天牛(紙切り虫)

「新聞」・「メルマガ」等のニュースをまとめて紹介

日本経済新聞

2020/10/26

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日本語学習支援に通う日系ブラジル人の男子高生()(愛知県豊田市)=共同


日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数が全国最多の愛知県で、外国人らを対象にした県の学習支援事業が好評だ。4年目に入って対象地域も広がり、受講者が増え続けている。日本語学習だけでなく、必要に応じて就労や福祉、多文化共生の各支援団体を紹介することでネットワークづくりにも役立てている。

県が実施するのは「若者・外国人未来応援事業」。文部科学省によると、愛知県は日本語指導を必要とする外国籍の児童生徒数が9100人(2018年度調査)で全国最多。読み書きを重視し、教科の学習もサポートすることで、会話に重きを置く地域の日本語教室と違いを出している。

日本語の学習支援は当初、名古屋市内だけだったが、特にニーズが高い豊田市、豊橋市も対象に加えた。豊田市の会場で勉強していた日系ブラジル人の男子高校生(16)は3年前から友人と一緒に週1回、通う。「家族とはポルトガル語で会話するので学校の日本語は難しい。ここでは一人一人に分かりやすく説明してくれる」と話す。

同会場担当の市青少年センターの鈴木光行副所長は「外国人生徒の場合、授業についていけない原因を突き詰めると、日本語の知識不足ということが多い」と指摘する。

事業では就職やキャリアアップのため、日本人と外国人の高校中退者らを対象に、高卒認定試験の受験勉強も指導する。週12回、24時間の枠があり、時間内であればいつ来てもよい。強制しないのも特徴で、本年度は9月までに延べ959人が参加した。

19年度には「支援員が勉強以外にも相談に乗ってくれ、諦めずに通えた」「勉強が楽しくなり、この場所に来てよかった」といった声が寄せられた。事業は17年度に始まり7地域まで拡大。22年度までにさらに2地域を追加する予定だ。


SankeiBiz (藤村幸義:拓殖大学名誉教授)

2020.10.27

 

 日本政府は今年春、「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」政策を打ち出した。これに呼応して中国に進出している日本企業から、補助金応募が殺到している。米中経済摩擦や新型コロナウイルスの発生に嫌気が差して、中国からの日本企業撤退が加速していくのだろうか。

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※画像はイメージです(Getty Images


 先行締め切りでは57件、約574億円が採択された。さらに第2次では1670件、約1兆7640億円分の申請があった。予備費による追加措置があったものの、残りの予算額に対し約7倍もの応募額である。日本政府は来年度も予算継続していく考えという。これらの申請の中には、中小企業だけでなく、名の知れた大企業もいくつか含まれている。

 こうした動きに、中国側は神経をとがらせている。人民網日本語版は、コロナ対策の補正予算に占める割合から見れば、補助金の規模は微々たるものであるし、現在中国に進出している約3万5000社もの日系企業数からみても、申請企業数は5%にも満たない、と強調している。また、製造業の労働集約型産業が中心なので、影響は少ないとも指摘している。

 実際にはどうか。中国当局の発表によると、今年上半期の世界からの直接投資受け入れ額は、元建てで前年同期比1.3%減となっている。新型コロナの影響が出ているが、それでも後半になるにつれて回復基調がみられ、とりわけ6月は増加に転じている。日本の対中投資についても、同じような傾向にあるとみられる。

 日本企業の中には、さまざまな問題はあっても、中国の巨大な国内市場は捨てきれない、というところがある。その代表は自動車だ。9月末から行われた北京モーターショーでは、日本の主力メーカーも電気自動車(EV)など最先端の技術を駆使した新型車を出品し、今後の市場展開に意欲をみせている。

 もっとも米中経済摩擦は今後も長引くと予想されるし、中国の市場開放が不十分な点も依然として指摘されている。中国政府の強圧的な周辺外交にも強い懸念が残る。日本貿易振興機構(ジェトロ)の「進出日系企業実態調査(2019年8~9月実施)」をみても、今後1~2年の中国事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業の比率は下落している。

 日本企業は、米中経済摩擦などによる投資環境の悪化を嫌気するか、あるいは巨大市場の需要増に望みを託すか、難しい判断を迫られ、二分化の傾向を強めていくことになりそうだ。

 

SankeiBiz(編集部)

