行者に対して話すことは遠慮するということが推奨されている。

 電車の中でもそうだ。「携帯電話は設定をマナーモードにして、会話はお控えください。優先席付近では電源をお切りください」という放送が流れたり、掲示がされている。電車の中で大きな声で話すことは、他の人の迷惑になるというように考えている人が多い。

日本人と中国人のマインドの違いとは

 O氏に、そのことを伝えると、エレベーターや電車で話をするのは「同行相手への配慮」、携帯電話で話すのは、「通話相手への配慮」だと言う。やんわりと、表現を考えながら、「しかし、中国の人同士が話している様子は、日本人からは、まるで激論を戦わしているように見える。周りにいる人から見れば、結構気になるものだ」と言うと、「日本人からはそう見えるのか。楽しく会話をしているだけだ」と答える。

 どうやら、O氏と私で、思いやる相手が食い違っていることがわかった。私は、他の乗客を思いやるために、エレベーターや電車で会話をしないと言っており、O氏は、同行している相手を思いやるために、会話をすべきだと言っているのだ。

 中国の人同士の会話が激論なのか、楽しく会話しているかはともかく、思いやる相手の範囲が広い日本人は、調和志向の度合いが高いといえる。一方、中国人は日本人ほどには、周囲との調和を志向しない国民性なのではないだろうか。

 このことは、私が中国各都市で実施しているリーダーシップスキル向上演習の結果からもわかる。私は、人それぞれで異なるモチベーションファクター(意欲が高まる要素)を「牽引志向」と「調和志向」にわけている。

「牽引志向」には3つの要素――目標達成、自律裁量、地位権限がある。一方、「調和志向」には、他者協調、安定保障、公私調和の3要素があると考えている。

 牽引志向と調和志向は、いわば肉食系と草食系、狩猟型と農耕型の区分のイメージで、中国では、「狼型」と「羊型」というように同時通訳の人が訳してくれている。

 牽引志向と調和志向の比率を見ると、日本と中国のビジネスパーソンの違いがよくわかる。日本のビジネスパーソンは、牽引志向が51.4%で調和志向が48.6%であるのに対して、中国のビジネスパーソンは60.0%40.0%なのだ(モチベーションファクター株式会社調べ)。

 どちらが高いか低いかということは、良しあしではなく、それぞれの特性だというように捉えればよい。いわば、文化の違い、価値観の違いということを、漠然とした印象で持つのではなく、数字で把握していこうという試みだ。数字で把握すれば、感情を排して、客観的に事象を捉えやすくなる。

「日本人は不機嫌そうにしている」「中国人は公共の場で無遠慮に激論をかわしている」という印象を持つことにとどまれば、溝はいつまでも埋まらない。これを、お互いのモチベーションファクターの違いがそうさせているというように客観的に捉えれば、相手を尊重しようという気持ちが高まってくるのではないだろうか。

 

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