2020.10.27

 陳列棚からほしい商品を手に取って無人のレジ前に立つと、商品と合計金額がディスプレイに表示され、ICカードをかざすだけで買い物が済んでしまう-。まるで近未来のSF映画に出てきそうな店舗が今月16日、JR山手線の目白駅(東京都豊島区)構内に誕生した。レジで商品バーコードをスキャンしていないのに、どうやって商品を識別しているのか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で注目される無人決済。人工知能(AI)技術を活用した最先端の買い物を体験した。

商品の認識精度は9割超

 AIを用いた無人決済ができるのは、「KINOKUNIYA Sutto(キノクニヤスット)目白駅店」。JR東日本グループの高級スーパー「紀ノ国屋」初の無人決済店舗だ。自動ドアを抜けて店内に入ると「GO」と書かれた入場ゲートが設置されており、近づくと自動で開いた。売り場面積40平方メートルほどの小さなスーパーだが、紀ノ国屋のオーガニックドリップコーヒーなどオリジナル商品も並び、品ぞろえは豊富だ。

 AIは本当に商品を識別できるのだろうか。実際に商品を買って試してみた。おにぎりや弁当、ジュースの陳列棚の前で商品に手を伸ばしつつも商品には触れず、近くにあったコールスローサラダをさっとに手に取った。菓子が並ぶ棚では、歩きながらマヨネーズカレー味のおかきを手にして、そのまま「決済エリア」のレジ前へ。さしものAIも、こんな紛らわしい人間の行動までは検知できまい。

 そう思ったのもつかの間、タッチパネル式のディスプレイには実際に手にした商品が正確に表示されている。内容を確認して誤りがなければ、そのまま交通系ICカードやクレジットカードで決済。支払いが終わると出口のゲートが開いた。

 スーパーやコンビニエンスストアに設置されている「セルフレジ」では、買い物客が自分で商品のバーコードをスキャナーにかざして読み取らなければならないが、キノクニヤスットではそういった煩わしさはない。その手軽さは衝撃で、店舗のキャッチフレーズ「はいる。とる。でる。」の通りである。

 購入した商品をよくみてみたが、ICタグ(電子タグ)が貼られているわけでもない。商品を識別するための専用の買い物かごを利用しなければいけないといった制約もない。にもかかわらず、なぜ正確に商品を認識できるのか。

「商品認識の精度は9割から95分。人の動き、モノの動きを見ているのです」

 こう語るのは、システムを開発したITベンチャー「TOUCH TO GO」(タッチ・トゥー・ゴー)の阿久津智紀社長だ。店内の天井には30台のカメラが取り付けられ、陳列棚にもセンサーを設置。買い物客と商品の動きをリアルタイムで捕捉しているのだという。買い物かごを使わず、手に取った商品を持参したエコバッグに入れていくことも可能だ。

 レジが無人であることで気になるのは万引き被害だが、自分のバッグや服のポケットに商品を入れたまま、決済を経ずに退店しようとしても、出口のゲートは開かない。商品補充などのために店内には必ず1人以上の店員を配置している。同店の坂井睦生店長は「30台のカメラが抑止効果につながっています」と話す。

コロナ禍での感染防止対策としても注目


 スタートアップ企業を応援している「JR東日本スタートアップ」と、システムコンサルティング会社の「サインポスト」が合弁で設立したタッチ・トゥー・ゴーは、JR山手線高輪ゲートウェイ駅開業後の今年323日、AIによる無人決済のコンビニ「TOUCH TO GO」を開店。キノクニヤスットはタッチ・トゥー・ゴーが開発した無人決済システムの外部導入第1号店となった。

  阿久津社長は「副産物的な影響ではありますが、非対面決済なのでコロナ禍で安全に買い物ができ、また従業員を感染から守ることにもつながるとして、多くの企業から問い合わせをいただいています」と明かす。レジを無人にすることで省人化、省力化を図るのが狙いだったが、昨今の情勢を踏まえ、店舗の従業員と買い物客の接触を避け、感染防止に寄与する技術としても期待が高まっているという。


 キノクニヤスットの坂井店長は「ちょうど今の情勢に合ったシステムで、コロナ禍でも非常に有効であることが分かりました。開店直後はもう少しドタバタするかと思いましたが、おかげさまで順調なスタートを切っています」と無人決済システムを評価する。

 商品の認識精度は9095%と高いが、さらに精度を100%に近付けるため、AIが商品を混同しないように、商品と商品の間隔を少し空けて陳列するといった工夫もしている。キャッシュレスの店舗だが、決済時に「現金が使えない」と訴える買い物客もいるといい、坂井店長は「来年から現金も使えるように検討を進めています」と語った。

 キノクニヤスットに導入された最新のAI決済技術。全国的な普及にはさらなるコストダウンや、保守メンテナンスなどの拠点整備といった課題も残っているが、人手不足解消の切り札としてだけでなく、コロナ禍での感染防止対策としても、大きな期待が寄せられている。

AI技術を活用した無人決済店舗「KINOKUNIYA Sutto(キノクニヤスット)目白駅店」の店内(SankeiBiz編集部

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アゴラ(八幡 和郎:評論家、歴史作家、徳島文理大学教授)

20201027

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東京・六本木の日本学術会議(編集部撮影)

日本学術会議の前会長で京都大学元総長でもある山極寿一氏が、京都新聞で「学問の自由とは何か」を語っているが、そのなかで、

『そもそも「学問の自由」とはいったい何からの自由であるのか。それは国家権力からの自由である』

 

と断言している。

山極先生の理屈だと、ヒトラーやスターリンやイスラム原理主義者が大学教員の多数派になってとんでもない学問をやったり気に食わない研究や研究者を排除しても学問の自由の侵害にならないし、国は黙って金を注ぎ込み大学の自治を尊重しなければならないことになる。

山極氏が長年研究してきたゴリラの世界では、そういうグループのなかでの強い者勝ちが正義なのかも知れないが、人間の世界ではそういうものではあるまい。

山極氏は

「アカデミック・フリーダムとユニバーシティ・オートノミー、すなわち学問の自由と大学の自治であった。いかに国家の圧力から研究する自由、発表する自由、教育する自由を確保するか、そしてそれを実現するためには大学の自治が不可欠ということである」

という。

たしかに、国家権力が学問にとって最大の脅威であることは確かであろう。しかし、宗教や思想団体、政党や政治団体、マスコミや大衆運動など学問の自由を脅かす脅威は多様である。

筑波大学助教授が何者かに殺害された悪魔の詩訳者殺人事件はイスラム過激派によるものとされているし、紅衛兵や学生運動の過激派によってどれだけ学問の自由は侵害されてきただろうか。

また、

「学問の自由は何を研究してもいいということではない。研究者とは長年の研鑽を経て突出した知識と技術を持つ職業人であり、その能力は同分野の学者たちによって不断に評価されねばならないし、社会の福祉と発展に寄与する上で明確な倫理意識を持たねばならない」

というが、学問の自由の侵害は学会の多数派による少数派の弾圧ということが多かったのではないのか。

「同分野の学者」などという仲間内の論理で勝手な倫理意識を押しつけていいものなのか。さらに、「同分野の学者」でない部外者が彼らの仕事を批判したら、部外者は我々の仲間内の多数派の意見に従うべきだと開き直って部外者にまで自分たちの領域のルールに従えと主張する輩までいるのは、私も多く経験済みだ。

そして、大学の自治で研究者に統制を加えることは自由だという趣旨に読み取れるが、それで学問の自由を侵害されたり、私的な言論活動まで制約を受けている研究者は枚挙にいとまないだろう。

さらに、山極氏は国立大学についてだけ話しているが、私学においては、設置者の意向を無視できないわけで、それとのバランスはどうなるのか。大学でなく研究機関はどうなるのかなど、単純に割り切れない問題は多い。

どうも、京都大学のような、立派な権威があって従来から豊富な研究費をもらっている大学の教授にとって、勝手気ままに振る舞えることをもって学問の自由とうぬぼれているらしい。

おりしも、山極氏が所属していた霊長類研究所では、以前から問題にされてきた数十億円規模の不正経理問題の全容解明に向かって動き出している。いまのところ山極氏自身の問題ではないが、常識的に考えて、その組織でこのような大規模な不正が行われていたときは、それが組織内に蔓延していたことも疑うべきだし、山極氏のような周囲の研究者も気がついていた可能性が強いといっても邪推とはいえないだろう。多くの京都大学関係者が山極氏への影響を心配していたところに、学問の自由の旗手として登場されたのは、風俗スキャンダルから蘇った元高級官僚の手法に似たものを感じる。

山極氏の生きてきた世界では、国の研究費を適正に使うなどと言われない学問の自由を満喫していたのではないか。

つまるところ、学問の自由は人類にとって絶対的に重要なのは間違いないが、問題にされるべきなのは政府からの干渉だけで、仲間内でのリンチを容認するのも学問の自由、大学の自治だとかいうのでは、失礼ながらゴリラ以下の世界でしかない。

学問の自由は赤い象牙の塔の利権擁護の道具でなく、もっと人類にとって崇高な目的に資するからこそ意味があるのではないか。

八幡 和郎

評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。

 

 

「電波の開放」が未来の変革に繋がっていく

東洋経済オンライン( 英史: 政策工房代表取締役社長)

2020/10/27

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菅政権ではデジタル化推進が大きな課題になっています(写真: Graphs PIXTA

 

急速なデジタル化が現政権で掲げられる中で、さまざまな課題も浮き彫りになっています。政策工房代表で『国家の怠慢』を上梓した原英史氏は、今こそ電波分野での規制改革をすべきだと主張します。その真意はどこにあるのでしょうか。

菅政権では「規制改革」が最重要課題だ。喫緊の懸案が「デジタル変革(DX)」への対応であることは論をまたない。オンライン診療もオンライン教育も、行政・官民の諸手続きのデジタル化(象徴的には印鑑の問題)も、技術的にはとっくの昔に可能になったことが、規制で阻まれてきた。長年課題とされてきたがなかなか進まず、コロナ禍で問題が露呈した。

「デジタル変革」は、古い仕組みからの転換を伴う。古い仕組みにはしばしば利権がへばりついていて、規制を隠れ蓑に変革を阻む。だから、多くの分野でちょっとしたオンライン化が思わぬほど抵抗を受けるが、その代わり、ひとたび進めば、それぞれの分野で根本的な変革につながる。「デジタル変革」を進める価値は大きい。

裏側にある重要課題が「電波」

「デジタル変革」の進む社会を支える基盤として、裏面にある重要課題が「電波」だ。AIもロボットも自動走行も自動飛行も、電波がなければ機能しない。

例えば「スマート農業」で、農作物の状況をセンサーで把握し、無人ドローンで最適な肥料散布をしようとすれば、センサーからデータを飛ばすにもドローン操作にも電波がいる。「スマート防災」「スマート工場」「スマート建設」「スマート介護」なども同様だ。

旧来の移動通信(携帯電話)は、基本的に人と人をつないでいた。これからは、人口をはるかに上回るモノとモノが電波でつながり、データをやりとりするようになる。電波の重要性は飛躍的に高まっていく。

ただ、問題は、電波の帯域は有限で、とりわけ使い勝手の良い帯域は希少であることだ。電波は歴史的には、最初は防災・救急などの「行政」が主たるユーザーで、その後ラジオ・テレビの「放送」が現れ、1980年代以降に「携帯電話」が加わった。

使い勝手の良い帯域は、古くからの住人にとっくに占有されている。そこで、いかに帯域をあけるかが重要になる。

「電波の開放」は、最先端で未来を切り拓けるかどうかに直結する。このため、アメリカではオバマ政権下の2012年、まず「行政」をターゲットに、連邦政府用の周波数から最大1000メガヘルツ幅を官民で共用する「周波数スーパーハイウェイ」構想が打ち出された。イギリスでも2010年頃から目標を定めて公共用周波数の民間開放が進められた。

日本でもやや遅れて2017年頃から、政府の規制改革推進会議や自民党行政改革推進本部でこうした議論がなされた。当時の河野太郎本部長のもとで、「ブラックボックス状態の解消」「公共用周波数の資産価値の精査を行い、政府資産として管理・有効活用」などを求める提言も出された(自民党行政改革推進本部官民電波利活用PT「公共用周波数の民間開放に関する緊急提言」20175月)。だが、その後の実現状況は不十分で、課題が残されている。

ブラックボックス的な色彩が濃い

「電波」が特殊なのは、政府が割り当て権限を握り、特に日本の場合、「すべては総務省の判断次第」というブラックボックス的な色彩が濃いことだ。

不動産と対比してみると、例えば賃料の安いエリアで、ゆとりある広大なオフィスを構えている企業があったとする。あるとき何らかの事情でそのエリアのオフィス需要が急激に高まれば、賃料が上がり、その企業は自ずと余剰スペースを放出し、新規参入者が入りやすくなる。

ところが、電波ではこうしたメカニズムが働かない。総務省が割り当てを行い、いったん割り当てがなされれば、行政部門なら通常無料、民間事業者でもリーズナブルな賃料(電波利用料)で使える仕組みだからだ。

もちろん、有効に利用されているかどうかを総務省がチェックし、必要に応じ再編することにはなっている。ただ、この仕組みの限界は、旧来の占有者に自ら効率化を図るインセンティブがなく、また、政治力の強い占有者にはどうしても手を出しづらいことだ。

典型例が「放送」だ。日本では地上波デジタルテレビは40チャンネル分、帯域でいうと470710メガヘルツという広大な領域を占めている。言うまでもなく、実際に運営されているチャンネル数はそんなに多くはなく、せいぜい8つ程度だ(地域によってはずっと少ない)。

放送事業者の言い分は、電波が県を越えて飛び混信するのを防ぐためチャンネルを使い分けなければならず、これぐらいの帯域が必要、ということだ。これに対し、縮減できるはずとの主張は以前からあった。

かつて規制改革推進会議でもこの問題を議論したが、放送事業者の答えは結局、帯域をあけることは不可能ではないが、再編にはコストがかかり「経済性」の問題がある、とのことだった。

つまり、問題はコストなのだ。NHKも民放も、40チャンネル分の帯域を占めていても微々たるコストしかかからない。電波使用料を払うのは40のうち実際に使われている分(茨城県ならばトータルで7チャンネル分)だけであり、金額でみると全国放送のNHKで年間25億円、民放キー局はそれぞれ6億円程度にすぎない(2019年度)。それでは、わざわざコストをかけ帯域を効率化しようとするわけがない。

ほかにも、「NHKEテレは基本的に全国同一なのだから、衛星放送に切り替え、地上波帯域をあけられるはず」などの議論もある。さらに、番組のインターネット配信は今後もっと本格化していく。県ごとのローカル局がそれぞれ放送波で番組を流す構造は、そろそろ見直すべき時期だ。

市場メカニズムを活用するアメリカ

だが、こうした議論も一向に進まない。帯域占有があまりに安価で、効率化のインセンティブが働かず、一方で、総務省や政治はテレビにはなかなか手を出せないからだ。

アメリカでは、帯域をあけるため20162017年に「インセンティブオークション」が実施された。従来テレビ用だった614698メガヘルツ帯域をオークションで買い上げ、通信事業者に売却する2段階のオークションだ。結果的に約100億ドルで買い上げ、約200億ドルでTモバイルなどに売却された。

中国では20204月、従来は放送用だった700メガヘルツ帯の96メガヘルツ幅が移動通信用に用途変更された。市場メカニズムを活用するアメリカと、政府が強力に再編を進める中国。その狭間で、どちらも中途半端な日本が「電波の開放」に出遅れるようなことになってはいけない。

「電波オークション」は、古い政策課題だ。「規制緩和」が潮流となった1980年代から、世界各国で盛んに議論された。かつて20世紀終盤までの世界では、西側諸国でも一定の経済統制が標準的だった。

運輸・通信・電力・金融など多くの分野で、政府が価格や供給量を統制し、あるいは、最も強力な規制態様である国営・公営の事業運営がなされていた。転換の先がけとなったのがカーター政権の航空自由化で、その後、レーガン政権、サッチャー政権で規制緩和と民営化が強力に進められ、世界に広がった。日本でも同じ時期、中曽根政権で国鉄や電電公社の民営化などが実現した。

根底にある考え方は、政府の役人が経済活動をすべて把握して最適配分などできるわけがない、ということだ。経済活動が大きく広がり複雑化する中で、政府の統制は非効率や成長阻害など負の側面が拡大していた。

オークションで入札額に応じて割り当てる

「電波オークション」もその1つだ。かつては世界各国とも、誰に割り当てるべきかは政府が判断する「比較審査」方式がとられていた。しかし、政府の役人は「全知全能」ではないし、政治的圧力で歪んでしまうこともある。それならば、「オークション」で入札額に応じて割り当てたほうが、公正に有効利用が図れるはずだ。

もともとは経済学者のロナルド・コースが1950年代に提唱し、「規制緩和」の流れの中で議論が本格化し、1980年代末以降、携帯電話の普及とともに世界各国で導入された。今や、先進諸国はもちろん、インド、タイ、台湾などにも広がっている。

実務の進展と連動して学術研究も進み、2020年ノーベル経済学賞には、電波オークションの理論的研究を行ったスタンフォード大のポール・ミルグロム教授、ロバート・ウィルソン名誉教授が選ばれた。ミルグロム氏が制度設計を担った2G周波数オークションの成功は、3G以降に多くの国でのオークション導入につながったとされる。

そうした中で、OECD諸国で唯一、「電波オークション」を拒み続けてきたのが日本だ。議論は前世紀からあったが(1995年~行政改革委員会規制緩和小委員会など)、総務省(前世紀には郵政省)、携帯事業者・放送事業者など既得権者が強力に反対し、導入が阻まれてきた。

なお、世界各国でオークションが導入されているのは基本的に携帯電話への新たな割り当てに際してだ。本来は放送事業者はあまり関係ないはずだが、一緒に対象にされるとの危惧からか、強力な反対を続けてきた。

オークションに反対してきた理由

規制改革推進会議での議論などを経て、2019年になってようやく、電波法改正で「価格競争の要素を含む新たな割当方式」が創設された。先進各国から20年以上遅れ、現在5G用の1.7ギガヘルツ帯で導入が準備されつつあるが、価格競争がどの程度機能するかはこれからの段階だ(制度上は、価格競争の要素が99%でも1%でもよいことになっている)。

総務省や携帯事業者がオークションに反対してきた理由は、(1)オークションを導入すればコスト負担が嵩み、通信料金を上げざるをえなくなる、(2)コスト負担から設備投資が遅れる、(3)外資参入で安全保障上の問題が生じる、といったことだ。

このうち(3)は、必要な外資規制は導入すればよいだけの話で、そもそもオークションとは関係ない。比較審査方式のもとでボーダフォンが参入していたことも周知の事実だ。

1)と(2)についてはどうか。日本の現状をみれば、通信料金は、オークションを導入した各国と比べ、むしろ高い。設備投資では、4Gの通信品質は比較的良かったが、5Gではアメリカ・韓国などに大きな後れをとった。

結局、日本の携帯事業者は、世界で稀な「安価に電波を利用できる環境」を与えられながら、これを活かせず、寡占状態で顧客を囲い込むビジネスモデルに安住してきた。

その一方で、アップルとの不当な取引関係など、GAFAはじめグローバルな巨大事業者からは利益を吸い上げられ、結局は消費者に転嫁してきた。

希少な電波の帯域上で、不健全な市場ができあがっていたわけだ。総務省は長年、「電波割り当ては自分たちに任せてもらえれば、最も有効な電波利用を実現できる」と主張していたが、この結果をみても、主張は破綻しているように思える。

菅政権で「携帯料金引き下げ」が課題とされているが、根本的な課題は不健全な競争環境だ。総務省は、携帯電話市場において、健全な競争環境の実現に失敗してきた。

前世紀からの歴史に話を戻すと、1980年代の初期には「規制緩和」(deregulation)という言葉が世界中で用いられた。これが1990年代以降「規制改革」(regulatory reform)と言い換えられるようになる。考え方は、規制は単にすべてなくせばよいのではなく、必要なルールは設けて競争を促進し、市場が適正に機能するようにしなければならない、ということだ。

例えば、電電公社を民営化して通信自由化がなされた当時、NTTは巨大な存在で、ただ「新規参入が可能」といっても独占状態が続くだけだった。そこで、支配的事業者に特別な義務を課す「ドミナント規制」を導入し、NTTの通信網の開放を進めた。市場メカニズムを実質的に機能させるために「競争促進」を行い、その成功で通信産業は大きく変貌した。

新規参入と競争を促進する必要

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今なすべきことは、かつての通信行政に改めて学び、新規参入と競争を促進し、本来の「規制改革」を実行することだ。例えば、電波割り当てでは、新規参入者への優遇などもあってよいはずだ。国内市場だけでなく、世界での競争環境にも目を向けなければならない。

グローバルな巨大企業への独禁法適用は課題だ。また、世界ではATTがタイム・ワーナーを買収するなど、業態を超えた大再編が進む。日本で大再編を妨げかねない規制(例えば、認定放送持株会社の議決権保有は3分の1までしか認められないなど)は見直していく必要があるだろう。

また、本稿前半で述べた「行政」「放送」帯域から「新たなニーズ」への切り替えも不可欠だろう。こうした規制改革を本気で進めず、その場凌ぎの料金引き下げだけに終わるようならば、日本の経済社会の未来は拓けない。

 

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